第6話 異物の回収・中編

「これがゴーレム!? でかい――」


 私は真上を直視し、2歩、3歩と下がろうとして、上体を崩し、地面へ転んでしまった。


 その瞬間を見逃さなかったのか、ゴーレムは私に対して右腕を振り下ろし、攻撃を仕掛けてきた。

 

「中島さん!!」

 

 咄嗟に間に入って防御魔法を展開する村瀬さん。


 半円状の白い膜が、私と村瀬さんを包み、ゴーレムの攻撃を防いでくれた。


「村瀬さん! すみません!」


 私は不慣れな足場から立ち上がり、態勢を立て直し、村瀬さんに声をかける。


「とりあえず、どうすればいいでしょう!?」


「そうですね…。核となるアーティファクトを取り出せれば、ゴーレムを停止させることができますが、アーティファクトは胸の中心に埋め込まれてしまいました。この身長差では、手が届きません」


 私は話を聞きながら対応策を考えていく、その刹那二度、三度とゴーレムの攻撃が繰り出される。防御魔法がいつまで持つのか、説明を聞いてみる暇も無い。


「では、ゴーレムを転ばせるか…。倒すことができれば!?」


「私なら核となるアーティファクトを切断魔法で取り出せますが――」


「分かりました…! 一瞬、防御魔法を解いてください! 私が前に出て、足を掴んで転ばせます!」


「中島さん! 危険ですが――それしか――無いか…行きますよ!!!!」


 ゴーレムの攻撃の合間を縫って、村瀬さんが防御魔法を解いた瞬間に、私はゴーレムへ向けて真っすぐ駆け出していく。


 ゴーレムの攻撃を搔い潜りながら、私は右の足元に抱き着いた。


 <<膂力のカルマ>>


 私はゴーレムの足を持ち上げようとする。


 《ワタシニ、サワラナイデ》


 一寸の間も置かず、声が聞こえたと思ったら、私はゴーレムの振り払いを食らってしまった。


「ぐ」


 声も出せぬほどの勢いで、雑木林の方まで飛ばされ、私は木々に背中を打ち付けられる。

 ミシミシと音が体内で響き渡り、縦横無尽に体を駆け巡る激痛の中で、私は能力を使用する。


「ち、<<治癒のカルマ>> ァア……!」


 意識したわけでは無い。本来念じるだけで能力は使用できる。声に出したのは生存本能の現れか。


「中島さん!! 大丈夫ですか!!!」


 意識ははっきりしている。

 遠くの方で、防御魔法を展開しながら身動き出来ずに攻撃を受けている村瀬さんがいる。


「村瀬さん。もう一度! 私が、ゴーレムを転ばせます!」


「これ以上無茶は…!! 何か別の手を!」


 村瀬さんの言葉は耳に入っていた。

 考えるより先に体が動いている。

 目の前で危ない目に遭っている人がいて、その場で佇む事が出来なかった。

 私は地面を蹴り、最短距離をゴーレムまで進んでいく。


《メイレイ イヤ ナゼ ワタシニ メイレイシナイデ ワタシハ タタカイタクナイ ワタシハ ワタシハ》


 ゴーレムが何かを呟きながら、地面に転がった無数の小さい石ころを宙に浮かせ飛ばして来る。


 私は腕を交差させ、<<治癒のカルマ>>を発動させながら、怯まずに。

 痛みに耐え、確実に前へと進んで行く。


 再びゴーレムの振り払い。


「二度目なら…躱せる!!!」


 私はゴーレムの攻撃から身を躱し、次の攻撃が来る前に<<膂力のカルマ>>を発動し、

 足を掴み、持ち上げた。

 

「ウオォォ!!!!!」


 私の気合の雄叫びと同時に、ゴーレムは体勢を崩し、その場に倒れ込むように空を仰いでいる。


 間髪を容れず、村瀬さんがゴーレムの胸元へ飛び込み、切断魔法でアーティファクトを取り出した。


 力を失ったその巨躯は、崩れ落ちるように、ただの石や、土に戻っていく。

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