最終話 まごころ

 数々の強敵を退しりぞけた女魔導士。

 ついにこのダンジョンの最奥地、『相談の間』にたどり着いた。


 彼女は部屋の中へと足を踏み入れる。

 そこにはこの世のものとは思えぬ禍々まがまがしいオーラを放つ、恐ろしげな悪魔が待ち構えていた。

 なんと、額にはもう一つ目が付いているではないか。

 三つめのまなこが、彼女をジッと見つめている。


 しかしこの悪魔、なんだかバツの悪そうな顔をしているのだが……


 ため息混じりに、悪魔は口を開いた。

「困りますよ、お客様…… お客様は登録申込書に『年齢 : 29歳』と書かれていますが……」


 第三の眼がギラリと光る。

 この悪魔、『真実を見通す眼』を持っていたのだ。


「お客様の年齢、本当は34歳でしょ? ウチのケッコンソーダンジョンは、20代の方限定でございまして…… 契約はきちんと守っていただかないと……」


 悪魔とは契約にうるさい生き物なのだ。


「登録料はお返ししますので、帰ってもらっていいですか?」


 嗚呼ああ、悪魔とはなんと残酷な生き物であろう。ちょっとぐらい、オマケしてくれてもいいではないか。

 神様! どうかこのビジネスライクな悪魔が、景気悪化の影響を受けて落ちぶれますように!


 そんな無慈悲な悪魔の言葉を聞いた彼女であったが……

 彼女にはまったく困惑した様子が見られない。


 なぜなら彼女は、以前、街コンの申し込みに行った際にも年齢制限に引っかった経験があるからだ。

 そう、彼女は経験豊富な女魔導士なのだ。



「フッ、結婚がどうとかこうとか、私にとっては初めから、どうでもいいことだったのさ」

 年齢詐称の件などまるでなかったかのように、彼女は悠々と『相談の間』を後にした。

 そう、彼女は誇り高き女魔導士なのだ!

 戦乙女の心意気を見るがいい!

 結婚ごとき、いったいなんだと言うのだ!



♢♢♢♢♢♢



 帰り道。


 彼女は先程バラまいた『お見合いパーティー、次回利用時2割引券』の中から、未使用のものを探し出し回収していた。



「女魔導士さん、どんまい!」

 心優しいアサシンの声が、どこからともなく響いてきた。

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ケッコンソーダンジョンへようこそ! 大橋 仰 @oohashi_wataru

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