第8話 バラック・前編

 転移の魔法陣を抜けた先は長い通路が続いていた。


 バラックは頭上の魔法球をチラリと確かめてから歩き始めた。


 全身鎧フルプレートメイルに身を包んだ寡黙な重戦士、バラック・ダリアント。


 彼は冷静に、なぜビリーがこんな事をしたのかを考えていた。


 彼から見たビリーは【完成された冒険者】だった。


 剣を振るえば重戦士とはいえ専門職の自分と互角以上に渡り合い、幅の広い魔法は凡庸性なら最高位の魔法使いであるクラマリオをさえ凌駕している。


 確かに、最近はアインダークがやたらと絡み、クーリーンが冷たい態度を取ってはいた。


 迷宮に潜っても以前程の活躍は出来ていなかったが、それでも、ビリーがいなければ睥睨の迷宮を踏破する事は無理だったかも知れない。


 バラックはそう考えていた。


 アインダークやクーリーンが絡むのは当人同士の問題だ、バラックはそれを取りなすような器用な真似が出来る男では無い。


 それに、ビリーがソレを本気で気にしているとは思えなかった。


 だから、バラックはビリーがなぜこんな事をするのか考えていた。


 迷宮に入った時のビリーの伝言の魔法球の言葉でさえ、バラックは本心では無いと思っていた。


 ナニかがある。


 バラックはそう確信に似た思いを胸に、寡黙に通路をひたすら前進していた。


「む、」


 前方に、かなり距離があるがナニかの気配を感じた。


 バラックは剣を抜かずに大盾を構えた、先ずは攻撃を受けて様子を見るのが自身の耐久力と魔法耐性に絶対の自信を持つ彼の戦闘スタイルだった。


 全ての攻撃を受け切り、相手が消耗した所を斬る。


 バラックの必勝戦法である。


 ゆっくりと相手に近付いて行くと、ナニかの正体は人為的に造られた魔躁傀儡マジックドールだった。


 天秤の大賢者が創った人造人間ホムンクルスを模造して造られた紛い物である。


 マジックドールはバラックに気付くと魔法球を投げて寄越した、バラックは一瞬身構えたが、ソレは通信用の魔法球である事に気付く。


〈バラック、君には僕の創ったマジックドールと遊んでもらおう。 中々に良い出来栄えだろう? そのマジックドールを倒す事が出来たら扉は開くようになっている〉


 やはり、通信の魔法球から聞こえてきたのはビリーの声だった。


 視線を向けると、マジックドールの後ろに扉が見えた。


〈言っておこう、君の戦闘スタイルでは絶対にそのマジックドールは倒せない。 やれば直ぐに分かると思うけどね、頑張ってくれたまえ〉


 フッと通信の魔法球が消えるとマジックドールは右手に赤い魔力球、左手に青い魔力球を創り出した。


 バラックは大盾を構えてゆっくりと近づく、マジックドールが赤い魔力球をバラックに向けて打ち出した!


 バラックがそれを大盾で受けた瞬間


 どかあぁんっ!


 巨漢のバラックが数メートル後ろに吹っ飛んだ!


 なんとか、転ばずに着地は出来た。


 殆ど痛みは無いがバラックは驚愕した、自分が攻撃を盾で受けてこんなに後ろに飛ばされたのは初めてだからだ。


 コレではマジックドールに近づく事が出来ない、バラックは遠距離攻撃を持っていない。


 マジックドールは更に手のひらに赤い魔力球を創り出した。


 バラックは小さく、冷たい汗をかいた。




 ======



 水晶球でバラックを見つめてビリーが満足気に笑みを浮かべた。


「仕掛けは上手くいったな。 バラック、君には打って付けの玩具オモチャだ。 君の"鉄壁"ではソイツに近付くことは出来ないだろう。 心ゆくまで楽しんでくれ」

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