第55話
目を覚ますといつもの天井。
私の部屋の中ということは一瞬で分かった。
でも、いつもと違うのは体が異様に重たいということ。
それに頭がクラクラする。
「しんどい……」
昨日は海斗とびしょ濡れなった体を温めるという名目で抱き合った。
でも、雨は少しすると上がってしまって、彼の家に行くこともなく家に帰ることになった。
「海斗……」
私は海斗と話したくなって、スマホに手を伸ばそうとする。
しかし腕になかなか力が入らなくて、スマホを落としてしまった。
「なんで……こんなにしんどいの……?」
珍しく今日は鼻も詰まっていて、体も熱い。
頭ではあまり何も考えられず、ただただ怠い。
「もうちょっと……寝たら、。よくなるかな……」
私はもう一度布団にくるまる。
夏だというのに寒くて仕方がなかった。
「凛……?」
母がドアの外にいるようだ。
でも、あまり何も考えたくない。
「凛? そろそろ起きないと……」
母が扉を開けて入って来た。
母は私を起こそうと布団を掴む。
その時、少し私の体に触れた。
「凛? しんどいの? 体が熱いし……」
「ちょっと……しんどい……」
「ちょっと待ってなさいね」
母はそう言い残すと私の部屋から出て行く。
少しすると、母は戻ってきた。
何か細い物が私の脇に挟ませられる。
先っぽがひんやりとして、違和感があるが冷たいのが気持ちいい。
「大丈夫なの?」
「んん……」
だんだん応えるのも億劫になってきた。
私の反応が鈍くなるにつれて、母の心配の度合いも上がっている気がする。
少ししてアラーム音のような音が鳴って、母は私の脇からさっき挟ませた物を抜き取った。
「凛、熱あるじゃない!」
私はその時初めて風邪をひいたことが分かった。
熱があるということを実感した途端怠さがさらに強くなった。
私は少し熱を出すのが好きだ。
この時だけは問答無用でみんな心配してくれるから。
今回だってそうだった。
「凛、これ飲んで……」
母に手渡された錠剤を数粒口に入れ、水で流し込む。
乾いて熱を帯びた喉を水が通っていくと、少し安心した気分になった。
「少し寝ときなさいね」
母は私の頭に冷たいシートを貼ると部屋を後にした。
「う……しんどい……」
それにとても寂しい。
カーテンの閉まっている薄暗い部屋に独りでいるのが少し苦痛だった。
最近は海斗と一緒にいることが多いから、一人でいるのがこんなに辛いということを忘れていた。
「海斗……」
私はベッドから這いずるように抜け出し、床に落ちたままのスマホを拾う。
ベッドに戻るのすら苦労する。
やっとベッドに入りスマホを開く。
すると、真っ先に海斗との連絡履歴が出てきた。
「なんて言ったら……来てくれる……かな……」
私は何回も打っては決してを繰り返す。
「えっちしたいから来てよ……これ、勘違いしそうだからダメ……」
私はしんどいながらも彼を家に呼ぶ言葉を探す。
「会いたいな……ちょっとなんか嫌い……」
本当はこんな時に呼んでも迷惑だと思う。
でも、海斗の姿が見たい。
「今日暇だから、家に来てよ……これでいこうかな……」
嘘は言っていない。
誤魔化してはいるけど。
私はそれを彼に送信するともう一度布団に深く潜り込んだ。
脚とか指先が冷たく感じる。
それに動かしづらい。
「あ、返信きた……」
彼も暇なのか返信は思ったよりすぐにきた。
いつ行けばいいか、という質問だ。
私はいつでも、できるだけ早くと急かす文章を送りつけて再び眠りに入った。
*****
二時間くらい寝ただろうか。
家のインターホンが鳴る音で目が覚めた。
するとしばらく静かになって、バタバタと階段を上がる音が近づいてくる。
「凛、飴井君が来てくれたけど、帰ってもらう?」
母はいつにも増して優しい声でそう言う。
「私……海斗に会いたい……」
本当は風邪をうつしちゃいけないから、会うのはやめた方がいい。
でも、我慢ができなかった。
「じゃあ、少しだけ入ってもらうわね?」
「うん……」
母はまた部屋を出て行って、次に入って来たのは海斗だった。
「凛大丈夫?」
彼心配そうに私の手を握る。
「うん……」
彼の手がいつもより冷たく感じた。
「凛の手……滅茶苦茶熱い……」
彼の手が私の頬へ伸びる。
嫌に火照った頬が彼に撫でられる。
「なんで嘘ついたの?」
彼は優しく問い詰めた。
「寂しくて……」
海斗は一つため息をつくと、微笑んだ。
「熱があるって言ってくれたらもっと何か持って来たのに……」
「だって……風邪って言ったら来ないと思って……」
彼の優しい言葉に思考が解けていく気がする。
「凛、何かしようか……?」
「ん……手……握って……?」
私がやってほしいことを言うと海斗は何も言わず、それをしてくれた。
私の手を包み込むように握って、手の甲をさすってくれる。
「安心する……」
「良かった」
彼がそばにいるのを感じると途端に眠気を感じだした。
「ねぇ海斗……」
「ん?」
「おやすみの……キス……して……?」
私がそうねだると彼は苦笑し、それでも額に口づけをしてくれる。
「手、離さない……でね……?」
「しょうがないなぁ……」
私は子供のようなわがままを言い、そのまま眠りへと落ちていった。
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