第3話 感情爆発

 俺はいつかきっと警察に捕まるのだろうか。恐らくそうだ。…これだけ盗賊として長いのだ。警察は全力で俺を捜索しているだろう。…連続盗難の犯人を放置しておくほど警察は甘くない。今もなお窃盗をし続けている犯人を放置するなんてありえないだろうから。…死にたくはない。だけど恐らく…死はそこまで迫ってきているのだと思う。死期はすぐそこまで…きているのかもしれない。

 死期というのは寿命という意味ではない。死ぬ瞬間と表したほうが正確だ。死期が近づいているというのは死ぬ時が近づいているということだ。俺は盗賊だ、死期なんて近いに決まっている。悪人になるということは死期も近いという運命を背負わなければならない。極悪人となればもっと近くなる。…俺はもうそれを自覚している。警察の奴らはどうしても俺をひっ捕らえて死刑にしたいというのが本音だろう。毎回毎回、仕事を増やし、迷惑ばかりかけている犯罪者。たとえ俺が子供であっても容赦はしないだろう。子供でも犯罪者は犯罪者なのだから。

 「…ふぅ…」

 朝だけどやることがない。今は窃盗をしても意味がない。…いや意味はあるかもしれない。「貯蔵」という意味があるのかもしれない。…でも今は…「貯蔵」する必要性は低い。まだ食料がいっぱいあるのだから。最低限の食料さえあれば俺は窃盗しない。毎回やっていたらパターンを予測されて捕まるだろう。ランダムであれば俺は捕まる可能性は低い。パターンがなければ…だ。どの日に…どの時間帯に来るのが分からなければ捕まることはない。…犯罪者に向いていたのかもな、俺は…。何も…というかそんな才能なんていらないけど。

 下手に町に降りれば警察の聞き込みでバレてしまうかもしれない。俺は身分を証明するものを持っていない。それで怪しまれて身元を調べられたらおしまいだ。神無月冬真…その名前に行き着いたら殺人犯だということがわかり、もしかしたら窃盗犯だとバレてしまうかもしれない。昔の顔は整形したから正確な顔はわからないけど名前バレしてしまったら終わり。…本当に死期は近いものだ。

 「…」

 遊ぶものはなにもない。学ぶものもなにもない。暇をつぶすものもなにもない。…あぁ…生きているという実感がない。何もしていないし、痛みも感じないし、楽しいとも感じない。俺は生きたいと思っているけどまだ実感を感じていない。生きてはいる…だけどそう思えない。

 そしてまた、何もしないまま…数日が過ぎていくんだ。俺は何もすることがないから…生きていると実感していない。掃除や洗濯、料理などはしているけどそれ以外は何もすることがない。…どうすれば生きていると実感することが出来るんだろう。

 数日が経って俺は「また」食料とかがなくなって町へ降りた。そしてまた、誰かの代物を奪う。…これ以外の生き方があったのなら教えてくれ。我慢すればよかったのか?暴力や暴言を振るわれ、みんなから「殺人犯」という目で見られても…あの生き方のほうが生きていられたのか?もっと…もっと幸せに…生きているって実感出来たのか?今はもう分かることは出来ない。…もうこれしかないんだ。これしか思いつかないからこうするしかないんだ。

 「…すまん」

 「きゃあ!?」

 「あ…せ、窃盗犯だ!」

 俺もすっかり悪い意味で有名になってしまった。こういう有名人になるのは好きではない。だから好きでなっているというわけではない。

 「ま…待って…!」

 …は?

 後ろからまた聞いたことのある声が聞こえた。とりあえず無視して人目につかないところへ行かないと…。あいつに気を取られて捕まるわけにはいかない…。というかあいつに追いつかれてたまるか…!

 「はぁ…はぁ…」

 …誰もいない。これなら…戻れそうだ…。

 「い…いた…!」

 「っ!?おい…ウソだろ…?」

 まさかまたあの常識知らずに追いつかれるなんて…あいつの身体能力もバカにならない…。常識知らずだから平気で俺についてきやがって…。また「人助け」か?馬鹿馬鹿しい…。鬱陶しいやつだ…自分が正義みたいに行動して…「人助け」して得るものなんて何もないのに…!

 「は、反省…して…。財布盗むなんて…悪いことなんだよ?」

 「…反省?」

 どうすれば反省することが出来るんだ。人生を悔やめばいいのか?こんな人生いくらでも悔やんでいる。こんな人生望んでいなかったし、本当は幸せになりたかった。…反省なんて出来るのか?そもそも…反省だけで済むのか?どうせ反省して死刑だろ。それか反省の方法が死刑か。…みんなはそれを望んでいるんだろうな。自分たちの幸せを壊す可能性がある存在なんだから。

 「警察にいって…反省しよ?それできっと更生する…」

 そんなわけない。更生なんてさせようとしてくれない。終わる。人生が終わる。…それぐらい分かれよ。常識知らず過ぎて怒りが湧いてきた。こいつなんて無視して…隠れ家に戻ろう。こいつに関わる意味なんて俺にはないんだ。だからこいつの話を聞き入れる必要性もない。…だから戻る。常識知らずの相手するほど今の俺は暇ではない。警察が来るかもしれないからもう戻って…。

 「蛍!」

 「…は?」

 …蛍?それって…。

 「いきなり走らないで…って蛍、後ろにいて!」

 「…おい」

 「何…?蛍に…」

 「お前に聞いていない。後ろにいる常識知らずに言っている」

 「わ…私?」

 なんだろう。俺の中にある怒りが「蛍」という名前の影響で膨張していっている気がする。「蛍」、それは俺が憎んでいる相手の名前。見たことがあると思っていたのは気の所為ではなかったのか。本当に見たことがあったんだ…。…まさか憎んでいるやつに…会うなんて…。

 「お前…名字はなんだ」

 「え?…神在月(かみありづき)。私の名前は…神在月蛍(かみありづき ほたる)」

 …確定した。見たことのある顔。そしてこの名前…。…こいつは俺の従姉妹だ。俺の幸せを奪うきっかけとなった人間だ。二度と会いたくない…家族であっても。俺はこいつを家族と呼びたくない。…そんなにも会いたくなかったのに…どうして会ってしまうのか。

 「…っち。蛍」

 「な、なに?」

 「二度と俺の目の前に現れるな。お前の面は俺を苛つかせる事しか出来ないからな」

 「ちょっと!蛍になんて事を…!」

 はっ、この大人は従姉妹の味方ということか?やっぱり俺は犯罪者だから信用がないというわけか。

 「ね、ねぇ…人に悪口を言うのは…」

 …こいつがクリーンな雰囲気、人相を作っている光景は本当に苛つく。お前は清潔な人間ではない。俺と同じで汚い人間だ。…なのになんで。なんでお前は受け入れられているんだよ…!どうしてお前は善人としての人生を許されたんだよ…!俺は「ヒト」であることを強要された!お前も「ヒト」であることを強要…俺以上に強要されるべきなのにどうしてお前は「人」であれているんだよ!?どうして!お前も罪を犯しているのに!どうして俺だけ…!?実際に…俺の母親を殺したのは…!

 「…」

 「警察…いこ?」

 「…黙れ」

 「っ!?蛍、逃げて!」

 「でも…反省させないと…」

 「黙れって言っているんだよ、偽善者が!」

 「ひぃ!?」

 怒りが爆発した。あまりの常識知らずというのと俺の幸せを奪った憎むべき仇敵でもあったから。怒りが…抑えられなかった。罪を自覚していない偽善者なんて俺以上に価値がない。それなのにどうして…!?なぁ…なぁ!?おかしいだろ、「神様」!どうして俺は見捨てられたんだ!?どうしてあいつを救ったんだ!?どうして俺を不幸にしたんだ!?どうしてあいつを幸せにしたんだ!?

 「お前さえ…お前さえいなければ…!俺は幸せに暮らせていたのに…!」

 「な…何のこと?」

 「罪を自覚していない偽善者に生きる価値なんてねぇ!さっさと死ねよ!償いもしていない、罪も自覚していない…それなのに善人?ふざけるんじゃねぇよ!」

 この世界はふざけている。救うべき人間と見捨てる人間を間違えている。理不尽でふざけている。こんな世界で生きている奴らはろくでもない。俺も含めて。

 「死ねって…言いすぎよ!さっさと警察に…」

 「部外者が出しゃばってんじゃねぇよ!事情も知らないくせに…正論めいた事を言うんじゃねぇ!嫌いなんだよ、そういう性格の持ち主は!」

 あぁ、もう抑えられない。憎んで、恨んで…呪って…。俺は身も心も悪になってしまった。だけどそれはあっちも同じだ。だけどあいつは身も心も偽善だ。善人になる生き方しか知らなかったから。…本当に苛つく…!

 「…っ!?」

 遠くからパトカーの音が聞こえる。それで一度落ち着きを取り戻して俺はその場を去ることにした。去ろうとした時…従姉妹が言った。言い放った。言われてほしくない言葉を…俺に向かって。

 「…冬真お兄ちゃん?」

 お兄ちゃん…か。俺はお前の家族じゃない。家族だと認めてたまるか…。俺はお前の兄じゃない。俺はお前の兄ではない。従姉妹だと言っているが俺はお前を本当は従姉妹だと思っていない。

 「…二度とそう言うんじゃない。俺はお前の兄ではない。従兄弟でもないんだ」

 そう言って俺はあの場を去った。そして俺は…あの時のことを思い出していた。

 決して許されない…罪の記憶のことを。

 これを思い出したということは俺は…もう一度やろうとしているのだろうか。

 もう一回…許されない所業を…。


 「…一体…何を…」

 「…」

 「冬真…!」

 「…死ね。死ねよ。俺の目の前から…消えろ!」

 服も顔も…全身が鮮やかな赤色に染まった。

 動脈を切っていた、心臓も指した、手足もボロボロだった。

 原因は?その答えは分かりきっている。

 「…あっは…」

 あっはははははははははははははははははははははははっ!

 あぁ、笑っていたんだ。

 俺は親父が死ぬ姿を見て笑っていたんだ。

 …違う、そうじゃない。

 俺は親父が自分の手で殺せることに笑っていたんだ。

 やっと親父を殺せた、暴力と暴言に見舞われる日々からおさらば出来るんだ。

 …だから…束縛からの解放感で…笑っていたんだ。

 あの時から俺は人ではない「ヒト」になっていたんだ。

 我慢が出来なくなった、死ぬかもしれないって思って自己防衛が働いた。

 …あの時、俺が親父に抱いていた感情は…。

 憎しみ、恨み、呪い…蛍に抱いていたのと一緒だった。

 それが爆発するぐらい感情が抑えられなくなっているのを見るに…。

 俺が大きく「ヒト」の道を進んでしまうのも…時間の問題かもしれない。

 俺は蛍に対して…「殺気」を放っていたんだから。

 母親を殺した仇敵…それが「神在月蛍」なんだから。

 細かく詳しく…分かりやすく言うのなら…。

 あの時の火事…引き起こしたのが「蛍」なんだから。



 「…神無月冬真だったということ?」

 「そうなんだよ。どうすればいいかな?蛍に…なんて言えばいいのか…」

 「それは…」

 「あはは。答え求めちゃってごめんね?大丈夫、私がちゃ〜んと自分で判断するから」

 「いつまで経っても僕を昔の僕のように扱わないで…ちゃんと自分で動くこと出来るから」

 「それぐらい分かっているよ。何年一緒にいると思っているんだよ〜」

 「…長い時間…だよね」

 「ふふ…まぁ、もしかしたら蛍が自分から聞きに来るかもしれないし、そうなったら全て話すつもりだよ。そして知って彼女がどうなるのか…」

 「それで彼女が死んでしまったら?」

 「ちゃんと責任は取る。だけど「彼」の全てを知ってどうするかは彼女がするべき洗濯だと思わないかな〜?」

 「…君は真面目じゃなさそうで真面目だよね。昔からそうだ」

 「私達が初めて出会ってもう数年か〜」

 「…それは恥ずかしいから」

 「そっか〜。というか投稿間に合ったの?」

 「あぁ、間に合ったよ。締切寸前で必死で泣きながらやっていたけど」

 「頑張ったね〜。これからも頑張ってね!応援しているから!」

 ー小説家さん!ー

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