第7話 地下喫茶。

この後ミチトは「さあ!地下喫茶ですよ!」と言われたイブに半ば強引に連れて行かれた。

モバテから話の回っていた受付のガードマンから中に通されるとオーナーが「ようこそおいでくださいました!」と1番奥の1番お高い席にミチトとイブを案内をする。


そして値段のないメニュー表を見たイブが驚きの声をあけながらも給仕にきたメイドに「ケーキよりもフィナンシェとマドレーヌとプリンが欲しいです」と言い、それを聞いたオーナーが「メニュー表に無いものでも全て最上級のモノをご用意させていただきます」と言いにくる。


この会話で「私、王都の柔らかいプリンよりも硬めの物が好きなの」とイブ…アイリスが言うとオーナーは自信ありげに「お任せください!」と言い、本当にアイリスが「わぁ、1番美味しいかも」と喜ぶプリンが出てきた。


プリンにニコニコのアイリスが「ミチトさん、このプリンの話をしてスカロさんに作ってもらっても良い?」と聞く。

スカロはミチトと暮らすアクィの兄。

貴族サルバン家の当主で甘党。

自身でスイーツを作ってしまう腕前の持ち主なので言えば作れるとは思うがミチトとイブが地下喫茶に行ったなんて知ったら後がどうなるか分からない。

なのでミチトは「地下喫茶で食べたプリンを作ってって言うの?ダメだよ」と言って注意する。


アイリスは諦めきれずにオーナーを呼ぶと「店売りとかする気はないからプリンのレシピを売って」と言う。

ニコニコとしているイブとは違い、気品のようなものがあるアイリスが言うとオーナーは嬉しそうに「お客様はお目が高い。少々値が張りますがよろしいですか?」と聞き返す。


アイリスは「ええ、今日のスポンサーには私から言います」と言い切ると「ありがとうございますお客様」と喜んだオーナーはミチトを見て「お客様はいらっしゃる度に貴重な経験をさせてくださいます。おありがとうございます」と礼を言った。


ミチトは苦虫を噛み潰したような顔で「いえ、こちらこそ」とだけ言った。


アイリスはお菓子とお茶に舌鼓を打ってこれで済むかと思ったがそんな訳もなく、これでもかと密着してきてキスをせがまれた。



ミチト達は2時間ほど地下喫茶で過ごして大鍋亭に帰る。


「お帰りなさい!遅かったけど大変だったの?」と言って駆け寄ってくるリナにミチトは「オーバーフローですか?10疲れた内の1ですよ。残りの9は王都です。4回焼き尽くそうかと思いました」と不貞腐れながらリナに抱きつく。


王都に行くと大概が不機嫌になるミチトにリナが「よしよし」と言いながら優しく抱きしめて頭を撫でるその後ろで薄緑色のロングヘアの美女、ライブがイブに「お帰りイブ」と言いながら近づくと「…ん?あ!マスターとイチャイチャしたな!マスターの匂いがする!ズルい!何してたの!」と怒る。


リナがミチトを抱きしめたまま「イチャイチャ?」と聞くとミチトも慌てる事も取り繕う事もなく「まったく、皆して俺が怒っているからそのままじゃリナさんの所に返せないからってイブに余計な事を吹き込んだんですよ」と愚痴る。


その後ろで答え合わせのようにライブが「え!?イブはマスターと地下喫茶に行ったの!ズルい!私とマスターだけの思い出だったのに!」と言って怒る。


「ライブとの思い出?」

「…このトウテに住んですぐに3日間2人きりの日があったじゃないですか。あの時にイシホさんとグルになって思い出作りのその後の日に連れて行かれたんです」


この言い方と展開に呆れるリナが「成る程、皆よく考えるわね」と言ってミチトに同情をした。


ここでローサの所から戻ってきたアクィとメロの耳にも今の話が入ると「は?地下喫茶?ミチト不潔よ!」とアクィが怒り始める。「絶対誤解してるよ…」とミチトが肩を落としてもアクィの暴走は止まない。


何となくイライラが最高潮になったミチトはリナの制止を無視して、無理矢理地リナを連れて下喫茶に転移した。


今までは連れてこられただけの売り物の子羊のようだったミチトがリードをしてパッと見ではドレスコードがない感じのリナを連れてきて堂々と「俺は客だ」と言う。

この超展開に慌てたガードマンがオーナーを連れてくるとオーナーが引き気味に「お客様…?ワタクシもこの仕事は長いのですが1日に二度も、それも別の方といらっしゃったのはお客様が初めてで御座います」と言う。


ブチギレて居るミチトはそんな事に反応もしないで貴族達から支払いを肩代わりして貰える書状をこれでもかと出して「誰の奴でもいいんで1番高い部屋、空いてますよね?」と聞く。


書状に書かれた名前を見て目の色を変えるオーナー。

知る限り重鎮達からまだ家督を継いでいないが将来を有望視されている若い貴族まで数多くの書状が提示された。


「はい。ワタクシ共はいつでもお客様のご来店をお待ちしております」


この後ミチトとリナは1番高い部屋に通されると紅茶とケーキのセットを頼み。ミチトはこれでもかとリナを抱き寄せてキスをする。


キスの合間、ケーキを食べたリナが「ここにイブとライブと居たの?」と聞く。それは浮気を咎めるようなものではなくどちらかと言うと同情するもので、ここはとにかくミチトの好みではない。ミチトはリナの頭に自分の顔を近づけてリナの匂いで自分を満たしながら「悪趣味ですよね。俺はリナとこうして居るのが1番です」と言う。


「それにしてもここってこれ以上は無理だよね?」

「そうてすね。きっとこの気持ちで帰って続きは燃え上がるんだと思いますよ」


「わかるかも。早く帰りたいもん」

「俺もです」


こうして夜の開店があるので1時間と少しで帰った訳だが、アクィが良く知らない地下喫茶に対する想像のみで煩かったので翌日にはアクィとメロを連れてもう一度地下喫茶に行くミチト。


アクィ…アクィ・サルバンは貴族の令嬢でミチトの剣筋に惚れ込みそこからミチトに恋をした女性。


メロ…メロ・スティエットは本来はミチトのハトコで面識はなかったが貴族のお抱え魔術師だったバロッテス・ブートがミチトに負けた意趣返しにミチトの生まれ故郷からミチトの妹だと思い連れてこられて術人間にされてしまった少女。

無能の施術でまばらに記憶を失い、その後も覚える先から忘れてしまっていたメロは助けてくれたミチトに父になって欲しいと願いアクィに母になって欲しいと願っていた。

その事からミチトをパパ、アクィをママ、そしてリナをお母さんと呼ぶ。


ミチトは左手でアクィを抱き寄せながら右手にメロを抱きあげて店の入り口に降り立つ。

前代未聞の事態に頭を抱えたガードマンがすぐにオーナを呼び出すとオーナーはミチトを見て笑う。


「お客様…、ワタクシもこの仕事は長いのですが、2日連続、全4回とも別の方といらっしゃりお嬢様まで同伴されたのはお客様が初めてでございます」


この言葉に今日もキレているミチトは答えずに「1番高い部屋、今日は誰の書状がいい?」と聞く。オーナーは嬉しそうに「頼もしいお言葉でございます。お客様のお勧めは?」と聞き返す。


ミチトはこの事態を引き起こした2人の顔を思い浮かべながら「ロキ・ディヴァントかモバテ・チャズ」と言うとオーナーは「おお、素晴らしい!本日も最高のおもてなしをさせていただきます!」と言ってオーナー自らミチト達を部屋まで案内する。


メロは部屋に入ると狭い部屋に家族3人がすし詰めになった事に喜びながら「パパ、このお部屋面白いね!」と言う。ミチトはキレていてもメロにはちゃんとするので「メロ、ロキさんの奢りだから後でありがとうを言うんだよ」と言うとメロは「うん!」と言った。


アクィは周りを見ながら「ミチト…ここにライブとイブとリナさんと来たの?」と言いながら出てきたケーキセットをひと口食べる。

アクィが心配するようないかがわしい状況にならない事を伝えながら「そうだよ。普通だろ?」と言うとアクィはヤキモチの顔で「ズルいわイチャイチャして」と言う。


呆れるミチトが「…そこ?」と聞くと「そうよ」とアクィが言った。


ミチトは普段なら自分からしないが「仕方ない。ほら…」と言ってアクィを抱き寄せてキスをする。

それを見たメロが「わぁ!パパとママのチュー!」と言って喜ぶ。

メロはもっとミチトとアクィが仲睦まじければいいのにと思っているので邪魔をしないでケーキを食べて「パパとママと3人で居られてメロは幸せ!パパがママにチューしてくれて嬉しいよぉ!」と言っている。


こうして1時間を過ごしたミチトはさっさとトウテに帰ると5日程トウテに引きこもる。それが後々響く事を今はまだ知らない。

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