第6話 異物の回収・前編

 ―次の日、午後―


 私と村瀬さんは異物の回収という目的のため、異物本体があると教えて貰った、その山のふもとまで来ている。私たちの住んでいる街からはそんなに離れてはいない。むしろ目の前と言っても良い。

 以前、村瀬さんは探知魔法を広域で使用した所、まだ山の麓である市街地にいる間に襲われた。私が交通事故に遭った時の事だ。そして、魔法さえ使用しなければ、異物それ自体のかなり近くまで接近できると、確か言っていた。


 山の中に入る前に、事前に最終確認を行うため、私は村瀬さんに話しかけた。


「えーと、先ずは異物本体まで歩いて近づく。というより山登り。ですね」


「はい、そうなります。そして2度目の接近の時は、近距離での探知魔法を使用した所、石ころを飛ばされて妨害されましたので。今回は目標の近くまで行った所で、私が前回と同じように近距離の探知魔法を異物に対して再び使用します。私は恐らく攻撃をされますが、防御魔法を使って防ぎます」


 相槌を打ち、私は答える。


「その間に、私が異物に対して接近し、回収すればいいんですね?」


「そうです。そこで中島さんの能力の出番となります。異物は、石塊いしくれの集合部分の中心にあるのは分かっていますので、中島さんの能力。“膂力りょりょくのカルマ”を使用して石や岩を取り除いてください」


「分かりました」


 私こと中島義行は、神様からカルマという能力を授けられてはいるのだが、最初は与えられた能力が一つだけだった。そのため、頭の中で念じる言葉はそのまま<<カルマ>>と念じていたのである。しかし、これからも増えていくであろう能力に対応するべく、イメージしやすいように念じ方を変える事にしたのだ。

 (余談ではあるが怪我が治るカルマは、治癒ちゆのカルマと呼称)


 そして私は午前中に、今回新しく手に入れた能力を試す目的として、どれくらいの重量物まで持てるのかを確かめにスポーツジムへ行き、トレーナーの説明を受けながらウェイトリフティングをやってみた。勿論、無理はしない。あくまで確認のためだ。

 そこで感じた事は、重い物を持ち上げた時に、重量となる重さを感じなかった事である。更に重い重量物を試せば違いは分かったかもしれないが、無理はしない。何度も言うが確認のためである。(ちなみにウェイトリフティングは結構楽しかった)


 そんな事もあり、私は2つ目の能力に膂力りょりょくのカルマと名付ける事にしたのだった。


「では、中島さん。山登りと行きましょうか」


「了解です。しかし、目的地までは…。結構歩くんですね」


「はい。なので途中途中休憩を挟みながら行きましょう。1時間もすれば到着すると思いますので」


「ですね。準備は、バッチリです。簡易的ですが。ちゃんと山登りの恰好もしてきましたし」


 時々、雑談のような会話を挟みながら、黙々と山を登っていく私たち2人。その道のりは、人が登山に最適なルートを通って行っているので、道なき道を行くわけではない。しかし聞いた話によると、最後は獣道を行かざるを得ないようだが。今は、開拓と文明の歴史に感謝している。山の麓が見えるくらいの所まで登って来た時、村瀬さんが話はじめた。


「もう少しですね。ここからは、登山ルートから外れます」


「了解であります」


 多少の疲れからか、話し言葉が行方不明な私であるが。道の無い山の中を行くことが、素人にとってどんなに危険な事か、頭では理解しているつもりである。唯一の救いは、山の斜面から、下界である街並みが見える事だろうか。これが、しげった植物や木々に挟まれた空間であったとしたら、経験の無い者にとって、人間としてのアドバンテージを失う事ほど嫌な事は無いだろう。

 考え事をしつつも目的地付近についたらしく、村瀬さんから止まれの合図が出た。


「中島さん。見えますか、あそこの岩や、石が沢山ある所。その中心に異物があります。今から私は、探知魔法を異物に向けて使いますので、離れた所で潜んでいてください。私に対して攻撃が始まったのを確認したら、そのまま石塊の中心まで近づいてください。転ばないように足元気を付けてくださいね」


「分かりました。ここからが本番ですね」


「では、中島さんがある程度離れるまで、私はここで待ちます。5分ほど立ちましたら魔法を詠唱し始めます。すると間もなく攻撃が始まりますので、それが合図だと思ってください」


 私は目的となる石塊から、弧を描くように移動を始めた。


「よし、この辺までくれば・・・あとは村瀬さんの合図を待つだけ」


 現実世界の人間である私に魔法の事はよく分からないが、約束の時間になった時、地面に転がっている大小様々な石が、村瀬さんが潜んでいる方角へ飛んで行った。


「よし!」


 私は急ぎすぎず、足元に注意しながら石塊まで近づいて行く。遠目に村瀬さんが防御魔法で石を防いでいるのが見える。こういう時こそ、焦らない。焦らないのだ。自分は、自分のできる範囲で人助けをする。神様にも、そう言われたじゃないか。


 私は自分を鼓舞しつつ、目的の眼前までたどり着き、能力を発揮する。


 <<膂力のカルマ>>


 私は能力を発動後、邪魔となる石や岩たちを、どけていく。


「凄い、やはり重さを全然感じない……。この調子なら」


 次々と石や岩をどけていくと、その中心部に、見た事もない形をした物体が佇んでいた。


「これが、異物?」


 私は異物を手にとり、横目で村瀬さんを確認するが、まだ無事のようだ。しかし不思議な物体だ。確かに、こんな形は見た事も無い。


「ん? なんだろう? スイッチのようなものがある」


 《ワタシニ、サワラナイデ》


「うお!? 異物が喋った!」


 異物から人とも機械とも思えないような抽象的な声が聞こえたかと思うと、異物は私の手を離れ、宙を泳ぎ飛んでいく。


 なかば、状況が飲み込めないまま異物を目で追いかけていくと、村瀬さんが近づいてきた。


「中島さん! 異物は!?」


「村瀬さん……!! すみません。異物が喋ったんです。《ワタシニサワラナイデ》って」


「異物が喋ったとなると……。やはりただの異物では無く、アーティファクト!」


 アーティファクトについては先日、村瀬さんが教えてくれていた。

 『本来、異物は“そのような行動に出る代物ではない”はず』と言っていた、の事だ。

 大多数存在する異物は、異物を手にした人に能力を与える力を持っている。それだけの物がほとんどであるそうで、その時点で普通の人間からすると大層な話なのだが。

 その中でも、アーティファクト(人工異物)と呼ばれている物は、異物自身に精神が宿っている場合があり、人と同じように思考、判断すると言う。それが今、目の前に存在している。


 アーティファクトは宙に浮いたまま、地面から土や石、岩、存在する無機物、有機物を取り込み、

 大きな人の形を形成していく。


「中島さん。気を付けてください。アレはゴーレムと呼ばれるものです」

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