第5話 ミチトの不満。
話自体は終わるがこれで帰れるわけもなくロキが「さあミチト君、金色様の所に行きましょう」と言う。
ミチトは一瞬で機嫌を悪くして「…俺が行くのはモバテさんの家までですよ。俺はその先は嫌です」と言った。
困った表情のロキが「そろそろ覚悟を決めませんか?」と言ってもミチトは「パスです」と切り捨てる。
先程までのミチトと違う姿にヒュドラが心配そうに「真式様?」と聞くとミチトは申し訳なさそうに「この国の王様がダンジョンから生還したヒュドラ達と挨拶をしたいって言うんだよ。だから金色とロキさんと行ってきて欲しいんだ」と説明をする。
「真式様は?」
「俺は行かないよ。権力とか偉い人とか貴族とか苦手なんだよ」
ヒュドラが「はあ…」と意外そうに返事をするとロキが「ミチト君はもう何回も今みたいに王との謁見を拒否しているんです。困ったものです。ただ会ってくれれば良いと言っているのに…」と言うとミチトが「…爵位とか言われたら嫌すぎです」と言って顔を背ける。
「ロキさん、馬車?転移します?」
「帰りの事もありますから馬車です」
王都では貴族はあまり外を歩かない。
理由がないと馬車も使わないのかと馬鹿にされる事が多い。
ミチトがいるおかげでロキ達に何かを言う者は多くはないがゼロではない。
「了解です」と言って屋敷の外に出るとミチト達は用意された馬車に乗ると数分の距離を移動する。
城にどんどんと近付くと立派な豪邸の前で止まる。
そこはモバテ・チャズ。
摂政を務める重鎮の邸宅だった。
余談だがミチトは頑としてモバテ達の爵位については聞かない。
公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵等があるがミチトは一律で貴族は偉い人でまとめていて「これ以上誰が上だの誰が下だの知りたくないです。それ以上求めたら金輪際王都には来ません」と言っている。
庭先には豪華なテーブルが出ていてそこでは老人と女性、そして褐色肌に金の装飾が映える服装の美女と初老の男性がお茶をしていた。
老人は「お、来たな。今日はイブさんも来たのか。それなら今すぐにプリンだな。イブさん好みの固めの奴を用意するからな」と言うとイブが嬉しそうに「はい!ありがとうございますモバテさん!」と返事をする。
モバテはイブを見て孫が遊びに来たように嬉しそうに笑うと「いやいや、オーバーフローお疲れ様。オーバーフロー後なのに服の汚れも無いんだから凄いものだな」と言う。
イブは「ありがとうございます!イブはマスターの完全な無限術人間ですから余裕です!」と胸を張る。
ミチトが暮らすトウテで一番大きいと言われる胸を強調してしまうイブにミチトがオヤジの顔で困っているとモバテが「んで、ミチト君はご機嫌ななめか?」と聞く。
ミチトはご機嫌斜めには答えずに「こんにちはモバテさん。とりあえずファーストテイクはステイブルですよ」と報告のような挨拶をする。
モバテも慣れたもので「爵位か?謁見か?どっち言われた?」と聞くとミチトが「謁見ですよ。嫌ですからね」と釘を刺す。
「わかってるよ。ロキ殿も挨拶ついでに言っただけだよ。今日もミチト君はオーバーフローでお疲れだから帰ったと言うさ」
この言葉で落ち着いたミチトが横のヒュドラに「ヒュドラ、こちらがモバテさん。挨拶して」と言うとヒュドラは「はじめまして。ヒュドラです」と挨拶をする。
ヒュドラの挨拶にモバテは席を立ちキチンとお辞儀をして「モバテ・チャズです。千年ぶりの御生還、心よりお祝い申し上げます」と言うと、ようやく女性達がミチト達に話しかける。
リナに似たドレス姿の女性が「ミチトさん。そんなに嫌なの?」と聞くとミチトは「嫌ですよ。マテさんはよくモバテさんとお茶が出来ますね…」と言う。
マテはリナの妹で、かつてディヴァント領に振りまかれた毒呪術の呪いで死に瀕して居たがミチトが治療をし、ロキの母ローサの手引きで平民と貴族の間柄を無視してロキと付き合う事になりロキが王都に住む際に一緒に王都に住む事になった。
マテが「モバテ様に誘って貰えて金色様と四つ腕様と一緒に来たんだよ」と説明をしている横でヒュドラが懐かしそうに「おお、久しいな金竜!四つ腕!」と言って話しかける。
褐色黒髪の美女、金色は「お主、今の話だとヒュドラに変化したのか?」と聞き、姿勢のよい初老の男、四つ腕魔神が「何故私のように四つ腕魔神にせんなんだ?」と聞く。
ヒュドラは「四つ腕魔神だぞ?腕が四つなど怖気がする」と言って身震いすると金色が「首三つは良いのか?」と聞き四つ腕は「謎だな」と言った。
一通り話が済むと金色が立ち上がって「真式様、ありがとうございます。妾からも礼を言わせてください」と言う。
ミチトは「いいよ金色、昨日から王都で済まないね」と言うと四つ腕も立ち上がって「真式様、私からも礼を言わせてください」と言う。
ミチトは昨日の今日で四つ腕魔神がどうだったかを気にして「いいよ。四つ腕さんもお疲れ様。王都はどうだった?」と聞く。四つ腕は「煌びやかで目が回りました」と言って笑う。
本心なのか無理をしているのかはかり切れないミチトは自分ならば王都ではなくディヴァント領に住みたい気持ちからロキに「ロキさん、四つ腕さんとヒュドラさんはどうなります?」と聞く。
ロキは少し返事に困りながら「まあモバテ様とも話していますが人数が増えてきたので王都に屋敷を一つ用意してそこにお住み頂くかダイモにお住みいただくかですね」と説明をする。
ミチトがジト目で「本人達の意見を優先してくださいよ?」と言うとロキは「わかってます」と言う。
ロキは「じゃあイブさんがプリンを食べたら四つ腕殿も謁見を頼みます」と言うと四つ腕魔神は2日連続のステイブルなら一緒に王に会おうと言う話になっていたので「任された。金色から聞きました。これが我々をお救いくださった真式様の為になるとの事。お任せください」と言った。
この言葉でミチトの機嫌が悪くなる。
ミチトの機嫌を察したイブが「マスター、怒らないでください」と言ってミチトを制する。
ミチトは不満げに「なんで千年耐えてくれたのにわざわざ王様に挨拶なんてしなきゃいけないんだ」と漏らす。
この言葉にロキとモバテは困った表情をする。
このやり取りは何回もされていてミチトの言い分もわからないではないが全てがうまくいくのはボスモンスターたちと王が話をする事だった。
「真式様、ご安心ください。我々も元はただの人でした。人の世の流れは理解しています。それに金色から聞きましたが王はキチンと我々を人として扱ってくれます。お優しいお気遣いありがとうございます」
四つ腕魔神の言葉に少し空気が和らいだミチトにロキが「ミチト君、そんなに心配でしたら謁見をしてトーシュ王の人となりを見てみては?」と持ちかけると即答で「パスです」と言われる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます