第6話 機嫌直しの地下喫茶。

ため息を一つついたモバテが「ったく、そんなに眉間にシワを寄せてたらリナさんの所にこのまま帰すわけには行かねえな。イブさん、ミチト君と地下喫茶でのんびりしてきてくれねぇか?」と言った。


王都に住む人間ならモバテにため息をつかせただけで人生が終わってしまう事と同義で何とか機嫌をとりなそうと奔走するがミチトは意に介さない。

だが今モバテの口から出た「地下喫茶」の言葉は捨て置けない。


ミチトは「え!!?」と言って怒気も何もなくモバテを見る。


そんなミチトの慌てようが気になったイブが「地下喫茶?」と聞くとモバテがイブを見て「ライブさんから聞いてないか?イシホ・カラーガの紹介でミチト君は行ったんだぜ?」と説明をする。


地下喫茶は王都で知る人のみが知る喫茶店で、狭い個室に高い調度品や上等なテーブルやソファが用意されていてそこにパートナーと行ってエスコートをする側、お金を持つ側は価格が表記されたメニュー、エスコートをされる側には価格が非表記のメニューを渡して注文をする。

価格帯は一般的なケーキセットが平民1人が切り詰めれば生活できる数ヶ月分の生活費に相当する金額で、注文後は何時間でもパートナーと2人きりで濃密な時間を過ごすことが出来る。一言で言えば金持ちぶりを自慢したい男が女性を招待して半密室で好きなだけイチャイチャ出来る喫茶店である。


ここは元々貴族のアプラクサス・アンチが率いるアンチ派の貴族が営んでいる店でライブとイシホ・カラーがの策略でミチトは連れていかれていた。

地下喫茶の名に益々慌てるミチトが「え!?なんでモバテさんが知ってるんですか?」と聞く。


「ああ、アプラクサスとアンチ派は隠してたけど私の耳には入るんだよ。私の奢りだから好きに飲み食いしてくれよ」


この言葉に愕然とするミチトの横でロキが「…ミチト君、なんて所に行ったんですか?」と聞く。ロキの耳にも地下喫茶の噂やどんな店かくらいは入る。


ミチトは渋い表情で「…ライブとイシホさんにハメられて無理やりですよ。ロキさんもマテさんとどうですか?」と返す事しか出来なかった。


当のイブ…と言うかアイリスは水を得た魚のように嬉しそうにアイリスにならないように努力しながら「マスター!ご機嫌直すためにプリン食べたら行きましょう!」と言う。


どんな目に遭うか想像できたミチトが「ええぇぇぇ…」と漏らすと、モバテ達はイブがプリンを食べるのを待つ事を辞めて城に行こうと言い出す。


この事で逃げ場のなくなったミチトを見てヒュドラが「真式様、ご苦難のご様子。我々も陰ながら応援させていただきます!」と言うと金色も「妾も四つ腕とヒュドラを連れて謁見を成功させて参ります!」と言い「それでは!」と四つ腕魔神が挨拶をする。


結果イブがプリンを食べ終わるまでミチトとイブ、マテはこの場に残りお茶を飲む羽目になる。


「マテ、帰りは迎えを寄越しますので馬車で先に帰っていてください」

「楽しかったぜマテさん。イブさんがプリンを食べるまで付き合ってくれるとありがたいな」

この要求にマテは「はい。お任せください」とキチンと挨拶をしてロキ達を見送った。

全員の姿が見えなくなった所でマテが振り返ると「ミチトさん。そんなに怒らないでよ」と声をかける。その顔はディヴァント領のサミアで散々見たマテの顔でリナを彷彿させる。

ミチトは口癖になっている「王都嫌い。貴族嫌い」と言いながらマテを見る。


「それにしても地下喫茶ってどんな所なの?お姉ちゃんとは行ったの?」

マテの言葉にミチトはリナとあの空間に居るのをイメージして「…あ、リナさんと行くのはアリかも」と行った。


しかもイブは地下喫茶を知っていて「マテさん、ライブが言ってました!地下喫茶はすごく豪華で狭い部屋で仲良くくっついてお茶を楽しむ所だそうですよ」とどんな所かを教えてしまう。


マテは意外そうに「ミチトさん、そこにライブちゃんと行ったの?」と聞く。

ミチトは渋い表情のまま「ハメられたんですよ」と言うとミチトとリナの関係も知っていて応援していて、更にライブ達の気持ちも知っているマテは「大変ね」と言った後で「お姉ちゃんも連れて行ってあげてね」と言った。


そんな話の後で出てくるプリンを食べたイブは、モバテ邸のプリンが好みの味過ぎて「凄い!モバテさんのお家のプリンが美味しすぎます!」と感動の声を上げる。

モバテ邸の使用人達が喜ぶイブに感謝を告げ「また来てください」と言うとイブも「是非!」と返した。


執事たちがタイミングを伺っていて、イブが食べ終わるタイミングで待たせていた馬車が到着した事をマテに伝えるとマテは「じゃあ、ちょうどお迎えも来たから私は帰るね」と言う。

イブはニコニコと「マテさん!また!」と言ってマテも「うん。イブちゃん、またね」と言う。


ミチトは立ち上がってマテの前に立つと「マテさん、王都はやな事とか無い?」と聞く。

それは自身が王都に合わず王都に来ると嫌な思いをする事の方が多いからでそれを察しているマテは「ミチトさん?ありがとう。平気だよ」と言って微笑む。


「ロキ様も優しいしフラ君達がたまに会いに来てくれたり街を散策していてもミチトさんの術人間の子達が私をみて声かけてくれるから平和だよ」

ミチトは自分の術人間達でトウテではなく王都に住む事を選んだ子達にマテやロキ達をよろしく頼むと伝えている。

術人間の子供達はマスターであるミチトに言われた通りキチンとマテを見かけると声をかけたり邸宅に顔を出して調子を聞いたりしている。


ミチトはホッとした顔で「良かった。何かあったら言ってね」と言った後で少し怖い顔で「こんな所焼き尽くすからね」と言う。マテは「もう、怖い事言わないで。またね」と言って帰って行った。

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