第27話

「んっ……はっ……かい……とっ……」


 背中の方で水気を含んだ音が聞こえている。

 それにどこか俺の名前を呼ぶ声も。

 でも、頭がぼーっとしていて、動く気になれない。


「かっ……いとっ……そこ……やっ……」


 凛の声。

 時々切羽詰まったような呼び声は確かに凛の声だった。

 俺は振り返ろうと体を動かそうとする。

 すると、後ろにいる誰かの体が大きく跳ねた。


「……っ!! あっ……!! んん゛〜〜!!」


 一際大きく発せられた声は最後の方は押し殺したようになっていた。


「り……ん……?」


 朦朧としている意識で振り返ると、凛の驚き、恥ずかしさで真っ赤になった顔が見えた。

 胸元ははだけているし、片方の手はズボンの中に入っている。


「み、見た……?」


「何……が……?」


 頭がほとんど思考をしていないせいで彼女が何をしているのかわかっていなかった。

 しかし徐々に目が覚めてくると、この状況を認識できるようになる。


「えっ……え……?」


 認識できるくらい頭が冴えてきたとはいえ、この異常な状況には追いつけていない。


「最低……」


 彼女はそう呟くと布団に深く深く潜り込んだ。


「いや……よくわからないけど……ごめん……」


 凛は布団の中でごそごそしていて、布や

彼女の肌が触れるたびにくすぐったくなる。


「海斗……」


「ん……?」


「なんで見てないのに大きくしてるの……?」


 凛は俺と布団の間に入り込むと、隙間から顔をだした。

 そして手で、昨日の夜のように下半身をいじっていくる。


「いや……これはその……毎朝こうなるわけで……」


「ほんと……?」


「ほんと、ほんと」


 彼女はもう一回布団に潜り込むと、今度は俺のズボンを脱がそうとしてくる。


「ちょっ……なんでズボン脱がそうと……!?」


「だって不公平じゃん……!」


「いや……なんで!?」


 凛がズボンを下ろそうとしているのを全力で抵抗する。

 彼女の熱で、部屋の気温以上に体感温度が上がる。


「だって……だって……」


 彼女の声が震え出した。


「私の……その……」


「その……?」


「オナ……その……」


 もう何をしていたか分かってはいたが、あえてわからないフリをして意地悪をしてみる。


「私の……おな……にー……見て……」


「え、私のなんて?」


「聞こえてるでしょ!」


 凛を茶化しすぎて怒らせたようで、さっき以上の力でズボンをずらそうとしてくる。


「ごめんて……待って……やめて……」


「やめない……! 海斗がするまでやめないから!」


「もう待ってって……やられてたらできないし……」


「じゃあ離したらやるのね? じゃあ」


 彼女はそう言うと急に力を緩めた。


「いや、やらないけどね!?」


「じゃあ脱がす……!」


 凛はそう言ってまた脱がそうとする。

 だけれど結局男と女。

 力の差は歴然だった。


「もう……なんでしないの……?」


「いや、しろって言われてするもんじゃなくない?」


「私のを見た罰とからかった罰!」


「それはごめんて……」


 彼女をなだめていると少し気になる事が出てきた。

 俺の名前を呼んでやっていたと言うことは俺でオナっていたわけで、俺に何をされていたのかということだ。

 こんな事を聞いたら火に油を注ぐようなものだが、気になって仕方がない。


「あの……さ……」


「なに?」


「交換条件といかない……か……?」


「海斗のを見るのに何か条件をつけるの?」


 凛は脱がそうとする手を止めて、俺の話に興味を示す。

 しかし、彼女がのった場合俺は彼女の前で自慰をしないといけないので非常に高い条件で諦めさせる必要があった。


「その、凛がさっきどんな事を想像しながらやってたのか言ってくれたら考える……」


「……ッ!?」


 凛はそう言った条件をつけられる事を想像していなかったのか驚いた表情になった。


「海斗って何でそんなにいじわる……なの……?」


「いやだって……」


「じゃあ言ったら見せてよ?」


 彼女は胸のとこで腕を組んで恥ずかしそうにつぶやいた。


「その……海斗に……」


 そこまで言ったのに顔を真っ赤にして黙り込んでしまった。


「俺になに?」


「もう……いちいち聞かないで……」


「じゃあ見せない」


「いじわる……」


 凛は罵倒しながらも、下半身はもじもさせはじめた。


「海斗に……ちょっと乱暴に……扱われるの……想像して……」


「えっ……」


「ほら……! だから言いたくなかったの! はっず……」


 彼女は両手で顔を覆い、うつむく。


「あ……その……」


「もう、分かったでしょ! 変態だって……」


「いや、別に……そんなことは思ってないけど……」


「嘘つき……」


 凛はまた布団にくるまって、今度は俺に背を向けた。


「じゃ、じゃあ……もうちょっと詳しく教えてくれたらやってあげてもいいから!」


「嘘……」


「ほんとほんと!」


 彼女の調子を取らないと、怒ったまま親に見つかってしまう。

 そしたら怒られるのは俺だ。

 もう何を言っているのかわからないが、とにかく凛が喜びそうな事を言う。


「じゃあ今度縛って抵抗できないようにして無理矢理してほしい……」


「え……?」


 思った以上にひどい解答に驚いてしまう。


「やっぱりできないでしょ? ほら……」


「いや……わかった……考えとく……」


「え……」


 戸惑いつつも少し嬉しそうな凛に俺は変な約束をしてしまった事を少し後悔するのだった。

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