第31話 シティリアの初来日・中編

 所変わり、私とシティリアとマリの3人は、とある街まで来ていた。先日、飯田の持ってきた彫像の中から異物が出てきたため、異物の探索に来たのである。なお、異物は村瀬さんに預けており、異世界に持ち帰って調べてみるとの事。


 今回は飯田のお手柄とも言える。つまりどういう事かというと、砕いた彫像の一部に、普通とは違う色の石の欠片が入っていた。それを見た飯田が『見た事がある』ということで、飯田の部屋から持ってきた鉱石図鑑と照らし合わせてみると、一致するであろう岩石が判明したのだった。


 その岩石は“日本の特定の地域”で算出され、彫像品として彫刻家に愛用されている。更に彫刻家たちは、その地域で活動している方々が多いという事から、この地域で何か情報が得られないかと、現地で調査中である。


 彫像の中から出てきた異物は、“それ単一では意味を成さないもの”のような形をしていて、これもまた偶然から得た知識なのだが、シティリアの家から出てきた“異物についての研究を記録した本”に、酷似した異物が載っていたのをシティリアが覚えていたので、今回の探索に踏み切ったという経緯となる。


 “装置としての役目を持つ種類の異物”。シティリアの本にはそう書かれていた。しかし実際に目で見てみるまでは何とも言えない所がある。研究を記録した本がすべて正しいとは限らないのだから。


 私たちは街の中心に比較的近い所へ到着し、シティリアに異物の広域探知魔法を使ってもらった。


「う~ん……。反応は、無い、わね……」


「そうか、まぁそんなすぐには見つからないよなぁ。もう一つの片割れの異物も、彫像みたいなので魔力コーティングされていたら……」


「見つからないでしょうね」


 第一の試みは失敗。次に取る手段もシティリア頼みになってしまうが、もしもコーティングされた状態で異物がこの街にあるとするならば? そう、シティリアなら魔力感知で場所が分かる。ただし、近場で無ければ分からない……。


 そこで、第二の手段は彫刻家たちが多く住んでいると言われている住宅街へ赴く事。


 付近を探索していればもしかしたら、魔力感知に引っかかるかもしれない。とはいえ、この街には、彫刻家含め、多くの芸術家さんたちが住んでいる。地道な作業ではあるが、片っ端から当たっていく事となるだろう。


 しかし、街並みを歩いているだけでも普通の街とは違うな。日本ではある。そう、ここは日本ではあるのだが、家屋かおくや玄関をチラりと見るだけでも凝ったデザインがひと際目立つ家も存在する。

周りの風景に溶け込んでいるシックなデザインから、明らかに芸術家の家だろうと一発で分かるようなデザインまで。


 周辺をしばらく歩いて探索していた時だった。マリから警報が発せられる。


《何者かが後ろから追跡してきております》


 緊張が走る。


 特に誰がリーダーとかは決めていないが、シティリアから提案が発せられる。


「まだ襲ってくる気配は無さそうだし、ちょっと広い所へ誘導してみましょうか」


 私たちは気づかないフリを続けたまま、広い場所を探し、歩き続けた。ちょうど良い広さの公園が見つかったので、ベンチで休憩するついでに追跡者の様子を見る。なお、公園には私たち以外には誰もいない。そばに自動販売機が設置されていたので、マリが飲み物を買ってきた。


《お茶です。二人ともどうぞ》


「あら、ありがとう。マリ」


「いただくよ」


 私たちは缶のお茶を飲み、軽く談笑をする。フリでもなんでもなく、私たちは本当に休憩をしている。勿論、追跡者に対する警戒は解いていないが……。


 しびれを切らしたのか、公園の入り口からひとつの影が近づいてくる。隠れて接近してくるのかと思えば、堂々と近づいてくるではないか。


「こんにちは」


 向こうから挨拶してきた。


 ……。私も挨拶を返す。


「こ、こんにちは」


 彼女? 彼? 中世的で性別はつかないが、その人は両手を横に広げ、ポーズを取る。


「敵意はありません」


「何かようかしら?」


 シティリアがベンチでお茶を飲みながら応対をする。


「私の名前はアーセルと申します。っと……、こちらの世界では褪元あせもとと名乗っていますが」


 こちらの世界……。異世界人か。とりあえず挨拶を返そう。


「これはどうもご丁寧に……。私は中島というものです」


「先ほど、探知魔法を使われたのは、そちらの女性の方でしょうか」


 シティリアが返事をする。再びお茶を飲みながら。(お茶好きなのかな……)


「ええ、そうよ」


「魔術師とお見受け致します。折り入って話があるので、私の家まで来ていただけませんか?」


 シティリアが横目でチラッと私の方を見る。


 ……。あ、俺が決めろってことか。


「そうですね。とりあえずお伺いしますよ」


 私たちは褪元さんの家に行く事になった。

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