第47話

「んちゅ……じゅる……ちゅぅ……」


 粘り気のある水の音。

 それを吸ったり、舐めたり、かき混ぜたりするような音がぼんやりと聞こえている。


「かいと……んっ……」


 俺の名前を呼ぶ甘ったるい声。

 その声の主は凛だと分かった。

 熱いものが俺の体を這うと、その部分は濡れたような感覚とともに、だんだん冷える。

 とても気持ちいいような、少し気持ち悪いような感触がぼんやりと伝わっていた。


「はむ……れろ……」


 急に耳に熱い吐息がかかり、そこに少しざらざらしたものが入ってくる。

 急な出来事で驚いて飛び起きてしまう。

 しかし驚いたのは俺だけではなかった。


「凛っ……?」


 昨日先に寝たはずの凛が顔を真っ赤にして震えている。

 俺の片手は彼女の手によって下着の中に入れられており、まるで俺が凛を触っているようになっていた。


「あの……これは……その……」


 凛は恥ずかしさからか動かなくなってしまい、両手で顔を隠す。

 その手は何かでびしょびしょに濡れている上に、腕にも汗が浮いていた。

 彼女は俺が怒ると思ったのだろう、怯えながらこちらを伺っている。

 その反応から何をしていたのか大体わかった。

 そういえば前にも同じことがあった気がする。


「凛? 何してたの?」


 凛に近づいて耳元で訊く。

 でも彼女はふるふると首を振って何も言わない。


「怒らないからさ、教えてよ」


「絶対怒るもん……」


 彼女は怒られるのを嫌う子供のようなことを言い、俺から目を逸らす。


「じゃあ、言いたくなるまで意地悪するよ?」


 もうこんなの脅し以外のなにものでもない。

 でも、凛は意地悪という言葉に反応してぴくりと動いた。


「それは……やだ……」


「じゃあ何やってたの?」


「言えない……」


 凛は俺がいくら聞いても、言えないの一点張りだった。


「ん〜どうしようか……な……」


 彼女はバレていないと思っているのだろうか、それともバレていると分かって恥ずかしいから言えないだけなのか。

 どちらにせよ、彼女の恥ずかしがる姿が可愛くてもう少しいじめたくなる。


「言ってくれたら、本当に絶対怒らないから」


 もう一度彼女にそう語りかけた。

 するとようやくまともな反応が返ってくる。


「本当に?」


「ほんと、ほんと」


「破ったら?」


 凛がまるで子供のようなことを訊く。

 普段では見られないような姿がこの上なく愛おしい。


「じゃあ、凛が今度泊まる時に俺を好きにしていい権利とか」


「わかった……」


 怒った時のリスクは大きすぎるが、怒らなければいいだけだ。

 怒らなければ。

 凛のやっていることは分かっているわけだし。

 彼女は覚悟を決めたように大きく息を吸った。


「海斗で、一人えっちしてた……」


 少し恥ずかしかったのだろう。直接的に言わず一人えっちというところが良い。

 むしろそっちの方が卑猥に聞こえる。


「どんな風に?」


 凛にさらに追い討ちをかける。

 少し話したらハードルが下がったのか少しずつ話し始めた。


「海斗の指使って……やったり……」


「他には?」


「匂いを嗅いだりとか……」


 彼女がそんな変態みたいなことをしていたとは。

 でも、なんとなくそんな事だろうとは思っていた。


「それに……海斗に意地悪されるのとか……舐められるの想像したり……」


「え……?」


「普段も……縛られたりするの想像して……」


「ちょっと待って……」


 前言撤回、思っていた以上に酷いようだった。

 それに、凛はこのどさくさに紛れて色々暴露し始めた。


「前は……いつも使わないところも滅茶滅茶に——」


「待って……脳の処理が追いつかない……」


 彼女が俺以上に酷い妄想をしていたことが分かってしまった。

 本当はわからない方が幸せだったのかもしれない。

 少し意地悪したのを後悔した。


「ごめんなさい……」


「いや、別にいいけど……さ……」


 凛に何かを開花させてしまったようだ。

 でも、普通はそんなことに使われていると知ったら気持ち悪いだろうが、俺は少し嬉しくもあった。


「怒らない……って約束だから……」


 彼女は安心材料があるので、それを免罪符に布団から出て逃げようとする。

 でも、まだやり残したことがある。


「ご飯の用意してくる——」


 逃げようとする凛の腕を掴む。

 そのままベッドに押し倒し、うつ伏せで寝かせた。


「ちょっと……怒らないって……!」


「だーめ、これはお仕置き」


 昨日の夜のまま、黒の下着を着ている彼女は足をバタバタさせ必死の抵抗を見せる。


「凛は悪い子でしょ?」


「それは……」


 凛も勝手にしたことは悪かったと思っているのか、だんだん抵抗が弱まってくる。


「じゃあ罰与えないとダメでしょ?」


「でもぉ……」


 お仕置きと聞いて最初は嫌がっていた凛は何かを期待し始めたのか、だんだん息が荒くなっていた。

 彼女と何度も寝ているのだ。

 そんな変化は見逃さない。


「お仕置きちゃんとうけたらご褒美あげるからさ」


 凛の背中や頸に口づけをし、甘い誘いを投げかける。

 多分お仕置きがご褒美になるだろうけど、それはどっちでもいい。

 ご褒美と聞いて彼女の動きはさらに弱まった。


「良い子」


 凛が抵抗をやめたので体の動きを抑えていた腕をのける。

 彼女はベッドの上に正座すると、俺が何の罰にするかの判断を待っていた。

 さぁどうしようか。

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