第5話 別れの迷宮
アインダーク、バラック、クーリーン、クラマリオ、マナルキッシュの5人は迷宮の入口に立っていた。
鬱蒼とした森の中に突然現れた大岩、大岩には誰かがくり抜いた様な穴が空いており、その穴は人が2人は並んで入っていける程の幅がある。
間違いなく、かつて滅んだ魔族が人間を誘い込んで喰い殺そうと口を開けた穴だ。
穴の中はすぐに下り階段になっている、入口は迷宮の管理者である冒険者ギルドにより結界が張られている。
ビリーが指定したのは低位、別れの迷宮。
ビリーの言葉通りに4日分の食料を用意して旅に出て、ここへ着くのに1日を要した。
残る日数は1日。
今日中にこの迷宮の最深部まで辿り着かないと白金貨50枚という莫大な価値の魔水晶を失う事になる。
「さぁ、さっさと行ってビリーの顔をぶん殴ってやろうぜ」
そう言うアインダークの口調にはいつもの覇気は無い。
ここへ来るまでも、全員の顔は暗いものだった。
ビリーの魔力球での言葉は全員に暗い影を落としていた。
それを振り払うように出したアインダークの発破も、空回りしているようで誰も反応を返さなかった。
アインダークはそんな雰囲気に誰にも聞こえないように小さく「はぁ」と溜息をついて迷宮の入口に
迷宮を封じていた結界が消えて通れるようになる。
「行こう」
チラリと後ろを振り返って言ってから、アインダークが迷宮へと足を踏み入れた。
全員が迷宮に入り、階段を下っていくと辺りはすぐに真っ暗になった。
クラマリオが懐からスクロールを取り出して発光する魔力球を創り出した。
このスクロールはビリーが単身で迷宮に潜っている頃に作った物だ、光る魔力球なら魔法を使える者なら誰でも作れるが常に手を翳して魔力を送り続けないと消えてしまう。
それを、最初に一定量の魔力を注いで消えないようにし、尚且つ、使用者の頭上を追尾するように魔法陣を組んだのだ。
クラマリオがこのスクロールをビリーから渡された時、スクロールの繊細な術式を見て魔法学校を首席で卒業した彼が初めて魔法という分野で敗北感を覚えた。
階段を下りきるとそこには広めの空間があり、通路が4つあった。
通路は右側に2つ、正面に一つ。左側に一つだ。
空間の真ん中、中空に魔力球が浮かんでいた。
「ビリーの通信用魔力球ね」
マナルキッシュが魔力球に手を伸ばした。
〈ようこそ、入口の結界はアインダークの
簡単に言うが、冒険者ギルドの創った結界をいとも簡単に操作した事にクラマリオが静かに息を呑んだ。
〈僕は迷宮の最奥で待っている、勿論、魔水晶も一緒にね〉
「くそ、ビリーの奴。 面白がりやがって」
アインダークが悪態をつく、ビリーの声は楽しんでいるように聞こえた。
〈さぁ、早速始めよう。 アインダークとマナルキッシュは正面の通路へ。 クラマリオは左側の通路。 クーリーンは右側の下り階段を背にして手前の通路、バラックはクーリーンの隣の通路だ〉
「なにさ、皆バラバラに行くの?」
クーリーンがぼやく。
〈安心してくれ、ふふっ、僕が安心してくれって言うのもアレだけど。 別々に進んでも最後は同じ場所に着くようになっているから。 この迷宮は【別れの迷宮】と呼ばれている、どうだい? 今の僕達にピッタリだろう? そしてその名の通り、別れて入ってそれぞれに置いてあるマジックアイテムを手に入れないと最後の扉が開かない様になっているんだ〉
全員が伝言を聞きながら訝しげに顔を見合わせる。
〈まぁ、一つ一つルートを潰してマジックアイテムを拾っても攻略は可能だ、僕はその方法で踏破したしね。 だけど、それだと24時間以内に最深部の扉を開くことは不可能だ。 それは断言しよう。 まぁ、僕が1人で攻略したんだ、君も余裕だろ? アインダーク・・・〉
ビリーは明らかにアインダークを挑発している。
〈ははっ。 さぁ、頑張って攻略してくれたまえ〉
そこで通信の魔法球からの声は途絶えた。
「む、行くしか無いだろう」
バラックが最初にズンズン歩き出して通路に向かった。
「バラックさんお待ちを、コレを持っていった方が良いでしょう」
クラマリオが光のスクロールを渡した。
「む、俺には魔力は無いが・・・」
バラックがクラマリオの差し出したスクロールを見下ろして言った。
「魔力は込めておきました、読み上げるだけで光が出ます。 皆さんも持って行って下さい、暗くなる前にスクロールを読み上げて下さいね」
クラマリオがそれぞれにスクロールを手渡した。
アインダークがそれを見て思案顔をしている。
「アインダークさん、どうかしましたか?」
「いや、何でもない。 バラックの言う通りだ、行くしか無い。 マナ行くぞ。 皆、最深部で会おう」
アインダークはマナルキッシュを伴い正面の通路へと。
クラマリオは「ふー」っと息をついて左側の通路へ。
バラックは黙したまま。
クーリーンは「はぁ、なんで1人なのさ」とボヤきながら右側手前の通路へとそれぞれ入っていった。
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ビリーは最深部のフロアにいた。
地べたに座り背中を土壁に預け、片膝を立てて膝に肘を置き。
その手には両手に余る程の大きさの水晶球が乗っている。
その水晶球には通路を奥へと進んでいく5人の姿が映し出されていた。
「さぁ、頑張ってくれよ」
そう呟いて苦笑した。
「もう、カウントダウンは24時間を切ってる。 速くして貰わないと間に合わなくなってしまう」
もう片方の手を開き、手のひらを上に向けた、フワリとナニかが浮かぶ。
そこに映し出された物を見てビリーは少し焦りを覚えた。
「せっかくのエンディングを見逃したくないからな」
ビリーは水晶球に呟いた。
その声は、どこか落ち着きがなかった・・・
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