第3話 イブ(アイリス)とステイブル。
周囲にはミチト達と魔物しか居ない中、イブは可愛らしい少女の顔から年相応の女性の顔になると「ミチトさん。やっと2人きりです」と言って嬉しそうにミチトの腕に抱きつく。
今2人の周りにはミチト達を狙うゴブリンや蜥蜴人間が居るが近づく個体は次々に風の術で斬り刻まれ、火の術で焼け焦げていく。
ミチトはイブを見て「やあアイリス。これの為についてきたの?」と聞く。アイリスと呼ばれたイブは「ふふ、そうですよ。週に一度しか2人きりの時間が無いから自分で作るの」と言って嬉しそうにミチトを抱きしめた。
イブはかつて王都の司書官だったシューザ・エシューの手で無限術人間になった際に生来の記憶を失った。シューザが寿命を迎えた時にミチトはシューザの遺産としてイブを家族に迎えた。
そのイブはミチトがラージポットのオーバーフローを一度目に無効化する為に仮死した際に生来の記憶、自身がかつてアイリス・レスという名で生きてきた事、人攫いに攫われてラージポットに連れてこられた事、死に瀕した時シューザの手で無限術人間になった事を思い出していた。
そしてラージポットのオーバーフローに備える為にミチトの手で無限術人間に再施術された時、自身にアイリスの記憶がある事を告げて2人きりの時は、マスター、ミチト・スティエットのスレイブ、イブ・スティエットではなくアイリスとしてミチトをマスターではなく名前で呼び、自身をアイリスと呼んで貰っている。
現在確認されているミチト以外に一定水準で無限術人間を生み出せるのは故シューザ・エシューとミチトの弟子と呼ばれているクラシ・ヤミアールという貴族の若者。
シューザは死に、クラシは心の問題でミチトから術人間を生み出す事を禁じられている。
シューザが生み出した術人間は記憶の喪失はあったが暴走等の失敗はしない。
だが一つ特筆されるのは生前の強い願いがある程度術人間を支配する事。
イブは連れ攫われる直前、家庭不和の経験から家族を求めていて家族を何より優先し、家族に害をなすものを許さない。
その為、アイリスはイブの家族を優先する気持ちを受け止めながらアイリスの時だけ家族ではなくミチトを異性として求めている。
今もオーバーフローの最中にも関わらずアイリスは近付く魔物を術で斬り裂きながらミチトに抱きついている。
ミチトは呆れながら「ほら、さっさと終わらせて帰るよアイリス」と言うとアイリスは面白くなさそうに「私とミチトさんが本気を出せばあっという間だからもう少しだけこうしていたいのに…」と漏らす。
確かにミチト1人でも余裕だし、ミチト最強の摸式であるイブが居れば本気を出せば30分もかからずにステイブルが出来る。
時間がかかるのはミチトが魔物の死骸を全て売り飛ばそうと回収可能な形で倒しているからであった。
アイリスからゆっくりしたい旨を言われたミチトは「ええぇぇぇ?」と言うと狙い通りと言った感じでアイリスが「じゃあキスしてくれたら終わらせてもいいですよ?」と言う。
肩を落としたミチトが「それ以外は?」と聞くのだが即答で「イヤです」と言われてしまう。そしてミチトが何かを言う前に「ミチトさんは昨日ヒスイちゃんにもキスしましたよね?」と言う。
「…ライブがまたバラしたの?」
「違いますよ。ヒスイちゃんは嬉しい事があるとずっとニコニコするしミチトさんとキスをした日は何かにつけて唇を何回も触ってニヤニヤするからバレバレなの」
その姿が容易に想像できたミチトは「マジかぁぁぁ…」と言って俯く。
ライブもシューザが生み出した無限術人間。
イブ…アイリスと共に攫われた少女で本名はヒスイ・ロス。
イブ程無限記録盤との親和性も無く、術人間としてはイブより一段劣る。
一段劣ると言っても今やミチトの手で再施術されて高水準の2人を比べると違いは継戦能力や出力面の話だけで、イブの本気が山を完全に消滅させるとしたらライブは8割から9割しか消滅出来ず、イブが3日間戦い続けられるとしたらライブは2日半から2日と18時間といった所になる程度の差しかない。
そしてヒスイの強い願いは「家に帰りたい」という事で助け出して今の家に帰らせてくれたミチトに惚れ込んでいて何かとアプローチをしてきている。
昨日オーバーフローをしたリブートストーリーのダンジョンにも半ば強引についてきてあっという間に魔物を蹴散らしてご褒美にキスをねだっていた。
ミチトはリナを愛していてそれをハッキリと公言しているのだがリナの母のティナやラージポットのボスモンスターの金竜こと金色からも独り占めは良くないとリナは言われ、ミチトも一夫多妻を推奨されている。
それによりライブは堂々と妻になると言う。
そしてミチトにも問題はあり、虐げられ蔑まれ続けNOと言えない環境、言わせてもらえず聞いてもらえない環境に居た結果、強引に迫ると何とかしてしまう。
それ故に生き延びてこられた事もあり、ミチトは自身を器用貧乏と自称するようになったし昨日のリブートストーリーでもライブとキスをした。
「それとも、ミチトさんが私好みの何かをしてくれたらキスは我慢してもいいですよ」と言って小悪魔的な笑顔でミチトに迫るアイリス。
キスが決定事項にある事を察して「ったく…」と悪態をつくミチトは「アイリス、行くよ」と言うと左腕でアイリスを抱きかかえたまま「水魔術…滑走術!」と言って大地を滑ると右手の剣と風の術で手当たり次第に魔物を斬り裂き土の術で飲み込んでいく。
ミチトはアイリスの顔を見て「どうかな?」と聞くとアイリスは顔を紅潮させて「王子様に守られるお姫様みたい!」と喜ぶ。
ミチトはアイリスの喜ぶ顔を見て満足そうに「良かったよ、じゃあ今日はキスは無しだね」と言うのだがアイリスは「残念、私は守られるだけのお姫様じゃないの!」と言って「アイスランス!」と言って氷の槍を生み出して魔物達に刺していく。
何となくアイリスなら抱きかかえて魔物を倒せば喜んでくれると思っていたのだが読みが外れたことに「ええぇぇぇ…、これじゃあダメ?」と聞く。
アイリスは「うふふ」と嬉しそうに笑うと「ダメ。それにここでやめたらキスは2回にしちゃいますよー」と言って笑う。
「マジか…、でもステイブルすると正気に戻ったボスモンスターの前でキスする事になるよ?」
「だから今……、ミチトさんと私なら目を瞑っても周りが見えるから…このまま敵を倒しながらして?」
アイリスは戦闘中なのだが潤んだ瞳でミチトの目を見る。
目でおねだりをしてきている。
諦めたミチトは「…アイリスのキスは長いからなぁ。ボスモンスターが正気に戻ったらやめるよ?」と言うとアイリスは「それは仕方ないかな。でもここのボスモンスターは何?」と聞く。
「聞いてないけど何だろう?昨日は四つ腕魔神だったよ」
「なんか金色さん以外は皆四つ腕魔神とかプラチナサラマンダーとかばかり」
「そうなんだよね。なんかあるのかな?」
「ミチトさん、あそこ珍しい!見た事ないのが居る!」
アイリスが指さした方には三首の蛇がいた。
「あれはヒュドラと言うやつか?」
「ボスモンスターかも知れませんね」
ボスモンスターがわかれば後はさっさと魔物を倒すだけになる。
ミチトは「ああ、アイツだけ無視して…」と言ったのだがアイリスは「ほら、誤魔化さないでキスして」と言ってミチトの頬に手を伸ばす。
諦めて呆れたミチトは「…ったく」と漏らすとアイリスが「…ミチトさん」と言って目を閉じる。
「おいでアイリス」
「うん…」
ミチトは抱きかかえたままのアイリスにキスをするとアイリスもミチトの首に手を回してキスに応える。
その間もアイリスが放つアイスランスが周りの魔物を串刺しにしてミチトの風の術が魔物を斬り刻んでいく。
「もっと……ミチトさん…もっと……」
アイリスは息継ぎのたびにそう言いながらキスを続ける。
薄らと開くアイリスの目は金色になっていて術で周りを見ている事がわかる。
あっという間に辺りの魔物が一掃された所でヒュドラが「こ…ここは…私は?」と言った。
ヒュドラが意識を取り戻した所でミチトが「終わった。アイリス」と声をかけるがアイリスは誤魔化すように「…もっと…」と言う。
ミチトは「ダメだよ」と言ってアイリスを放すとヒュドラの前に行き「目覚めましたね?」と声をかける。
ヒュドラは不思議そうにミチトを見て「あなたは?」と聞く。ミチトは「俺は無限術人間真式」と名乗った。
「真式様!?」
「はい。金色…金竜や四つ腕魔神さんも可能な限り保護しています。よく1000年も耐えてくれました。ありがとうございます」
その言葉にヒュドラが三つの首で周囲を確認しながら「ではここをステイブル…」と言うとミチトが「はい。とりあえず管理を頼めますか?」と言った。
「はい。ダンジョン範囲外に魔物の流出はありません」
「ありがとうございます。じゃあ出口を開いて仲間と話をしたら皆の所に案内しますね」
ミチトはそう言うと出口を塞いでいた術たちを破壊してヒュドラを連れて外に出た。
アイリスはイブに戻っていて「マスター、お疲れ様でした!」とニコニコ笑顔で言っている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます