第26話

「そんなに誘って……後悔しないでよ?」


「別に? むしろ興奮してほしくて誘ってるし」


 凛は頬を赤らめつつも、上目遣いでそう言った。

 もう、ここまでいったらバレてしまってもいい気がした。

 それに彼女の誘い方があまりにもえっちでもはや彼女が考えたとは思えない。


「どこでそんな事覚えてるんだ……?」


「内緒……」


「教えてよ」


 凛に後ろから抱きつき、彼女の耳を唇で食む。


「ダメ……私だけの秘密」


 彼女はそう言いながら、後ろにいる俺の腰の辺りを触りだした。


「硬いの当たってる」


「凛のせい」


「興奮してくれたんだ……」


「あれは反則」


 凛の太ももに触れる。

 部屋が暑いせいか、それとも興奮しているせいか彼女の肌は少し湿っていた。

 俺は彼女が自らの太ももに書いた正の字をなぞる。


「くすぐったい……」


「なぁどこであんなの覚えたの?」


「言わないって……」


 凛は呆れたように言いながらも、俺の体をいじり続けている。


「じゃあ、言いたくしようか?」


「どうやって?」


「さぁ……どうしようか……」


 馬鹿な事を話しつつも、手の動きは徐々にねちっこくなっていく。

 彼女は体を動かし、俺と向き合うような体勢をとった。


「ね、キス……」


「キス好きなの?」


「私はいいの……海斗は?」


「俺は……好きだけど……」


 凛は俺の言葉を聞くと満足そうに唇を近づけた。


「んっ……ちゅっじゅる……ちゅぅ……」


 部屋の中にお互いの唇や舌を吸い合う音が響く。

 彼女は俺の首に手をかけて、背中あたりで繋いでいる。


「んっ……今日なんか俺に合わせてる?」


「そ、気づいた?」


 凛の舌の動きはいつも以上に絡めるように動いている。

 時々息継ぎで聞こえるはふっと言ったような呼吸音すら今日はいつにも増して卑猥だ。


「いつもより……どう?」


「そりゃいつもよりえっちだけど……」


「ならよかった」


 彼女は再び唇を重ねると、さらに執拗に舐め始めた。


「なんか……今日積極的……」


「だってお礼だもん……」


 凛がいったん口を離す。

 舌を少し出したまま離れたので、よだれが垂れていた。


「顔がもうえっちになってる……」


「海斗だって……とろけてきてる……」


 お互いの高揚した顔を見合い、額をくっつける。


「ね、いい事するからちょっと向こう向いてて……?」


 彼女にそう言われたので、いったん後ろを向く。

 布が擦れる音がして、パサっと何かが投げられ落ちる音が聞こえた。


「海斗、上のパジャマ脱いで?」


「ああ」


 凛の従ってパジャマを脱ぎ、畳んで横に置く。

 すると背中に柔らかく温かいものが押しつけられる。


「ちょっ……!?」


「向こう向いたままでいて?」


 驚いて振り向こうとすると、彼女はそれを止める。

 感覚を背中に集中させると、凛の鼓動や、興奮して硬くなったものが感じられた。


「ね、感じる?」


「何が?」


「私、興奮しっぱなし……」


 彼女はそう言いながら俺の下半身を撫で始めた。


「もう我慢できなさそう?」


「ま、まぁ……」


「じゃあシよっか……?」


 凛はベッドにどさっと横になると、両手を俺の方に差し出した。


「ね、きて」


 彼女に誘われ、腕の間へ。


「凛……」


「もう私も準備できてる……から……」


 そうして親が同じ屋根の下にいることも忘れ、俺たちはお互いの体をまさぐりあい、求めあった。



「ねぇ海斗……」


「ん?」


「どう……だった……?」


「そりゃ気持ちよかったよ」


 凛がいつも以上に俺を興奮させるので少々やりすぎた。

 彼女は汚れた体をティッシュで拭いている。


「海斗ってどんなの好き?」


「え……?」


「その……どんなプレイというか……」


 彼女がそれをさせてくれるのかもしれない。

 でも、流石に恋人などにそんな事を言えるはずもなかった。


「いや……特には……」


「そっか……」


 凛は残念そうに言うと、丸めたゴミをゴミ箱に投げ入れた。


「なんかさ……」


「どうしたの?」


「この正の字なかなか消えないんだけど……」


 えっちしている時にさらに増えた正の字を擦りながら彼女が呟いた。


「え、ちょっと待って……」


 慌ててペンを見るとそこには油性の文字。


「やば……これ油性じゃん……」


「え、うそ!?」


「どうしよ!?」


 顔を見合わせて、また書かれている部分を擦る。

 少し薄くなるものの、正の字はなかなか落ちない。


「海斗最低……」


「いや、凛が始めたんだろ!?」


「でも、こんな多くなかったし!」


「それはごめん! つい勢いで!」


 凛は擦りながら俺に怒りだした。


「私どうやって帰ればいいのよ……いかにもヤりましたみたいな体で帰らせるわけ?」


「俺も親にバレて大目玉なんだけど?」


「ちょっとお風呂で落ちないか試してくる」


 彼女は脱ぎ散らかしていた服を集めると、部屋を出ていった。


「はぁ……まさか後片付けがこんなにも大変とは……」


 今ままで凛の家でしかやってこなかったが、いざ自分の家でやるとこんなにキツいとは。

 カーテンの隙間から見えた空は少し水色がかってきていて、日が昇りそうだった。

 しばらく一人で後片付けをしていると、タオルで足を拭きながら凛が戻ってくる。


「もう、朝……?」


「みたい」


「もう眠さ限界……」


「俺も……」


 彼女は俺の腕を引き、ベッドへ一緒に横になる。


「ちょっとだけ……」


「ああちょっとだけ……」


 今から寝ると絶対寝すぎるだろうけど、睡魔には勝てず、俺と凛は深い深い眠りへと落ちていった。

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