第60話

「海斗〜!」


 凛は我慢できなかったのか、彼女の家の前で俺を待っていた。


「ごめん、遅くなった」


 十五分の遅刻。

 昨日なかなか寝付けなくて、起きたら待ち合わせギリギリだった。


「ううん、大丈夫」


 今日の凛はタートルネックのセーターに長めの黒スカートを合わせている。

 前までダウンジャケットを羽織っていたが、家の前で待つだけなので今日は着てなかった。


「海斗、おめでと」


「凛も、おめでとう」


 二人で抱き合う。

 これからの生活に期待が膨らんでいく。

 柔らかな日差しが俺たちを包み込んでいた。


「とりあえず、家に入ろ?」


 彼女は家に俺を招き入れ、後ろ手で鍵を閉める。


「お邪魔します。んんっ!?」


 急に俺の顔は凛の方へ向けられる。

 その方向には直ぐ近くに凛の顔があって、唇同士の距離が限りなくゼロになる。

 閉じられた目、触れ合う鼻、相変わらず綺麗にしてある髪。いつもの彼女だ。

 凛がしたいことは一瞬でわかった。

 俺は抵抗をせず、いや自ら彼女のなすがままになる。


「海斗……終わったから……もっと……」


 一度、二度唇が軽く触れ合ったあとゆっくり凛の目が開かれた。

 うっとりとした目で彼女は俺を見ていて、少し顔が熱くなるのを感じる。


「もっと……していい?」


「もちろん、俺もそのつもりだった」


 凛の舌が俺の唇の間から口内へ入ってくる。

 俺も少し口を開け、舌を絡めさせた。

 水気を含んでくぐもった、扇情的な音が響きだす。

 だんだんその音は思考力を奪っていき、欲望に忠実にさせる。


「ぷはっ……まずはこれくらい……」


 少し盛り上がってきたところで凛は顔を離した。

 理性が溶けてきたところでおあずけを食らったような感覚になり、欲求がさらに強くなる。

 凛はリビングの方へ進んでいく。

 俺は彼女の背中を追って家の中へと入っていった。

 彼女に追いつくと、後ろから抱きつき体を撫でる。


「もう……ばか……」


 手を凛の頬に添えると、俺の頬よりも熱く感じた。

彼女は少し困ったような声を上げたが、手を振り払うことはせず、寧ろ俺の腰に手を回した。


「凛が誘ってるように思ったんだけど、気のせい?」


「それはそうだけど……」


 お互いの体を触り合う。

 凛の胸を撫でた時、俺はあることに気づいた。


「今日つけてる?」


 彼女の胸が妙に柔らかく感じたのだ。

 いつもはブラで少し硬く感じるのだが、今日はそれがない。

 俺の言葉を聞いて凛は頬をさらに赤くする。


「だって……久々だし……すぐにやると思って……」


 たしかに最近ご無沙汰というか、お互い忙しくてなかなかできなかった。

 凛もきっと期待していたのだろう。

 正直、嬉しい。


「何笑って……」


「いや……そう思ってくれてると嬉しいからさ……」


 目を合わせると、彼女が小さく頷く。

 お互いの服を脱がす合図だ。

 服を脱がすたび、興奮が一段階上がっていった。


「やっぱり……部屋で……」


 彼女の親は外出しているのか、いない。

 でも、流石に帰ってきて見つかるのも嫌だ。

 俺は二人分の脱ぎ散らかした服を抱えると彼女の部屋へ向かった。


「ありがと、そこ置いといて」


 一糸まとわぬ姿になった凛は腕でまだ胸などを隠していた。


「ちょっとまだ寒いな……」


 部屋の中はまだひんやりしており、素肌をピリピリと刺激する。

 

「どうせすぐ暑くなるよ……だから……」


 凛は腕を俺の方に伸ばして向かい入れる体勢をとった。


「きて?」


 俺は彼女の腕の間に吸い込まれる感覚に陥る。

 気づけば凛をベッドに倒して覆いかぶさるように抱きしめていた。


「あったかい……」


 お互いの愛おしい熱を感じる。

 久々にこうして肌を重ねるものだから余計に温かく感じた。

 彼女の顔を見ると、もう興奮などで耳まで赤くなってしまっている。


「ひゃっ……耳舐めないでよ……」


 凛の耳の筋に合わせて舌を這わせる。

 変則的に動かしてやると、それに合わせるように彼女は可愛い声を上げた。


「海斗……やっ……意地悪しないで……」


 凛は耳舐めだけで涙目になってしまい、体を若干震わせている。

 俺は彼女の下半身に触れ、彼女が触ってほしいところを避けて撫で回す。


「なんで……触ってよ……我慢できないの……」


「触ってるよ?」


 凛は泣き出してしまいそうな、震える声で抗議する。

 そんあ声で言われたらもっと意地悪したくなるというのに。


「やぁっ……やだぁ……なんで避けるの……」


 彼女はついに我慢できなくなったのか自分で満たそうとしだした。

 もちろんそれを許す訳にはいかない。

 俺は凛の両手を頭の上で持ち、彼女が自分で慰められなくする。

 彼女は必死にそれを振り払おうとしているが、もうとろけて力も入りにくくなっていて容易に拘束できた。


「そろそろ……いいかな……」


 思考も躰もとろとろに蕩けた凛。

 それを見て俺はさらに興奮してしまう。

 彼女の手を離し、逆に次は両手で恋人繋ぎのように握る。

 凛も応えるように俺の手を握りしめ、もうすぐ襲ってくる快楽に備える。


「じゃあ、いれるよ?」


「うん……」


 ぐずぐずになった思考で彼女が答えたのを見て、俺は彼女に欲望を押し当て、彼女を求め始めた。

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