第7話 死闘の末、日常は始まらなかった・前編

「く……これまでか――俺の力は、ここまでだと言うのか…」


 主人公、中島義行は、最後の力を振り絞り――ゆっくりと、立ち上がった。


「ぐ…」


 主人公、中島義行は――筋肉痛である。


「山登りしたのなんて、学生の時以来だな…」


 同居人、村瀬めぐみは答える。


「こちらの世界の人間は、だらしないですネ」


 同居人、村瀬めぐみは更に答える――お菓子を摘まみながら。


「もう少し運動したほうがよろしいのではないでしょうか」


 この人はタフだなぁと内心思った中島であった。


「うむむ。とりあえずリラクゼーションでも行ってみるか…」


「いってらっしゃい。あ、中島さん。私は今日、異世界の仲間達との連絡会があるので夜遅くなります」


「あ、了解です」


 そう言って中島義行は、出かけたのだった――。


 ~お店の前~


「ここが、リラクゼーションか。どれ」


 お店に入ろうとした時、横から誰かの声がする。


「あのぉ~すみません」


「ん? はい。何でしょう」


 横を振り向いて見てみると、初老かと思われるご老人が立っていた。


「この辺に…。これくらいの…。黒いの…落ちてませんでしたか?」


「黒いモノ? …ですか。いえ、見てないですが」


「そうですか…。いや、時間を取らせてしまいましたな。若いの。失礼」


 そう言って、ご老人は立ち去って行く…。


 なんとも歯切れが悪く感じた私は、再びご老人に話しかけた。


「あの、ご老人。それは、無いと困るものなんですか?」


「んん? あ、ああ。そうですなぁ。無いと。困る。いや、しかしお若いの。あんたには関係の無い事でしょう」


「もし、良かったら、探すのを手伝いましょうか?」


「ん。それは。助かりますが…。ええんですか?」


「ええ。折角ですので」


 困り顔になっていたご老人の表情が、少し笑顔になる。


「じゃあ、お願いするとしよう」


「最後に見たのは、いつ頃でしょうか――」


 私は、ご老人から話を伺った。


 この人の名前は、田中さんという。田中さんが言うには、探している物は掌に収まるかくらいの、黒い物だそうだ。それだけでは良く分からないが…。財布や、携帯電話では無いらしい。田中さんの話を聞きながら、私は2人で探し物がありそうな場所を、隈なく探していった。商店街、公園、付近の住宅街。探せど探せど探し物は見つからず。交番に届いてないか、訊きに行っては見たが。それでも探し物は見つからなかった。結局見つからず、夕方になってしまい。田中さんは家に帰る事になった。歩いて行ける距離だったので、私は田中さんを家まで送って行った。


「すまないね。中島さん。結局見つからず」


「いえ、探し物、見つかるといいですね」


「そうだ。折角だ、上がってお茶でも飲んでいきませんか」


 誘われたら断れない性格をしているんだろうか。私は断れなかった。


「では、折角ですので」


 私は、田中さんの家に上がらせて貰い、客間に案内された。

 田中さんは、お湯を沸かしに台所へ行き、準備をしている。

 私は、待たされている間に、自然と目が泳いでしまっている。古き良き家。良い家だ。

 田中さんの足音が聞こえた頃に、私の目は落ち着きを取り戻した。


「中島さん。みてください。コレですよ。あったんです…!」


「田中さん…。その黒いのが。探し物なんですか?」


「ええ! そうです! ははっ…。お恥ずかしい。ずっと家にあったんですね。いやはや」


「探し物。見つかって良かったですね」


 私は、安堵しつつ、にこやかに笑顔を返した。


 そして、私は妙な違和感を覚えた。田中さんの持っている物。ひょっとして、異物なのでは?

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