第49話

「海斗ぉ……」


 凛は淫らな姿を見られているというのに恥ずかしがるどころか息を荒くしている。

 俺の名前を呼ぶ時もどこか語尾に甘さを感じた。


「もう……」


 彼女は俺が呆れた目で見ているのに、下着を離そうとせず、反対の手も動き続けている。


「そんなに期待してたの……?」


 彼女の前にしゃがみ込み、目線を合わせる。

 頬を興奮で赤き染めている凛は、こくこくと頷く。


「はぁ……あのお仕置き嫌だったの?」


「そうじゃなくてぇ……嬉しかったけど……」


「けど?」


 彼女は俺の首に腕を回し、唇に触れるギリギリまで顔を近づけた。


「期待してたの……だから……我慢できなくてぇ……」


 もはや思考のみならず声まで蕩けている。

 凛は俺の背中に指先で円を描いたり、背筋に沿ってなぞったりしていた。


「もう……そんなに誘ってさ……」


 彼女は料理を作っていた時と同じように、昨日から着ている勝負下着に身を包んでいる。

 その服もとろけきった表情もその体も、全てで誘ってきていた。

 凛がキスをしようとしてあと数ミリで触れる時、俺は彼女を無理矢理押し倒す。


「ひゃっ……!」


 そのままキスをするものだと思っていたのだろう、可愛い声を漏らした。

 逃がさないように顔の横に手をつくと、床の硬くて冷たい感覚が伝わってきた。


「もう……手加減しないからな……」


 体中が熱くなる。

 間違いなく興奮しているし、我慢もできそうにない。

 それなのに凛は俺をさらに耐えれなくさせる表情を見せ、目を潤ませている。


「いいよ……海斗の好きにして?」


 床に広がった艶のある黒髪で彼女の肌の白さがさらに際立つ。

 さらにその中の朱色が彼女の色を出していた。


*****


「んっ……んんっ……」


「よし……と……」


 再び二人で凛の部屋に入ると、彼女を椅子に拘束する。

 両足を広げるように椅子の足に縛り付け、腕は後ろへ。

 猿ぐつわと目隠しをした途端、凛の呼吸がさらに荒くなった。


「興奮してるの?」


 今彼女は視覚を奪われているせいか、耳元で囁くだけで躰が跳ねる。


「んーっ……!んっ……!」


 彼女は逃れようと首を振るが、そのほかの部分のせいでえっちにしか見えない。


「何言ってるかわからないよ?」


 彼女の首筋に指で触れ、ゆっくり下に這わせる。


「んんっ……!?」


 それだけでも凛の体は正直に反応してしまうし、より大きな反応を出してくれる。

 彼女のそんな姿を見るとさらに虐めたくなる。

 次は鎖骨に沿って右から左へ。

 彼女の細い首筋も撫でてやる。


「んっ……ふーっ……んん……」


 凛はくすぐったいのか顎を引いて精一杯の抵抗を見せる。

 首を必死に振っている姿は加虐心を煽られた。

 彼女の首元をいじっていると足元からギシギシと軋む音が聞こえだす。

 凛の脚を縛っているリボンの音なので、彼女が脚を閉じようとしているのだろう。


「どうしたの? もしかしていじってほしい?」


 凛のパンツはもうすでにびしょ濡れで水が滴ってきそうな勢いだ。

 どこかあの日の、彼女がびしょ濡れだった時を思い出す。

 あの時も凛から誘われている気がする。

 いや、ほとんどいつもか。


「どこ、いじってほしい?」


 俺は身動きがほとんど取れない彼女の躰を弄る。

 胸を腕を腹を。

 少しずつ下へ下へいじる場所を動かしていく。

 凛は時折背中を反らせたり、脚を閉じようとしてリボンを軋ませたりしている。


「こことか?」


 彼女の下腹部やへその辺りをなぞっていくと、凛の我慢も限界なのかうめき声が大きくなった。


「じゃあ、ここいじってほしい?」


 順番通りいけば彼女が望む場所を触ることになるだろう。

 でも、これは罰だ。

 それにあそこまで誘われると凛の思いに逆らってみたくなる。

 俺はあえて彼女の濡れている部分には触れずに、脚の付け根や太ももに手を移動させた。


「んーっ!? んっんーっ!」


 俺の思い通り凛は期待していたようで、

いじってもらえなかった事に抗議し始める。

 言葉にするのは普通であれば恥ずかしくて躊躇われる行為だが、今の彼女は言いたくても言えない。


「どうしたの凛?」


 俺は分かっているが、わざとらしく分かっていないフリをする。


「んっ……! んんー!」


 彼女の言葉にすらならない声を聞き、俺はさらにヒートアップしてしまう。


「だから、何言ってるか分からないって」


 そう言ったあと、彼女の耳元に甘く囁いてやる。


「もしかして、いじってほしいのは、恥ずかしいところだから言えないの?」


 下着と肌との境目をなぞる。

 パンツの中をいじってほしいのなんて分かってはいるが、お預けだ。


「もしかして……凛って変態? 俺に散々へんたいって言ってた凛がそんなわけないよね?」


 凛が羞恥心を煽りながら指先を上へと這わせる。

 さっきまでとは逆で足から腹へ、胸へ、首へと移動させ頬まで移動した。

 彼女の頬は赤く熱くなっており、触れたら火傷してしまいそうになる。

 凛の口に巻いたタオルには彼女の唾液が染み込んでいて、口の端からは何本か筋ができてた。

 そんな状態の猿ぐつわを外してからの凛の第一声は、


「変態でいいからぁっ……! 触ってほしいのっ!」


 だった。

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