死後の世界
かがむと割れる三段腹
死後の世界
「死後の世界」
死後の世界と言われているが、死んだ先には
死後の世界は何もない。それじゃなんだか味気ない。肉体焼かれて埋められて、魂虚ろじゃ味気ない。
それじゃ作れと死後の世界。老若男女みな笑う、そんな世界を作れるならば、作って見せよと神様が、
ほいと投げたその匙を、みなで救って飲む話。ご堪能いただければ恐悦至極にございます。
「死後の世界と言ったって、天国作ればいいじゃねえか」
筋肉隆々の若い男があっけらかんと言う。
「そうねえ、仏さまに祈ってりゃ極楽浄土に逝けるって話が、本当になるんだから」
服とはとても呼べない、ボロボロの布切れを纏った痩せた老婆が、曲がり切った背骨をさすりながら頷く。
キリスト教の祭服を着た男性が教え説くように、
「仏様ではなく、神様ですよ。イエスキリストが姿を変え、私たちを試しているのです。清く正しい心で臨めば、神も祝福してくれます。」
浴衣を着崩してちょんまげを生やした男がけっ、といって、
「俗にいうパライゾ*ってやつか、ここに縄でもあればしょっぴいて役所に突き出すっていうのに」*キリシタン用語で天国
そう吐き捨てるように言う。
「あれは神なんかじゃない、より高次元を生きる存在が、気まぐれに遊んでいるだけ。話すだけ無駄だよ」
色白で茶髪を腰の長さまで伸ばしている少女が卑屈そうに答える。
「まあまあ、神様の話は置いといて、死後の世界をどうするかですよ」
白いひげを蓄え紳士服を着た、還暦辺りの老人が諭す。
「そうだな、天国ったって人それぞれで、すり合わせていかねえと」
「死後の世界にネット環境があるんかな」
「ネット?」
「未来の技術だよ。スマホでも持ってりゃ手っ取り早いんだけど」
「うん、人種も時代も様々な人間がこうして向かい合い話ができるとは、まごうことなき神の所業だな」
「菊ちゃんと結婚できる世界が僕の理想だな」
「菊ってあの芸能人の?」
「勿論」
「俺の理想も菊と二人で暮らすことだ、諦めるんだな、お前みたいな奴とじゃ菊が可哀そうだ」
「何言ってんだ、この野郎!」取っ組み合いのけんかが始まる。
「この場合はどうすればいいんだ? ものは望めば幾らでも手に入るが、人を望めば実らぬ者が出てくるぞ」
「ものが望めば手に入るのだから、人も手に入らぬ道理はない。各々が菊と暮らせばいいではないか」
暴れていた二人の手が止まり、不思議そうな顔で声のする方向を見つめる。
「何言ってんだ、菊は一人しかいねえだろ」
「老若男女が満足する一つの世界、そんなものあるわけなかろう。それならば一人づつ違う死後の世界を貰えばいい。それで老若男女みな死後の世界を享受できる。
菊とやらが君たちに死後の苦痛を強いられることもない」
毒のある言い方だが、それもそうだと納得し、その論広まり喧噪が、静まりかえり幕閉じる。
一人一つの世界が欲しい。そういったらば神様が、怒り頂点怒気はらみ、
つけあがらせれば人間は、欲望の底を知らぬ
死後の世界 かがむと割れる三段腹 @raihousya
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