第31話 シティリアの初来日・前編

 お師匠様自身の手ほどきにより、棒術を使った訓練を行った。良い所とダメな所を指摘される。あとは「自己鍛錬を怠らず続けよ」と、お言葉をいただく。最初の頃よりかは良くなっていると言われたので、空いた時間に自己鍛錬を行っていた成果があるんだろう。少しずつではあるが、また1歩前進している事を実感する。


 お師匠様に稽古をつけてもらった後、シティリアから語学の勉強……。いや、もう講義と呼んだ方が良いかな。今日は魔道具を外して、実際に聞き取りの語感トレーニング。やはりまだまだ分からない単語が多い。みっちりと講義を受け、その日は終わりを告げる。


 後日、諸々の準備が整ったシティリアと私は共に日本へ行く事となった。正確には“私の住んでいる家に”である。


 シティリアは、見るもの全てが珍しいようで、何から何まで興味深々である。事前にどういう所かはチャップさんがシティリアに説明を行っていたが、実際に聞くと視るでは天と地ほどの差がある。ちなみに、村瀬さんは本日は一緒ではない。先日、お師匠様に渡した“異物についての研究を記録した本”の内容を精査するため、村瀬さんはお師匠様と一緒にお城の方で仕事をしている。


 実家のような安心感。我が家に戻ってきた。とは言ってもここに住んでまだ間もないが。


《おかえりなさいませ》


「ただいま。マリ」


 玄関から中に入るとマリが出迎えてくれた。おっと、シティリアにマリの事を紹介しよう。


「シティリア。こちらの女性は、人口異物アーティファクトの女性型ゴーレムの“笹江マリ”。日本での生活と、異物探索のサポートを行ってくれているんだ」


 シティリアが驚いた顔をしている。あれ? あ、マリの事は話してなかったか。


「今日一番驚いたわよ…。情報の暴力ね。頭がパンパンだわ」


《お疲れですか? お荷物お預かりします》


 自己紹介も終わり、とりあえず日本での生活を行うためにシティリアの日常生活に必要な日常品の買い物をしに行く事になった。出かける用事の話し合いをしている所に玄関のチャイムがなる。


 ピンポーン。


 誰か来たようだ。私は返事をしながら外へ出る。


「よう。海外旅行に出かけていたんだって? 今日あたり帰ってくると思ったから顔を見に来たぜ!」


 飯田だった。私は異世界に行っていたのを、飯田には海外旅行という事にしておいてある。


「ああ、戻ってきたばかりでね。あー、飯田スマン。大した土産も無いんだが、お菓子くらいは買ってきてある。あとで渡すよ」


「おお、ありがたく頂戴致す。お返しと言っては何だが……。今日お前んち来たのには理由があってな、コレをプレゼントしようと思ってな」


 ん? 飯田から何かが入ったダンボール箱を渡された。


「ま、とりあえず中に入らせてもらうぞ中島よ」


 飯田の話を聞くに、引っ越し祝いの品を渡すのを忘れていたとの事で、インテリアも兼ねて置物をプレゼントに来たという。なるほどありがたい話だ。ダンボールの中身を開けてみると、これは見事な彫像……。


「へぇ~。見事な彫像ねぇ」


 シティリアが話に割って入ってきた。ちなみに、魔法で日本語を話せるようになっている。


 ん? なんだ。飯田が何か言いたそうな目をしている。


「あのー。中島さん? ちなみに、そちらの女性の方はどなたですか?」


「こちらの方はだな。――と言うわけだ」


 またもや適当な嘘で誤魔化す。


 飯田の顔が真っ白に燃え尽きている。おい、大丈夫か。しっかりしろ。


「フッ……」


 私は飯田の肩を揺さぶり、現実に引き戻す。


 シティリアが彫像を手に取り、不思議そうな目で見つめている。


「これは……。いや、まさか……」


「どうした? シティリア」


 私はシティリアに疑問を投げかける。


 シティリアは念入りに彫像を調べている。


「えーと、シティリアさんだったかな? その彫像がどうかしたのかい? ネットで購入したどこにでもあるようなアンティークではあるけど……」


 飯田はシティリアに物品の説明をしている。


「飯田さん。この彫像。中にわ。いきなりで失礼だけど、ちょっと割ってみてもいいかしら?」


「えっ? 彫像の中に何か入っているんですか? 見た目は特に変な所は無いと思うけど…。ま、まぁ別に構いませんよ。プレゼントしたものが変な物だったらイヤだし」


 私も気になる。しかしシティリアは、その彫像のどこが気になったんだろうか? 彫像を割るために、床に何か敷くものを探しに行くついでに、陰でこっそり聞いてみた。


かすかだけど、魔力を感じる。通常では分からないくらいのね……」


 なるほどな、それはきっとシティリアにしか感じ取れない事なのだろう。もしもシティリアがいなければ、その彫像はただの置物として飾られていただけだろう。


 彫像を割る準備が整ったので、ハンマーでたたいて中を割ってみる。空洞になっており、中から丸い物体が出てきた。


「これは……」


 私はその丸い物体を手に取り、調べてみる。円の真ん中で切り目が入っており、捩じることで更に、その中身が出てきた。


 その中身とは、地球上には存在しえない物体。それは異物そのものだった。

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