第32話
「はー……はー……」
荒く、熱い息を吐きながら凛は脱力する。
「ごめん……激しくしすぎた……」
俺はイったばかりの彼女の自由を奪っているリボンを解く。
凛は縛られていた時の体勢からまだ動けずにいる。
手首と足首を縛ったまま伏せるように寝かしたものだから、お尻を突き出しているようにも見える。
「海斗の……ばか……」
「ごめん」
彼女はようやく起き上がると、俺の方を見た。
「顔見たまま……してほしかった……のに……」
「え……?」
もっと他のことで怒っていると思ったのに、あまりにも理由が可愛かった。
俺はなんだか少し嬉しくてにやけてしまう。
「にやけて……私をいじめるのそんなに楽しかった?」
「いや、そういうわけじゃなくて。可愛いなぁって」
「おだてても許さないから……」
凛はそう言うと、俺の服に手をかけた。
「海斗ばっかりやってずるい……私だって……」
ふと彼女の腕を見ると、さっきまで縛っていたところに薄く跡ができていた。
「跡できちゃったな……」
「別にいい……」
彼女はぶっきらぼうに言うと俺の上の服を脱がす。
「私ばっかり……やらてたら……不平等だもん……」
凛はそんなことを言いながら俺をベッドに押し倒す。
「凛……?」
「抵抗しないで……ね……?」
彼女は俺の上に乗ると、体を密着させる。
ブラのせいで少しゴワゴワする胸が押しつけられ、俺のズボンと彼女のパンツが擦れる。
「んっ……温かい……」
「あの……凛……?」
しばらく凛は俺の胸に耳を当てていた。
こうやって甘えられていると、もしかするとえっちをしている時以上に恋人ということを感じてしまう。
「明日の朝までこうしていたいな……」
「凛は今日は帰らなきゃ……親が心配するよ?」
「ううん、うちは心配しないよ……でも海斗のお母さんとの約束だから」
「そうだな……」
凛と体を重ね、お互いの体温を感じ合う。
「ね、キス……」
彼女は俺の顔に近づき、腕を首の後ろに捩じ込む。
「ああ、いいよ」
彼女は数回つつくような口づけをすると、次は舌を出した。
もうわかる。
キスの時に凛が舌を出すと、それは吸ってほしいということだ。
「じゅっ……ちゅぅ……れろ……はっ……じゅる……」
彼女は愛おしそうに俺を見ていた。
その目には興奮か、それとも別の何かだろうか、涙が浮いていた。
「凛……? 大丈夫?」
「え……?」
「ほら……涙が……」
彼女は驚いたように目を擦る。
「なんで……私泣いて……」
凛の目からこぼれた涙が俺の胸に落ちる。
火照った体にはあまりに冷たい涙だった。
「なんで……かっこわる……」
凛はそう言いながらも目を擦り続ける。
自分に言い聞かせているのだろう。
それでも涙は止まってはくれないようだった。
「凛……」
俺は彼女の背中に手を回し、優しく抱擁する。
「うっ……ううっ……かいとぉ……」
凛の涙が止まらない。
正直俺にもどうしていいかはわからない。
でも、彼女は俺にしがみつくように強く強く抱きついていた。
「もっと……強く……私を抱き締めて……」
「ああ……」
彼女の悲しみを感じながら、少し腕に力を入れる。
少し力の加減を間違ったら壊れてしまいそうなほど華奢な体だった。
「う……あう……ひぐっ……うあぁぁ……!」
何か言ったら逆効果な気がして何も言えなかった。
その代わり、凛の頭を優しく撫でる。
点々と俺の胸に水滴が落ちるのを感じた。
「私……私……怖い……」
彼女が震える声で話し始める。
「いつも……私の幸せは……親の幸せだったのに……」
「……」
「いま……こんなに……幸せだから……無くなったら……って考えたら……怖い……」
凛は俺の胸に顔を押しつけて声を殺しながら再び泣き始めた。
「大丈夫……大丈夫だから……」
「あの時……死んでたらこんなに怖くならずに済んだ……のかな……」
「そんなこと言わないでよ……」
凛の背中をさすり、語りかけながら落ち着くのを待つ。
「海斗……好きって言って……」
「えっ……」
未だ震えが止まらない声で彼女が言う。
「もっとぎゅってして……好きって言って……」
涙でぐしょぐしょの顔。
俺の首に回された震え続けている手。
ここで言わなければ彼女が死んでしまう気がした。
よくよく考えれば、好きとか愛してるとか。そういう言葉を言ってなかった気がする。
俺は凛の瞳を真っ直ぐ、正面に捉え今まで出てこなかった言葉を言う。
「好きだよ……愛してる」
「よかっ……た……」
ようやく落ち着きだした彼女は涙をもう一度ぬぐった。
「落ち着いた?」
「うん……ありがと……」
凛の頬に手を添える。
「泣かないで、俺まで辛くなる」
「ごめん……」
彼女は俺に謝ると、首に回していた手を解き、俺の手に重ねる。
凛の細い指が俺の指と指の間に入っていく。
俺もそれに応えるように彼女の手を握り返した。
「ふふっ……あったかい……」
「凛も温かいな……」
お互いの熱、呼吸、鼓動を感じる。
さっきまで横を見ていて見えなかった凛の顔が見える。
涙のせいで未だぐちょぐちょに濡れている彼女の顔。
でもその表情は幸せそうで、少し笑みが溢れていた。
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