第50話
「そろそろ帰らなきゃな……」
凛と一緒に寝転んだベッドの上で俺はぼぉっと彼女の顔を見ていた。
「もう、帰っちゃうの?」
ほぼ裸のような格好の凛はまだ物足りないと言った表情でこちらを見ている。
「流石にもう打ち止め」
彼女は俺の腹や頬を撫でていて、またその気にさせようとしているように思えた。
でも、流石にもうやりすぎて体力が残っていない。
それにもうすぐ夕方になろうとしているのにベッドでゴロゴロしているのもどうなのだろう。
「今度いつ会える?」
凛はどこか不安げな表情で訊いてくる。
さっきまで嫌というほど、実際に言っていたけど、鳴かされていたのにまだ足りないのだろうか。
「もっと海斗と居たい……」
か細い声で彼女はそう言った。
俺だってそうだ。
同じ気持ちだ。
「ねぇ……好きって言って?」
凛の瞳には俺の姿が映っていた。
俺は彼女を抱き寄せる。
「好きだよ」
言わないと分からない。
そんなことは誰でも分かる事だ。
でも、なかなか難しい。
だからこそ、こういう時に言わないといけないと思った。
「俺だって、凛ともっと一緒に居たい」
凛の肌から伝わる愛おしい熱。
彼女も俺の背中に手を回して抱きつく。
いつも以上に力がこもっているのに、不思議ときつくはない。
「これ以上は引き止められないよね……」
しばらくお互いに抱擁していたが、凛がゆっくり手を離した。
「ごめん、でもまた会えるからさ」
「うん」
俺は体を起こし、持ってきていた服に着替える。
もしかすると今日初めてまともに服を着たかもしれない。
ブラウスに袖を通していると、凛が俺の前に立って、ボタンをとめてくれた。
「なんか、そうしてくれると……」
「なに?」
これ以上言って良いのか分からずためらったが、凛に聞き返される。
俺は正直に思ったことを告げた。
「凛が奥さんみたいだなぁって、そう思っただけ」
凛が照れたりするのかと思ったが、それを聞いても凛は顔色を変えなかった。
「だって、それを狙ってやってるんだもん」
彼女は一番上のボタンをとめる前に俺の胸に口づけをする。
「んっ……ちゅぅ……じゅぅ……」
少し強めに吸いつかれ、胸に赤い跡ができた。
凛は指で自分の涎を拭き取り、最後のボタンをしめる。
「マーキング?」
彼女のことだから俺が自分のモノだということを示すために付けたのだと思った。
ところが彼女は首を横に振る。
「ううん、お守り。私以外の女が寄り付かないようにするための」
少し頬を赤らめながら凛が言った。
お守りなんて言っているが実際はマーキングとほとんど変わらない。
でも、言い方を変えて恥ずかしさを減らそうとしているのが可愛かった。
「そっか、じゃあ俺も」
俺は胸ではなく、彼女の首筋を吸う。
じりじりと小さな音が鳴って口を離すと、服を着たとしても見える位置に俺のものであるという証ができた。
「ここだと見えちゃう……」
「見えるようにやった」
凛は嫌そうに言っているものの、顔は高揚しており明らかに喜んでいる。
「見えるようにしないと他人から分からないでしょ?」
「確かに」
次は彼女が服を着る。
と言ってもボタンとかが無い服だったので俺が手伝えるところはなかった。
「じゃあ、帰るわ」
「うん」
玄関で靴を履こうとした時、凛に後ろから抱きつかれる。
「やっぱりもうちょっと居て?」
「物足りないくらいが次回楽しめるって考えて我慢できない?」
「できない」
凛は顔をぐりぐりと俺の背中に擦り付ける。
まるで猫のような仕草だ。
「エッチしただけでしょ?」
「ううぅ……じゃあ我慢するからもっと一緒にいて?」
「じゃあその調子で引き止めるのも我慢して」
俺だって凛と一緒にいたい。
でも、このままずるずるいくとダメな気がした。
結局彼女が折れるまでこの堂々巡りは続き、ようやく彼女は俺から離れる。
「じゃあ、またね」
「ね、海斗……」
別れを告げた瞬間、凛は目を閉じて俺に唇を差し出した。
「えっ……?」
「お別れのキス、して?」
どこか気恥ずかしくて俺はキスをするのをしぶってしまう。
俺が硬直していると、しびれを切らした彼女が俺の頬に手を添えて顔を近づけた。
「ちゅっ……これでいい……かな……」
思ったよりもあっさり終わるお別れのキス。
もっとねっとりと長いキスをするものだと思っていたから驚いてしまう。
「なんで、驚いてるの?」
「いや、それは……もっと長いやつかと思ったからさ……」
俺の返答を聞いた凛はくすっと笑う。
「だって、長くやったら私も海斗も我慢できなくなるでしょ?」
「まぁ、確かに……」
彼女も長く引き止められないと感じていたのだろう。
キスを終えると俺から一歩離れた。
「じゃあ、今度こそまた」
「うん、あ、花火大会楽しみにしてるね」
「うん、俺も楽しみにしとく」
俺は玄関の扉を開け、外に出る。
部屋にいた時に感じた自分達の熱気とは違う暑さが俺を包み込んだ。
「気をつけて」
凛は微笑みながら手を振っている。
俺も振り返って手を数回振ると、我が家のある方向に歩き出した。
彼女と次会えるのはいつだろう。
会おうと思うなら理由さえつけてしまえば良い。
そうしたら嫌というほど会える。
そんなことを考えながら俺は帰路を進んだ。
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