第13話 6人の進行。

正午が近づいてきた。

ミチトは準備を済ませると塔に入るメンバーに「後、15分で出て14階で正午を迎えるよ」と声をかけるとイイヒートは「はい!」と気持ちのいいい返事をする。


かつていい加減でチャラチャラして貴族の悪い部分、悪い貴族を絵に描いたようなイイヒートは王都でライブをナンパして横に居たミチトを使用人だと思って見下した結果、後から来た従兄弟のイイーヨとイイダーロ達に怒られ貴族の重鎮であるモバテ達に囲まれて地獄を見たその時の姿は今の姿とは似ても似つかない。


その姿を見たライブがイイヒートに「イイヒート、あんた本当偉くなったね」と話しかける。

イイヒートはお辞儀をして「ライブさん」と名前を呼ぶ。


その姿だけでも好感を持てるライブは「私やイブに話しかけてこないじゃん」と言ってニヤッと笑う。このニヤリ顔は悪く言うとかそう言う顔ではなくこの変化が嬉しい顔だ。

イイヒートは背筋を正して「はい。仕事中ですし俺はまだまだ半人前です」と答えた。


これに気をよくしたライブがイブを呼んで「イブ、コイツがイイーヨとイイダーロのいとこのイイヒートね」と紹介をする。

ニコニコと来たイブはイイヒートを見て「はい!目元が似てますね。イブはイブでライブの妹です。よろしくお願いしますね」と挨拶をする。

イイヒートもライブがイブを紹介してくれた意味を察して嬉しそうに「はい!よろしくお願いします!」と挨拶をした。


ここで大概の男はイブの胸に目が行く。

トウテで一番大きい胸。

目が行かないのは貴い者として精神力で己を律する事の出来るロキやヨシ、年齢的に孫に相当するイブの胸を見る訳が無いと豪語するであろうロウアン達くらいで妻帯者のセルースやスード隊のメンバーですら少女時代のイブを知っていてもつい胸に目が行ってしまう。


だがイイヒートは決してイブの胸を見なかった。

一瞬目だけが胸元に行きそうになるとイイヒートは小さく「っ…!」と小さく漏らして眉間にしわを寄せたが我慢をした。


ライブが驚きの顔で「おお、精神力でイブの胸元を見ないようにしてるね」と言う。

そのままイブの後ろに回ると両手でイブの胸を持ってゆっさゆさと揺らしてアピールしてみるがイイヒートは「くっ」と小さく漏らすだけで我慢をする。


このやり取りにイブは真っ赤で「ライブ、恥ずかしいですよ」とライブに言う。ライブは嬉しそうに「あはは、ごめん。イイヒートが何処まで我慢するか見たくてやっちゃったよ」と言って笑う。



ミチトはそんなやり取りが終わるのを待った後で「よし、行くよ!」と声をかけて塔の入り口に進む。

後ろを振り返ることなく「俺が前、イブとライブは横だ。真ん中がイイヒートさんとシーシー、シヤは殿、撃ち漏らしは出さないようにするが空からの強襲も考えられるから油断はするな」と指示を出す。

今回はイイヒートよりも先にシヤが「はい!」と返事をした。


スカイタワーはラージポットのようにフロア毎に魔物が変わるのではなくランダムに現れて襲いかかってくる。


「このフロアは飛行型メインか…」

「ウインドブレイド!」

「ウインドエッジ!」

「サンダーアロー!」

「イイヒートさん、危ないよ!」

「ありがとうシーシー」


「…俺が先行して皆が追いつくってどうかな?」

「ダメです」

「はいダメー」

「6人で行こうよマスター」

「イイヒートさんは守るよ?」

「ご迷惑をおかけします」


そんな話をしながら14階に到着をする。

時刻は11時45分を過ぎた所だった。


ミチトは「ここで12時を待って一気に終わらせたいかな」と言いイブが「了解です」と返事をすると皆頷く。

休憩のような形になりとライブが「ねえシヤ?」と話しかけた。


「なんですかライブさん?」

「あんたマスターが気にかけてるだけあって凄いんだけど才能なのかな?」


ライブはシヤのポテンシャルが気になっていた。手持ちの術はミチトが魔水晶で術人間になった子達に教えたものがメインで数個はあみ出しているがそれはシヤがミチトに保護された時にミチトを見ていて思いついたりしたものばかりだった。

今の戦いでもシーシーや他の術人間達ならサンダーアローの術にしても真っ直ぐ飛ばすだけだがシヤはカーブさせたり威力を適宜調整したりと芸が細かい。


シヤは皆からされるこの質問には慣れたものの変わらず困った顔で「前にトウテでもそうやって言ってもらえましたけど自覚がありません」と言う。

ライブはライブで気になる事を放置できる正確ではない。

聞ける事は何でも聞く。


シヤとミチトの方に行って「マスター、シヤってなんでこんなにやれるの?無限魔水晶じゃないんだよね?」と聞く。

ミチトはシヤの顔を見て頷くと「うん。普通の魔水晶だよ。なんで出来るのかは想像の範疇からは出ないけど環境かな?」と答える。


「環境?」

「うん。詳しくは言えないけどシヤは術人間にされてから俺に会うまでの環境が過酷で経験が半端ないんだ」


そう。無限術人間には2つの製法が存在する。

無限記録盤と魔水晶、無限魔水晶を用いた無限術人間模式と自然発生する無限術人間真式。

真式は幼少期から心を殺され続ける過度の重圧と緊張。限界すら認められぬ肉体と精神の消耗。その中で自らの意思で力を振るう事で覚醒をする。


ミチトの読みはシヤは術人間にされて脱走をしたその時に肉体の限界を超えて行動をし、捕らえられ無意味な再施術で記憶が消えるまで追い込まれた事が偶然真式の発生条件に近かったのではと思えていた。


「だから無限記録盤が術を理解するけどシヤ自身も術を理解しようとしてるんだよ」


この説明に合点の言ったライブが「シヤは凄いね」と言うと少し離れた場所に居たイイヒートも頷く。照れたシヤは「イイヒートだって剣が強いじゃないか」と言うとイイヒートは剣を見せながら「あはは、ありがとう。俺はまだまだだよ」と答える。


そして剣をじっと見つめて「スティエットさんやサルバン嬢の足元にも及ばない。まだまだだよ。それにシヤが強くなってくれるとイイ訓練相手になるから助かるよ。それにシーシーも治癒院から声がかかるくらいの腕前だから安心して怪我もできるしね」と言って笑うとシーシーはジト目でシヤとイイヒートを見て「シヤとイイヒートさんは怪我し過ぎ」と言う。


そのまま3人で「仕方ない」「仕方なくない」「大目に見てくれないかな?」と話すのを見てミチトが「良かった」と漏らす。それを見ていたイブが「マスター、よかったですね」と声をかけるとライブも「私も嬉しい」と言った。


この会話に気付いたシーシーが「マスター?ライブさん?」と聞くとイブが「マスターとライブは王都の皆をいつも心配してるからこうして皆と仲良く出来ているのを知れると嬉しいんですよ」と言う。


そしてスカイタワーは正午を迎えた。

イブの「さあ12時になりますよ」と言うと皆が身構えた。

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