第3話 消えたシーフ

 酒場で見たのを最後に、ビリーは姿を消した。


「ビリーのヤツ、どこに行きやがったんだ!?」


 テーブルに肘をついて頭を抱えてアインダークが呟いた。


「まさか、魔水晶もってトンズラこくなんてね」


 テーブルに頬杖をついてクーリーンがぼやく。


「・・・ ん、クラマリオはどう思う?」


 バラックがクラマリオに意見を求めた。


「そうですね、あれ程の魔水晶です。 売るのは不可能でしょう、正規のルートは勿論ですが。 闇の市場ブラックマーケットでもすぐに知れ渡り、一瞬で足が付くはずです」


 クラマリオがこめかみをトントンと叩きながら喋る、彼の考える時の癖だ。


「だな、だったらなんだ? 嫌がらせか?」


 アインダークが椅子に座って後ろに仰け反りながら天井を仰いだ。


 ビリーが姿を消して5日が過ぎた。


 マナルキッシュを除いた4人は宿に借りた大部屋でテーブルを囲んで話し込んでいた、いくら行方を探しても分からない。


「にしても、なんであんなデカい魔水晶を持ち歩いてんのに目撃証言一つ無いんだ?」


 いくら聞き込み歩いてもビリーを見たという話を何処からも聞くことが出来なかった。


 ビリーはまるで煙のように消えた。


「認識阻害の魔法を使っているのでしょう、ビリーさんは元々が1人で低位迷宮を突破する程の冒険者ですからね。 街中の人の目を誤魔化す程度は訳ないでしょう」


「小賢しい野郎だな、こんな事ならとっととパーティから追い出しときゃ良かったぜ!」


 ドカンとテーブルを叩いてアインダークが怒鳴る。


「考えられるのは魔水晶の用途ですね」


「どういう事だ?」


 クラマリオの呟きに、アインダークが先を促す。


「魔水晶の用途、使い道です。 あれ程の大きさの魔水晶。恐らくは古の魔王、ガーシャッドを封印していた魔水晶と同等の大きさでしょう。 内包している魔力は凄まじい、売ることが出来ない物を盗んだんです。 自分で使うのではないでしょうか?」


 クラマリオの言葉に全員が口を噤んだ。


「・・・ む、クラマリオ、一体、何に使うと思うんだ?」


 沈黙を破ったのはバラックだった。


「そうですね、ビリーさんは何に対しても造詣の深い方ですから。 可能性としては、兵器の開発や、そうですね。 極小化して自身に取り込み不老不死を手に入れるとか・・・」


「おいおい、話がぶっ飛びすぎじゃねぇか」


 半笑いでアインダークが話の腰を折る。


「まぁ、確かに成功例は聞いた事がありません。 ですが、天秤の大賢者と呼ばれたフォン・ヴァンデルフが創り上げた人造人間ホムンクルスの核は超圧縮した魔水晶だったと言われています。 なんにせよ、あれ程の魔水晶です。 使い方さえ知っていれば大抵の事は出来てしまうんですよ」


 全員がビリーが創り出した様々なマジックアイテムを思い浮かべた。


 一体、ビリーは何を作り出すつもりなのか・・・


「他にも、可能性としてはですが。 人間1人なら何処かに閉じこもって水も食料も半永久的に作り出してスローライフ。 なんという事も可能です・・・ まぁ、それは無いでしょうが」


 一瞬、アインダークとバラック、クーリーンが顔を見合わせた。


 まさか、自分達が死ぬ思いで手に入れた魔水晶がそんなつまらない事に使われたら。


 そんな思いが過ぎった。


 その時、部屋の扉が開いた。


「ビリーから連絡がきたわ」


 立っていたのは険しい顔をしたマナルキッシュだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る