第54話
「あれ……」
花火の帰り道、凛が急に空を見上げた。
「どうした?」
彼女は手のひらを天に向け、空を眺めている。
「なんか水滴落ちて来た気がするんだけど……」
「え……」
すると俺の頭や手にも水滴が落ちてきた。
「ちょっ……急ごう! 雨降って来た……!」
俺は彼女の手を取り、自宅の方へ駆け出す。
凛の家はここから少し離れているが、一旦俺の家に行けば大丈夫だろう。
ところがこの考えすらも甘かったようだ。
すぐに雨は強くなり、落ちてくる水滴で痛みを感じるようにまでなった。
「ここ入ろう!」
公園に差し掛かった時、彼女が俺を引っ張って遊具のある方に走った。
凛はドーム状で中に入ることができる遊具の中に入る。
浴衣ももう濡れてしまって動きにくい。
俺は早く帰るのを諦めて凛と一緒に雨宿りすることにした。
「あーもうびちゃびちゃ……」
凛は浴衣の袖を絞りながらそう言った。
携帯はまだ無事だが、濡れてしまったからいつ壊れてもおかしくない。
俺は親に帰るのが遅くなることを連絡して携帯をしまう。
「凛は携帯大丈夫?」
「充電切れてるからわからない……」
俺の携帯も充電は数パーセントしか残っていなかったから切れるのも時間の問題だ。
凛はドームの壁にもたれかかり、走って乱れた息を整えている。
「ねぇ海斗……」
「ん?」
彼女に呼ばれてそちらを見ると、凛の浴衣の胸元がはだけている。
「寒いから……暖めてよ……」
凛はそう言いながら襟を掴んで両側に開く。
彼女の胸元はさらに肌色成分が多くなる。
「ちょっ……! 寒いならちゃんと服着ろよ……」
彼女が何をして欲しいかは分かっている。
いや、分かってしまった。
だがここは人が通るかもしれないし、見つかったら一大事だ。
俺は流されまいと視線を彼女から逸らす。
「ねぇ海斗……目、逸らさないでよ」
凛は俺のそんな考えも分かってはくれない。
分かっていたとしても、絶対やる気だ。
「ダメだって……」
「なんで?」
「だって人が来るかもしれないだろ?」
彼女はチラリと外を見る。
そして、少し悪い笑みを浮かべる。
「大丈夫こんな天気だから来ないって」
「でも、声が出たら!」
「大丈夫雨の音の方がすごいから……だから……」
凛は俺に近づき、耳元に囁きかけてきた。
「少しだけ、しよ? ね?」
寒いと言っている割には熱い吐息が俺の耳にかかる。
バレたら人生が終わるかもしれないという理性が働いて俺からは手を出せない。
凛は俺が手を出さないと知ると不満げな表情になり、両腕を俺の首に回した。
「んっ……ちゅぅ……れろ……はむっ……ちゅう……」
花火を見終わった時のキスとは違う。
誘うようなねっとりした口づけ。
そのせいで冷えて来ていた俺の体もかぁっと熱くなる。
「海斗の体冷たい……」
彼女は俺の口元を舐めながら胸を押しつける。
濡れて張り付いた浴衣がひんやりとするが、ブラがない分柔らかい。
キスだけで彼女の体も俺の体も正直な反応を見せてしまう。
「海斗だって……やる気あるじゃん……」
凛は帯を外し、前を完全にはだけさせる。
脱がそうと思えばすぐに脱がせてしまえるが、それは少しもったいない気がした。
「これは……しょうがないだろ……」
凛は文句を言っているが、俺の体の反応を見て少し嬉しそうだ。
俺は足を伸ばして座ると、凛はその上に向かい合うように座った。
「雨、さらに強くなってきたね」
ドームの外は雨で遠くまで見えない。
それに彼女の声すらも雨が打ち付ける音で消えてしまいそうだ。
「海斗の体熱くなってきた……」
凛は脚を俺の腰あたりで交差させ、俺が逃げられないようにする。
彼女は俺に密着して匂いを嗅いでいる。
もう雨のせいで俺の匂いはしないのか、いつもより長く嗅いでいる気がした。
「海斗はやっぱり海斗だね……」
凛はそっと顔を離す。
「どういう意味?」
「ん? 匂いは雨の匂いが入っているだけでいつもの匂いってこと」
俺も凛の首筋に顔を近づけ匂いを嗅ぐ。
たしかにいつもと違って雨の匂いが混じっている。
それでも凛の匂いもしっかり感じた。
「なんかさ、出会った時を思い出すね」
「雨の中だから?」
「それもあるかも……」
あの時凛はびしょ濡れで、肌も冷たかった覚えがある。
今も少しひんやりしているから、俺にも少し思い出すものがあった。
「あと、海斗の家に飛び込んだ日とか」
「たしかに、あの時も濡れていたな……」
彼女が落ち込んで濡れるたびに俺との中は深まっていったと言っても過言じゃないかもしれない。
それにアソコを濡らすたびにも想いは深まっていったんじゃないだろうか。
そんなことを思って気持ち悪いなと自分を笑う。
「なんていうかさ、濡れた海斗って……」
「なに?」
「水も滴るいい男っていうの? ちょっといいかも」
それを言ったら凛だってそうだ。
濡れてみすぼらしいように思えてもどこか俺を惹きつけるものがある。
彼女は頬に張り付いた横髪を後ろに梳いて耳にかける。
「まだ、雨降ってるから。もっと雨宿りしよ?」
「ああ」
凛に誘われるまま俺は彼女の体を、凛は俺の体を暖め続けた。
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