第?話 繝偵ヨ縺ョ蟷ク繧サ

 財布をどこかに放り投げて買い物が終わった。俺は隠れ家で晩ごはんを食べていた。…常識知らずのあの女の子のことを考えながら。

 そもそも彼女は財布を盗まれたやつとは関係がないはずだ。関係があったのなら彼女は近くにいないとおかしい。それなのに彼女は店の中にはいなかった。両親という事も考えたが両親だった場合、なおさら近くにいなければならない。子供を放置する親…いないことはないがそういう「イレギュラー」じゃなかった場合、本当になんにも関係がないってことになる。知り合いでも声をかけるぐらいはするだろう。だけど見た感じ…血縁関係も知り合い関係でもないって感じだった。だったらなぜあいつは俺から財布を取り返そうとしていたんだ?いや、違う…返してと交渉してきたのだろうか?

 …人助け…か?

 …馬鹿馬鹿しい。

 「もし本当なら気持ち悪いし…馬鹿馬鹿しい…!」

 人助けして何になるというんだ…。命が危ういかもしれないのに、それで得られるのは命と絶対に対等にならない。命と対等になるなんて命以外にない…!誰かを助けることで得られるものは自分の命以上の価値が存在するって言うのかよ…!馬鹿馬鹿しい…!どうして人助けなんて馬鹿なことをする奴らがいるんだ…!

 

 「いいえ!子供を守るのが…親の使命だもの!」


 「…っ」

 母親の声が聞こえた。俺を置いて捨てた母親の声が。母親は俺のことを愛していた。親父とは違い、ちゃんと愛してくれていた。当時の俺は…母親さえいればそれでいいと思っていた。それ以上の幸せは望まない…だから成人するまで母親と一緒にいさせて…!と願った。

 けどそれは叶わなかった。母親は自分の命と俺の幸せよりも従姉妹の命を選んだ。そのせいで自分の命を失い、俺を不幸のどん底へ落とした。母親にとって俺の幸せや自分の命よりも…従姉妹の命のほうが大事だと判断された。…母親は俺の幸せを選ばなかった。俺なんてどうでもいい存在と認識されていたのだ。…本当は違うかもしれない。俺の解釈が違うのかもしれない。でも実際に俺は…不幸のどん底へと…落ちてしまっている…!母親は俺を不幸にした…親父と同じように!

 だから「人助け」なんて馬鹿馬鹿しいんだ!自分の命を大事しない奴ら…!自分が死んで不幸になるやつがいるって事を知らない…馬鹿馬鹿しい奴ら!盗賊の俺が言うのは違うのかもしれない。だけど俺も実際「人助け」によって幸せを奪われた一人なんだ!説得力は少しぐらいはあるだろう!?

 親父の命は奪った!だけどそれ以外の命は奪っていない!奪ってしまったら不幸になる人がいると知っているから!俺は確かに盗賊だ。金品やものを奪う泥棒だ!だけどそれは戻せる可能性がある代物…!命は戻ってくることはないんだ…!

 だから…!だから…!だから…!

 「…はぁ…!…はぁ…!やめよう。自分を正当化するのは…」

 自分は悪人だ。許されない悪人だ。それを自覚して自分を正当化するのはやめよう。罪を自覚していないと思われてしまう。それはたとえ「ヒト」だとしてもだめなことだ。「ヒト」は悪人であるけど罪は自覚しないといけない。俺は生きるために悪の道を渡っている。それは普通は許されないことだし、俺自身もそれを理解している。どうして道の変更をしないのか。…俺はもう手遅れだから。善人の道を歩む事なんて…俺には残されていないのだから。

 「あぁ…ごちそうさま」

 …俺が今からでも良いから…善人になれたらどれだけ幸せだったんだろうな。みんなに受け入れてくれない孤独からも解放されて…償いをしながら暮らせるのだろうか。謝罪とか色々させてくれて…俺のこと許さなくても良いけど…普通の暮らしとかを提供してくれて…償いとか…出来たら…。

 …そんな夢を見てはいけない。この世界は俺みたいな「ヒト」受け入れないのだから。それは俺自身がよく分かっていることじゃないか。それなのにそんな夢物語を空想してしまう辺り…俺もまだ新しい幸せがほしいと心の奥底で願っているのだろうか…?俺自身は自覚していないが。俺自身の心を守るために脳は余計な事をする。…本当に余計なことしかしない部位だ。だけどそれが本当に俺を守る役目をしている辺り…いるのかいらないのか…よくわからないな。マジレスすると考えられなくなるから必要不可欠なのだが。

 「…誰だ?」

 さっきから気になっていたが誰もいないはずなのに誰かがいるような気がする。姿は見えない。だけど気配とかでいるような気がするだけだ。人間の気配とはまた違う…虫とかでも人間以外の動物でもない。訳のわからない気配を持った存在がこの隠れ家いるような気がする。

 …誰だ?本当に…「ヒト」の隠れ家に忍び込むなんて。…俺の隠れ家にいるやつは俺と同じ「ヒト」なのか?というかさっきの発言…完全にブーメランだな。あーだめだ…自分を正当化するな…。

 「こんにちは」

 「…何者だ。お前」

 いきなり俺の目の前に現れて挨拶した。俺の隠れ家に忍び込んでいるというのもそうだが、こいつ…見た目が人間ではない。背中に…翼がある。若干水色を帯びている絵本で出てくる天使の羽のような翼が。ホムンクルス…人造人間のようだな…。いや確定しているわけではないが。

 「いきなり何者だとか言われてもね。私は貴方達に名乗るつもりなんてない」

 随分と失礼なやつだな…。俺以上に礼儀がなっていない。盗賊よりなっていないなんて色々と終わっているぞ。しかも名乗らないって…そっちが勝手に俺の隠れ家に忍び込んできたのに…なんだこの傲慢な態度は。

 「ま、会話するに当たって呼び名がないのは不便よね。私のことは「フリューゲル」と呼びなさい。長いなら「フリュ」でもいいわ」

 「…不法侵入しているのに随分傲慢だな」

 「これが私の性格だから仕方がないのよ。直そうとしても直せないし諦めているけどね。でもある程度の常識は備えている…つもり」

 ある程度の常識だけでは足りない。しかも「つもり」って…自分でも傲慢である自覚がないのか?それだとかなりやばいのだが。…性格だからというのは言い訳であるから俺はちょっとこいつが嫌いだ。

 「とりあえず私は貴方と会話したいのよ。リーダーから「不干渉」を命じられているけど運命を変えなければ問題はないから。だから少しだけ会話したいのよ。貴方と」

 すまん、言っていることが訳がわからない。こんなの理解できる天才とかいたら凄いし、そいつ人の心が読めるのか?と疑惑さえも出るぞ。それほどまでにこいつの言葉を理解するのが難しい。難しいとかいうレベルではない。最高峰の難関大学の首席卒業でも理解できるか怪しいところだ。言葉自体の意味は理解できるのだがこの文章の意味を理解できたら凄い。凄いレベルではない…人間の領域を超えている。

 「会話したい…盗賊に話したいことでもあるのか?お前も悪人の常識知らずなのか?」

 「それぐらい理解しているわよ。私が聞きたい事は「貴方にとっての幸せ」は何かと聞きたいだけなのよ」

 …俺にとっての…幸せ?幸せ…なんでそれを聞きたいんだ?俺とお前は何も関係がない。それなのにどうして赤の他人である俺の幸せに干渉しようとしている?…不干渉とか言っていたのに…なんでだ?

 「…理由は?」

 「ただ知りたいから。それ以上でもそれ以下でもない」

 普通だけど返って怪しい。というかなぜ俺のこと知りたいのかを知りたいのだが。聞いても返答が返ってくるかどうかも分からない。…一応聞いてみるか。

 「いや、どうして俺のことを?」

 「知りたいから」

 「俺とお前は何も関係がないのにどうして俺のことを?そもそも俺はお前のことを知らない。初対面なのだが」

 「知りたいから」

 …同じ答えしか返ってこないなぁ…。これはだめだ。これ以上理由を語ってくれそうにない。さっさと返答しろという威圧があるような気がするし、一応答えてあげるか。俺にとって何もメリットはないけどな。

 「…答えるとするなら…俺はただ俺のことを受け入れて…償いをさせてくれるだけでいい。それで幸せなんだ」

 「…それ以上は望まないの?」

 「望まない。罪人だからこれ以上望むと強欲だろ」

 「…へぇ。なるほどねぇ」

 なんだか納得したような返答を聞いた。満足したというのなら別に。俺はそれ以上の望みを持ちたくても持てない。持ったらとても強欲で心も悪人になってしまうから。別に心は今でも悪人のような気がするけど。…いや、気がするではないな。本当に今の俺も心は悪人だ。…だけど…まだ完全な悪人には…なっていないと思いたい。正当化しているわけではない。だけど、強欲になってしまったら心は完全に悪人になる。そうなってしまったら俺は「俺自身」の制御ができなくなる。それで暴走してしまったらどうなるか分からない。だから抑えないといけない。

 「…貴方も結局は人形なのね。人間に操られる可哀想な操り人形…それも生き方の一つだけど」

 「人形…?」

 「意味は別に理解しなくていい。でも、否定はできないでしょ?」

 「…そうだな」

 俺は人間たちに言われるがまま人間たちの予想通りの生き方になったのかもしれない。そう考えると俺はやっぱり人にはなれない「ヒト」なのだと思った。

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