第2話 器用貧乏、ミチト・スティエット。

ミチトは剣を腰に装着すると目の前の女性に「リナさん、ちょっと行ってきますね」と言う。リナは「うん。無理しないでね」と言ってミチトに微笑む。


ミチトは「平気ですよ」と言って笑いかけてリナを安心させようとするがリナは少し表情を曇らせて「2日連続のオーバーフローなんて…」と漏らす。


ミチトはリナを安させたくて「昨日のステイブルは2000だったし、ライブも来てくれましたから2時間でしたよ」と言うのだがリナは「うん…。それでもね」と言う。


「今晩はリナさんとの日だから全部片づけてゆっくり休ませてください」

「もう、ミチトはうまいんだから」


ミチトと呼ばれたのがラージポットを救った器用貧乏。

リナはラージポットでミチトが出会った最愛の女性。



そこに駆け寄る腰まで伸びたピンク色の髪の毛が印象的な女性がニコニコと愛らしい笑顔で「マスター!今日はイブも行きますよ!」と言う。


ミチトは意外そうに「ええぇぇぇ?イブも行くの?」と聞くとイブは面白くなさそうに「何で嫌そうなんですか?」と聞き返す。


「見た感じ高難度のモンスターも居ないから俺1人で余裕だし、その時間があればイブはローサさんの所でマナーの勉強とか練習とか…大鍋亭の仕込みとか…」とミチトが言うのだがイブは認めない。


イブが「ライブと行ってイブと行かないのはズルいです!」と言い出した所でリナが仲裁するように「ほら、そんな事を言ってる間にスードが死んじゃうわよ。イブ、ミチトをよろしくね」と話を纏めてしまう。


イブはニコニコと「はい!マスターの完全な無限術人間に任せてくださいね!」とリナに答えるとミチトを見て「行きますよマスター!」と言う。

リナの表情とイブを見てどうする事も出来ないミチトは「…仕方ない」と諦めると「目標点はさっきまで話してたスードさんにして…転移術!」と言った。


ホワイトアウト。

先程まで飲食店にいた筈のミチトとイブは次の瞬間には魔物で溢れる平原に居た。

ミチトは周囲を確認しながら「ここが平面ダンジョン、ファーストテイクか…」と言う。

横に居るイブが「始まってますねマスター。どうします?」と聞く。


「とりあえず…イブは俺を守ってね」

「了解です!」


ミチトは一瞬集中をすると「広域伝心術!」と言った。

広域化させた伝心術でミチトの見たモノや考えを一定範囲の人間に伝える。


「ここはディヴァントの剣が引き受けます!ダンジョン攻略係は俺の送るイメージの場所まで後退をしながら追走する魔物だけを殺してください!」

この間もミチトは剣で迫る蜥蜴人間を切り裂きイブは鉱石人間を斬っている。


2人とも無理のない感じで魔物達を斬り裂きながら「北側の出口は封鎖します!近くのファイヤーチャリオットの皆さんは東側を目指してください!」とダンジョン攻略に力を貸してくれる冒険者チーム・ファイヤーチャリオットに指示出しをすると、ファイヤーチャリオットは指示に従い東を目指すとミチトは魔物もいない北側の出口を「氷結結界!」と言って氷の魔術で氷の魔術で閉じてしまう。


ミチトは「南も封鎖します!イブ!俺達は中心を目指すぞ!」と言うとイブは「了解です!イブも術を使います!南出口をアースランスで塞ぎます!」と言う。

イブは最終的にミチトが生み出した最強の無限術人間模式。

ミチトの使う術未満の術も再現していくし、高威力で高出力の術を放って行く。



「ありがとうイブ、この先は東西の出口を塞ぐまで各隊の殿に迫る魔物だけを術で倒すよ!」

「はい!ニュースターさん!逃げてください!」と言ったイブは遠くを走っているニュースターを見て「長距離でアイスランス!」と言う。

イブが20本のアイスランスを飛ばすと殿の全身鎧に身を包んだチームニュースターのリーダーを狙っていたゴブリンの群れに突き刺さる。


このファーストテイクのダンジョンは盆地の窪みの中に出来たダンジョンで出入口は東西南北にそれぞれ用意されていてそれ以外は鋭利な岩山で登って外に出る魔物は居ない。

そもそもオーバーフローが始まらなければたまにダンジョンから出そうになる個体は居るが稀も稀でそんな魔物はほぼ居ない。


30分もするとほぼ全員のメンバーが脱出に成功する。


ミチトとイブは遠くを見る遠視術で状況を見ながら指示を出す。

「残りはスード隊だけです!援護しますから脇目も振らずに撤退してください!」

「イブが追い風をしますよ!ウインドブラスト!」


この言葉の通りスード隊に追い風が吹き足早に出口に向かう。

スード隊を狙っていた鉄蜥蜴の魔物はミチトが放った雷の術で打ち倒されていた。



スード隊が出口を抜けた事を確認したミチトは「よし!出口を塞ぐ!氷結結界!」と言って出口を封鎖する。

今この場にはミチトとイブ以外には魔物達しかいない。


後は正確なステイブルを行うだけになる。

正確なステイブルと言うのはダンジョンのボスモンスターを倒さずにダンジョンがステイブル(安定)するまで魔物を倒す事。


本来、ダンジョンが出現する事をダンジョンバースと呼ぶ。

そのダンジョンのボスモンスターを倒す事をダンジョンブレイクと言いブレイクさせればダンジョンは消え去る。

そして何もせずに十年を過ぎるか一定数の魔物を狩った場合等にはダンジョンはオーバーフローと言う魔物が外に向かって溢れる状況になる。


一度オーバーフローを起こすと通常ではどうする事も出来なくなり、バニシング…消失かステイブル…安定させるしかなくなる。


オーバーフローは7日間の間に範囲内で定数の命が散る事でステイブルし、逆にその数を満たさないままに7日を過ぎるとバニシングしてしまう。


器用貧乏、ミチト・スティエットはここでダンジョンを生み出す為に人から魔物にその身を変えたボスモンスターを救う為にボスモンスターを倒さずに生まれ続ける魔物だけを倒してステイブルさせようとしている。

そしてステイブルが終わるとボスモンスターは理性を取り戻し人に戻る。


ミチトはこれを正確なステイブルと呼ぶ。

当初の予定には無かった事だがボスモンスターが生き残るとダンジョンのモンスターが管理可能になる事も判明をした。

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