第4話 カウントダウン

〈皆、今は僕を必死に探していた所だったかな?〉


 テーブルの中心に浮かんだ白い魔力球からビリーの挑発するような声が聞こえる。


〈そりゃそうか、白金貨で50は下らない魔水晶デモンインテンションを持っていったんだからね。 皆の慌てる顔が目に浮かぶよ。 はっきり言おう、僕は銀色の風シルバーウィンドを抜ける事にした。 魔水晶デモンインテンションを持ってね〉


「んだとっ」


 ドカンとテーブルに身を乗り出してアインダークが叫んだ。


〈いい気味だよ、中位迷宮では散々と僕に頼っておいて。 上位迷宮で躓いたからって僕をまるで厄介者の様な扱いだったからね。 なんなら、上位迷宮での戦闘隊形を組んだのは僕だって言うのに・・・〉


 一方的に恨み節を聞かされてアインダークは歯軋りするしか無かった。


 クーリーンは鼻に皺を寄せて不機嫌な表情をしている。


〈睥睨の迷宮にしたって、僕のブラインと作戦が無ければ攻略は不可能だった。 ブラインが使えれば誰でも良かったと考えるかい?〉


 すぐにそれを頭で否定したのはマナルキッシュとクラマリオだった。


 あれ程のレジスト耐性を持った複眼のベヒーモス。


 しかも眼は複眼を持つベヒーモスにとって最大の武器だ、それをあの長時間、ブラインを掛け続けるのは神業と言っていい。


〈まぁ、それはいいさ。 もういいんだ。 それでも、君達の力に・・・ いや、マナを護れるならと思っていた〉


 皆の視線がチラリとマナルキッシュを捉えた。


〈それも、もう・・・ いい〉


 魔力球からは暫く何も喋らずにビリーの静かな息遣いが聞こえる。


 マナルキッシュは無意識に胸元をぐっと押さえた。


〈僕は、迷宮に1人で散々潜っていた。 思えばあの頃が1番楽しかったかもしれない。 死地を1人で何度も何度も切り抜けた。 生きてるって感じがしたよ。 今の迷宮攻略は駄目だ。 僕は後衛だからね、全然楽しくない。 だけど、これ以上は僕はいくら頑張っても強くはなれなかった〉


〈悔しくて堪らなかったよ、アイン、いくら頑張っても君ほど剣に闘気を載せることは僕には出来なかった〉


〈クーリーン、僕はいくら頑張っても君のように速くは走れない〉


〈バラック、僕は君ほどの耐久力も魔法耐性も無い〉


〈クラマリオ、君くらいデカい魔力キャパシティが欲しいよ〉


〈マナ、君みたいにどんな傷でも治せたら、君くらい愛の女神エルデリンの加護を受けられたらな〉


〈僕は、君達の長所以外では全てにおいて勝っている。 だけど、君達のその1点にだけはいくら頑張っても勝てなかった。 それだけで「何も出来ない」と吐き捨てられた〉


〈我慢ならないんだよ〉


 その声は先程までの軽い声色では無く、底冷えするような強い怨みが篭っていた・・・


〈そこでだ、僕のまぁ、下らない仕返しに付き合ってくれないか? もし、君達が勝てれば魔水晶デモンインテンションを返そうじゃないか〉


 打って変わって、また軽い口調に戻る。


〈期限は今から2日、それ以内に僕の指定した迷宮の最奥に来てくれ。 もしも、期限内に来れなかったら・・・〉


〈魔水晶は永遠に戻らない・・・ なに、迷宮は低位の物を選んだ。 まぁ、かなり僕が色々と手を加えた迷宮だけどね。 今から2日だ、きっちり来てくれよ。 それを過ぎれば・・・ 分かっているよね?〉


 全員が息を呑んでビリーの言葉を聞いている、彼の声音は今まで感じた事の無い程に、彼の気迫を感じた。


〈さぁ、カウントダウンだ!〉

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