第38話

 今日は終業式で、明日から夏休みになろうとしている。

 微妙にクーラーのついている教室で俺は凛に呼び止められた。


「ねぇ、今日……時間ある?」


 帰る準備をしている手を止めて凛の方を見る。


「どうしたの?」


 彼女は視線を少し逸らし、頬を染めながら話を切り出した。


「今日親が帰ってこないんだけど……」


 凛のこの発言は明らかに誘いだ。

 もちろん続きは分かっている。


「行ってもいいの?」


 俺がそう返すと、凛は俺の顔を見て静かに頷いた。


「じゃあ、学校から直接——」


「ううん、着替え持ってきてほしい……」


 いつもとは違う状況を作ろうとする彼女の言葉に少し困惑する。


「それって……」


「うちに泊まってほしい……」


 凛の家で夜を明かしたことはなかった。

 それに、多分これはエッチをする気だ。


「ちょっと親と相談してからでいい?」


「分かった」


 本当は行きたいと即答したかったが、学生の身ということもあってなかなかそうもいかない。


「じゃあ、家着いて親に許可もらったらすぐ行く」


「うん、待ってる」


 ひとまず凛とは学校で別れ、家に戻ってから親に許可をもらう。

 頭で許可を得るためのイメージトレーニングをしながら、荷物の入った重いリュックを背負った。



「ただいま」


「ん、おかえりぃ」


 家に帰ると母が出迎えてくれる。

 俺は荷物を持ったまま、単刀直入に訊く。


「ねぇ、今日凛の家に行ってきてもいい?」


「ん、凛ちゃんちが良いなら別にいいわよぉ……?」


「え」


 あまりにあっさりと許可を貰えてしまって拍子抜けする。


「泊まるんだけど……それでも……?」


「ああ、ご飯いらないってこと?」


「ま、まぁ……」


「良いんだけど……迷惑だけはかけちゃダメよ?」


 そのあと母は俺に荷物を置いてくるように言い、リビングへと戻っていった。


「こんなに簡単に許可されるとは……」


 母があまりにすぐ許可してくれたので、半分驚いている。

 まぁ、許可しなくても無理矢理にでも行くつもりだったけど。

 俺は着替えや財布などをリュックサックに詰め、一通り準備をすると家を飛び出した。

 一秒でも早く凛のところに行きたかったのだ。

 息を切らしながら走って彼女の家に行き、呼び鈴を鳴らす。


「早かったね」


 出てきてくれたのが部屋着に着替えた凛だった。


「なんか思ったよりすぐ来れた」


「よかった」


「それじゃあお邪魔します」


 靴を脱ぎ、家の中へ。

 何回かきたことのある家だが、他人の家は毎回ドキドキしてしまう。

 彼女はそんなことは知らないとばかりに家の中へと進んでいってしまった。


「荷物ここで良い?」


「うん、そこら辺だったらどこでも置いて良いよ」


 ソファーの近くに空いているスペースがあったのでそこに荷物を置くことにした。

 荷物を下ろし、ようやく一息つけると思った瞬間、俺は凛に後ろから抱きつかれる。


「ちょっ……早くない……?」


「ずっと待ってたんだもん……」


 彼女は両手で俺の頬を挟むと、顔を彼女の方に向けさせた。


「な……なに?」


 緊張し動揺する俺に凛はどんどん顔を近づける。


「んちゅ……ちゅぅ……すき……すき……」


 急にされたキスと初めて聞いたかもしれない彼女からの好き。

 その二つに俺の脳は一気に溶かされていく。


「好き……はむっ……じゅっ……ちゅぅ……」


 頬がどんどん熱くなっていった。

 それに、凛がいつもより積極的でこっちまで興奮してしまう。


「んっ……ちょっとがっつきすぎ……っん……ちゅぅ……」


 呼吸をしようと少し離れようとするのも彼女は許してくれない。

 ただお互いの唇を感じ、口内を舐め、唾液を交換する。

 それだけなのに体はどんどん熱くなっていく。


「じゅる……ちゅうぅ……すきっ……はふっ……ふぅ……」


 凛はしつこいくらいの口づけに少しだけ満足したのかようやく口を離した。


「こういうの……嫌い……?」


「嫌いってわけじゃないけど……」


 頬を高揚させながら、彼女は俺をソファーに押し倒す。


「じゃあ、もっと……いっぱい……いっぱいしよう?」


 凛はそう言うなり俺の耳を舐め始めた。


「はむ……れろれろ……すき……じゅるれろ……」


 熱い吐息とそれ以上に熱い唾液がねっとりと耳に絡みつく。

 彼女に耳を咥えられるたびに、腰が浮いてしまいそうになる。


「すき、すき……ちゅぅ……れろ……はっ……ぺろ……」


 凛の耳への愛撫はどんどん強くなっていき、好きと言う言葉もとろけていっている。

 俺の顔に添えられた手とは反対の手は、俺をその気にさせようと、体を弄り、下半身を撫でたりなぞったり。

 つつっと俺の弱いところを撫でられると情けなく体が反応してしまった。


「興奮してる? してるよね?」


 違うとはいえない。

 言葉でそう言ったところで彼女のスイッチを入れるだけだ。

 それに体がこんなにも反応してしまっては一目で興奮しているのがバレてしまう。


「ああ、めちゃくちゃ興奮してる」


「よかった……もっともっととろけてね……」


 彼女やめる気はないらしく、反対の耳も舐め始めた。

 凛の髪が俺の顔に触れるのがこそばゆいし、いい匂いがして気になって仕方がない。

 でも、凛の献身的な姿が俺を彼女へ夢中にさせていた。

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