第24話

「ふわぁっ……眠くなってきたから私は寝るわぁ……」


 母はそう言って席を立った。

 家族団らんのひと時は終わりに差し掛かっていた。


「おやすみなさい」


「おやすみ」


 母は俺と凛を見るてニコッと笑う。


「あなた達も夜更かししちゃぁダメよぉ? 早く寝なさいねぇ」


 そう言い残し、母はリビングから去っていった。


「そろそろ部屋に行こうか……」


「そうね……」


 俺たちは食器を片付け、部屋へと向かう。


「海斗は本当にベッドで寝ないの?」


「まぁ、凛を床で寝させるわけには……」


「そうじゃなくて……」


 凛は何かを言いたげにしているくせに、その先を言わない。


「なに? 言ってくれないとわからないじゃん」


「あの……一緒に寝たいなぁって……」


 彼女は小さい声で恥ずかしそうにそう言う。


「それって……添い寝って事……?」


 凛は黙って頷く。


「いや、それは……ちょっと……ほら、ベッド狭いし……」


「二人でも十分寝られるよ?」


「いや、それは……」


 彼女にいくら言い訳しても論破されそうな気がした。

 俺は諦めて本音を話し始めた。


「ちょっと……それは恥ずかしいと言うか……心臓がもたないかもしれない……」


「でも、こんな事なかなかできないからやりたい……」


 彼女が若干上目遣いでこちらを見ている。

 男がそういうのに弱いのを知ってのことなのか、それとも知らずか。

 知らないのであればある意味恐ろしい。


「ダメ、そんな目をしても……恥ずかしくて死んでしまう……」


「何回も私と寝てるじゃんか」


「いや、まぁ……そうだけどさ……」


 凛は俺の手を引いて部屋に入ると、ベッドに横になった。


「ほら、十分寝られるでしょ?」


 そう言いながらベッドの空いているところをぽんぽんと叩いている。


「しょうがない……寝る時は下に降りるからな……」


 部屋の電気を暗くして、俺は彼女と同じベッドに体を滑り込ませる。


「ふふっ……近いね……」


「まぁ……な……」


「海斗の匂いがする……」


 彼女はそう言って布団に潜り込んだ。


「ちょっとあんま中で動かれるとくすぐったいって」


「海斗に包まれてるみたい……」


 凛がごそごそと動くたびに布団が俺の肌と擦れる。。


「そんなに良いもんじゃないでしょ……?」


「ううん。安心する」


 すぐに俺はベッドから抜け出して下で寝るつもりだったのに、彼女のせいでその気が薄れつつあった。


「ね、手、繋いで良い?」


「良いけど……」


 凛は俺の手にそっと触れる。

 一瞬当たって離れたが、すぐに指を絡めた。


「うわ、はず……」


「手、熱い……照れてる……?」


「そりゃ……まぁね……」


 彼女は繋いでいない手で、俺の頬を撫でる。


「なんか、こういうの良いね……」


「まぁ……なかなかできないしな……」


「息がかかるくらい近い……」


 彼女はそう言うと目をゆっくり閉じて、顔を近づけてきた。

 キス、ということなのだろうか。

 俺は流されるまま、少しずつ近くなっていく凛の顔に近づく。


「んっ……ちゅぅ……はむ……はふっ……」


 唇が軽く触れ合う。


「ね、もっと……」


 彼女の甘くなっている声が俺の脳を痺れさせていく。


「ダメだよ……親が寝てるのに……」


「良いじゃん……ちょっとくらい」


 親を言い訳にしているのに、俺も凛を求め出していた。

 気づけば、再び彼女に唇を奪われている。


「れろ……ちゅっ……じゅる……ちゅぅ……」


 さっきまで頬を撫でていたはずの手は、いつのまにか腹や胸を撫でている。


「止められなくなるから……んっ……」


 凛を離したくても離せない。

 寧ろどんどん近づきたくなっていく。

 彼女は俺がやめさせようとするたびに唇を塞いでそれ以上言わさせてくれない。


「親にバレちゃうって……」


「声出さなきゃバレないよ……」


 凛は指先で俺の体をなぞる。

 ひんやりとした指先が火照り始めた体を伝うたびに興奮は加速する。


「海斗も触ってよ」


 彼女はそう言うと、パジャマのボタンを上から二個開けた。


「我慢できなくなるから……」


「もう、我慢できそうにないくせに……」


 凛がいたずらっぽく笑い、俺のズボンを撫でる。


「これ、どうやって収めるの?」


「それは……」


「えっちしてあげるよ?」


 彼女の誘いに乗ったら負け。

 今はなんとか親がいるから我慢しているけれど、本当はそんなことしないで凛と触れ合いたかった。


「と、トイレ行ってくる……」


 とりあえず冷静にならなければ。

 俺は興奮を興奮をおさめるためにトイレへと逃げようとする。


「ダメ」


 彼女は俺の服の裾を掴むと、逃がさないとばかりに手を強く握った。


「なんで……?」


「いつもの仕返し? みたいな」


「そんな……」


 凛は脚もつかって俺を逃がさないようにする。

 彼女の肌の温もりが伝わってくると、いよいよ我慢ができなくなってきた。


「本当に……やばいから……」


「嘘……」


「本当だって」


 彼女の手に一層力が入る。


「抜きに行くだけでしょ?」


「じゃあ認めるから離して……」


 彼女は黙って服の裾を掴んでいた手を離す。

 次の瞬間にはその手は俺のズボンを掴んでいた。


「私がやってあげる……」


「待って……それが嫌だから行くの分かる?」


 彼女はそんな事を聞く気もないようで俺の目をまっすぐ見ていた。


「ね、逃げないでよ……」


 その一言。

 俺の理性を壊していくには十分だった。

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