第10話 事件は起こる・後編
辺りを見回すと、もう暴れている人はいないようだ。警察の人に取り押さえられている。
周囲に聞かれたくない会話もあるので、私たちは場所を街角に移し、村瀬さんに現在の状況について教えてもらった。
「なるほど、つまりまとめると(異世界からの)応援とは、物資ではなくゴーレムさんだった。そして、現在発生した事件については落ち着ているが、犯人は見つかっていないと」
村瀬さんは頷いた後、まだ周囲を警戒しながらゴーレムさんに話しかける。
「そうね。詳しい話はアパートに戻ってからにするとして…。このまま無事に帰れるかしら」
会話に混ざるようにゴーレムさんも口を開いた。
《先ほどの村瀬様の戦闘中に、こちらを意識していた人影を2名ほど確認しております》
ハッとした様子でゴーレムさんに問い詰める村瀬さん。
「何ですって? 今、その二人はまだ近くにいるの?」
《ファミリーレストランの客席で、こちらを監視するかのように見ておりました。今丁度、入り口から出てきて背中を向けて立ち去ろうとしています。あの二人です》
そう言うとゴーレムさんはさり気なく目線と指だけを、対象となる怪しい二人に合わせた。
私は村瀬さんに質問をする。
「どうします?」
「そうね…。とりあえずバレないように追跡してみるとしますか」
《村瀬様。あの怪しい二人の進行経路を予測しますと、商店街の人込みの中に紛れ込んで行く可能性が高いです。この先の経路ですと追跡は難しそうです》
「それなら、今すぐ追いかけるべきね」
私は村瀬さんに提案する。
「村瀬さん。追いかけて捕まえればいいんですね?」
「え、そうだけど。あ、そうか…! カルマを使うのね?」
「はい。僕に行かせてください」
「分かったわ。任せる」
よし。と気合を入れて肩を回した私は、自身の能力を発動した。
<<疾走のカルマ>>
逃げる二人を走って追いかける。それに気づいたのか、二人組も商店街の中へ走って逃げて行こうとするが、私の足はそれよりも速い。
私は通行人を避けつつも目標となる二人へ向けて一直線に接近していく。
「なんだこいつ!?」
「はやっ――」
二人組の声が聞こえた頃にはもう既に零距離まで詰めていた。
私は
その後、走って追い付いてきた村瀬さんと、ゴーレムさん。
「やるわね♪ 中島さん」
《なんと、私よりも速いとは》
とりあえず人の目があるので、私は二人を捕まえたまま人目のつきにくい裏路地まで連れていく。
村瀬さんがいつもとは違う、見せた事も無いような鋭い顔で相手を睨みつける。
「単刀直入に聞きましょう。この騒ぎを起こしたのは貴方たちね?」
「し、知らねえよ! 人違いだ!」
「そ、そうだよ! 騒ぎがあったから俺たちも逃げようとしてたんだって!」
《では、そのポケットに入っているものはなんですか》
ゴーレムさんは、二人組のポケットに入っていた物を取り出した。――異物だ。
続けて村瀬さんがゴミを見るかのような冷たい目線で話す。こわい。
「あら、これは何かしら? 中島くん。ちょっとお仕置きしてあげて?」
あ、これ逆らっちゃいけないやつだ。私は<<膂力のカルマ>>で二人組を地面に圧迫するようにゆっくり押し付ける。
「イッイテテテ!!! い、イキ。イキができ。ヤメ」
「グッグエ。 や、ワカッ タ 言 う。い いうから」
村瀬さんの右手がサッと上げられたので、私は力を緩めた。
「も、貰ったんだよ。カネと、この変なモンを。そ、そんで、コレを使って……駅で暴れてこいって。使い方教えて貰っただけでサァ。人を狂わせたり、肉体操作できるぞって。そ、それだけだ!!!! カネをくれたヤツのことは知らねぇんだ!」
「どんな顔だった?背丈とかは?」
「い、いやどこにでもいるような。特徴も無い服装をしてたッ…! 多分男だとは思う! 顔はマスクとメガネでよく覚えてねぇ。ホントだ! 信じてくれ!」
村瀬さんお得意の考える人のポーズ。
「ん~~~。ま、いいわ。もう悪さはしないって誓えるかしら?」
二人組は、ウンウンと高速で頭を振っている。
「じゃ、許すわ。駅にまだ警察がいるだろうから、自首してきなさい」
「え、じ、自首。ソレぁ。俺たち。言われたことをヤッタだけ――」
「中島くん? つ・よ・め・に」
あ、はい。逆らいません。私は二人組を再び地面に押し付ける。ちょっとだけ強めに……。こいつらが可哀そうになってきた。
「イテテテ!!! そ、ソレマジや め」
「グ、グ。 わか りまし た 自首 し ます」
「宜しい。この2つのモノ(異物)は没収します。警察にはコレについて絶対言わない事。分かったなら行きなさい」
そんな一連のやり取りをしつつ、二人組が駅にいる警察官に自首しに行くのを見届けてから
私たち二人とゴーレム? 三人? は、アパートまで帰ってきたのだった。
そういえば、ゴーレムさんの名前を聞いてなかったなと、今更ながら思う中島であった。
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