第1章 本章
第5話 物語は進み始める
主人公、
「うーん。左腕もお風呂で洗いたい……」
それに対し、同居人、
「それ、外してあげましょうか?」
中島義行は隣でお菓子を摘まんでいる同居人の方を向いた。
彼女は村瀬めぐみ。異世界からやってきた人間で、私たちの世界に散らばった異物という物を回収するために、この世界で活動している。ちなみに偽名らしい。ひょんなことから共同生活する事になった。
私は村瀬さんに話しかける。
「え、取れるんですかコレ。ギプスって、専用カッターとかが無いと中々外せないんですが」
「取るだけなら、魔法で切断できますよ」
「そんな事もできるんですね。でも後で医者に怒られそう…」
「汝、行動の自由を求めるか。さすれば与えよう。憤怒の代償をもとに」
不敵な笑みを浮かべながら、お菓子を摘まむ同居人。
「うーん。では、お願いします」
この人、こんな一面もあるのかと思いつつ、私は数週間後に医者に怒られる自分の姿を想像した。
「では、左腕を出してください」
そう言うと、村瀬さんは右手を手刀の形に整え、詠唱を始めると、右手が魔法の膜で覆われた。
傍目にみても、鋭利で、切断を目的とした手段である事は想像に容易い。
「えと、村瀬さん? ちなみにソレ。どれくらいの威力があるんですか?」
少し考えこむ表情を見せながら、村瀬さんは答える。
「ん-。そうですね。鉄板くらいだったら豆腐のように」
……。
「やっぱ止めましょう」
「おや、汝、言葉を覆すというのか?」
ジリジリとこちらのほうに歩いてくる村瀬さん。表情が若干笑っている。
「いえ、しかし、心の準備というものがですね?」
「大丈夫大丈夫。動かなければ。ね? それに、中島さんは治癒の力があるじゃないですか」
「それと! これとは!」
静止も聞かず、振り下ろされる村瀬さんの右腕。その様はまるで、剣術に心得があるかのような、華麗な動きをしていた。
「NGYAAAAA!!!!」
スパスパっと音を立てて、私の左腕に巻かれたギプスは真っ二つに切断され、地面へと転がった。
「ね? 大丈夫でしょう?」
「し、死ぬかと思いましたが」
微笑みを浮かべる目の前の同居人が、僕の目には、小悪魔のように見えた。
―後日―
私と村瀬さんは
「ここが、飯田の家ですね」
時は遡るが、私こと中島義行は、村瀬さんに自分の能力について話している。神様に与えられた、条件付きの能力だ。私は最初に治癒の能力を授かり、骨折した左腕を治したはいいが、ギプスを外すのに困っていたのを村瀬さんが外してくれたのである(やり方は怖かったけど)
そして、飯田の部屋の片づけを手伝う約束のついでに、新しい能力を得る事ができないかと思い、実際にやってみる事にしたのだ。
それについて、村瀬さんから提案があった。
この間話していた異物の回収を手伝ってくれるのならば、私も中島さんの用事を手伝うと。
私は元々、村瀬さんの手助けをするつもりでいたので、別段、私個人の用事にまで手伝って頂く必要は無いのだが。
「この世界の言葉で、ギブアンドテイクという言葉がありますね。良い言葉だと思います」
などと彼女は言っていたので、意外と律儀な面もあるんだなと私は思った。
「さて、事前に連絡はしてあるし、玄関のチャイムを押しますね」
ピンポーンと音を立ててから、間もなく、飯田がドアを開けて出てきた。
「おー、いらっしゃい…。て、そちらの美人さんは?」
「ああ、ウチに住んでいる同居人の村瀬めぐみさん。訳あって、居候してもらってる」
「村瀬めぐみと申します」
「ああ、これはご丁寧にどうも。飯田と申します。あ、すみません、ちょ~っと中島と2人でお話したいことが。コイツ借りますね~ハハッ」
そういって玄関の中に引っ張って連れられて行く私。
「オィィィィィィ。誰だョ~!? あの美人さんは! 居候だと!? いつからだ!」
「いや、それがな、カクカクシカジカで」
私はテキトーな嘘をつきながら、飯田に説明した。
「ふむ、なるほど? 分かった。今はいいだろう。あとでく・わ・し・く・な?」
「あ、ああ。理解してもらえたようで何よりですハイ。と、とりあえずさ。村瀬さんも飯田の部屋の手伝いをしてくれるっていうんだ。いいだろう?」
まぁまぁと、飯田を落ち着かせようと私は話を逸らそうとする。
「いや、良くないが? なぜ大丈夫だと思ったのかな? オトコの部屋デアルゾ?」
そんなやり取りをしていたら、外で待たされていた村瀬さんが玄関に入ってきた。
「あの~。何かありましたか?」
私と飯田は声を揃えて言葉を返した。
「「いえ! 何でもありません!」」
「な、飯田よ。人が多いほうが、部屋も片付くし。な?」
苦悶の表情を抱えながら飯田はしぶしぶ答えた。
「ぐぬぬ、まぁよかろうて…。では、2人とも。玄関での立ち話もアレだし。先ずは上がってください」
私と村瀬さんは答える。
「「お邪魔します」」
飯田の家に上がった私たちは、片づけをして欲しいという1階の奥の部屋に案内された。そこで目にしたものは、常人の背の高さよりも背丈のある、人の形をした石造がいくつかあった。更にその足元には、大小様々な大きさの石造が転がっていた。
「飯田君。コレは何ダイ?」
「ふむ。中島君。良い質問だ。実はな、絵を描く資料として、ネットで注文してみたんだがな? 色々な形の石造を選んでいるうちに、こんな事になってしまったのだ! とりわけ! あの一番大きいヤツ! いつ! 注文したのか! まったく覚えていない! HAHAHA」
無、無だ。私の心よ。今は平静を保つのだ。まるで明鏡止水のように。
「それで、つまり、こ奴らを片付けたい。と?」
「ああ、その通りだ。それで数日前、中島から連絡があってから、実は家の裏の倉庫の片付けをしていてな。モノを仕舞うスペースは出来たんだが、この石造たち。意外と重くてな。動かそうにも1人じゃ大変なので、床が抜けないように一番頑丈な奥の部屋に仕舞ってあったってわけよ」
「じゃあ、私と飯田は、大きいのを運ぶとして……。村瀬さんは小さいヤツと、部屋の掃除を頼めますか?」
「分かりました。そのほうが良さそうですね。分担して作業しましょうか」
片付け作業に取り掛かり、外の倉庫に石造を運びだしていく。小さいのはどうという事は無いのだが、最初に目についたあの一番大きいヤツ。こればかりは2人で1つを運んでいくしかなかった。
私と飯田は、息を合わせながら、2人で石造を運んでいく。その間にサポートとして部屋の片づけを村瀬さんが進めていき、午前中に飯田の家に来てから、夕方になる前には片付けを終える事ができたのだった。
間をおいて、玄関で別れの挨拶の時が来た。
「ふ~。お二人さん。助かったよ。それにスマンな。中島。絵を描く俺の趣味のためとはいえ、こんな事まで手伝って貰って」
飯田は手を差し出して握手を求めてきたので、私も飯田の手を握り、返答をした。
「いや、良いってことさ」
すると、私の背筋から頭の上まで、まるで電気が走ったかのような達成感を得たのだった。
これが、新しいカルマを得る瞬間か。
行為の結果が、自分に帰ってくる。
神様に与えられた能力が、自分の中で増幅される感覚。
自分の力として蓄積されていく感覚。
私は表情を崩さずに、飯田と挨拶を済ませ。村瀬さんと共に飯田の家を後にした。
―帰宅後―
自宅のアパートに帰ってきて、一息入れた
「中島さん。能力を
私は自分の右手の
「はい、新しい力を手に入れたようです」
「どんな力を授かったんです?」
「恐らく、重いものを持てるようになったかと。どれくらいまでの物が持てるかは分からないですが、結構重い物まで行けそうな気がします」
「重い物ですか…。重い物…」
村瀬さんはイスに座りながら考える人のポーズを取った。
私は横でお茶を飲みながら休憩をしている。
「中島さん。その力。異物の回収の時に、役立つかもしれません」
「?」
私は頭の中にハテナマークが飛んでいたのだった。
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