第19話
テスト最終日の翌日から降り出した雨は、一旦は止んだものの次の登校の時にはまた降り始めた。
「先生らさぁ……マジで採点早くね?」
「まぁ確かに」
テストが終わってわずか二日。
その間にあれだけの量を採点したとなるととても大変そうだ。
「今日は話さないんだな」
「え?」
「んー? 世凪さんとだよ。世凪さん」
今日は凛と一言も喋ってない。
近づかないでといったオーラを全員に向けている上に、誰かが近づこうとすると避けるように逃げていた。
「まぁ、まだちょっとな……」
「このまんまじゃ終わっちゃうぜ?」
友人はそう言い残し席へと戻った。
一時間目からテスト返し。
凛の表情はどんどん険しくなっていく。
全員の答案を配り終えるとあとは自習といった感じになるので、先生がいなくなったあとはさながら休憩時間のようだ。
「お前どうだったよ?」
友人たちは点の見せあいをしては高かったや低かったなど騒いでいる。
「前よりよかった……かな……?」
「見せてみ?」
「ほら」
友人に答案用紙を渡す。
なぜか彼の顔はどんどん青ざめていった。
「どした? なんかまずかった?」
「いや、なんでお前の方が点良いの?」
「は? ちょっとお前のも見せろ」
友人は黙って用紙を差し出してきた。
その点差はまさかの二桁。
いままで下の争いをいかにしていたかが分かる。
「勉強した?」
「少しは」
「まじか……」
友人はまるでいつものように俺が勉強をやってると言ってやっていないことを期待していたかのような口振りだった。
一方凛もまた解答用紙を見て青ざめていた。
「どうしよう……」
答案を手渡されたときそんなことを呟きながら彼女は席へと戻っていた。
「凛どーだった?」
潮汐さんが凛の答案を覗き込みながら絡んでいく。
「やめて……今回悪いから……」
「凛の悪いはわたしらの滅茶苦茶良いだから、さ!」
潮汐さんは凛から紙を取り上げるとまじまじと見はじめた。
「ほーらやっぱり。全然悪くないじゃんか! 心配して損した~」
「でも……」
「もー気にしない気にしない!」
潮汐さんは凛に答案用紙を返すと落ち込む凛を励ましていた。
「いかなくて良いのか?」
友人が俺に向かってそう言う。
「行っても避けられるからさ……」
「行かなきゃわからないだろ?」
「まぁそうだが……」
「行ってこいって」
彼はそう言うと俺を立ち上がらせ、背中をとんっと押した。
俺はその勢いのまま、凛のところへ行く。
「凛」
「海斗……」
凛は一瞬別の方向を向いたが、逃げることはしなかった。
「あの……前は――」
「ごめんなさい……!」
先に謝ったのは凛の方だった。
「私……あの時混乱してて……それで……」
「いや、いいよ。それは。ここじゃ話にくいだろうからちょっと出よう」
「でも今は……」
「後ででいいから」
一旦席に戻る。
そのあとにテスト返しも凛は暗い表情のままだった。
「じゃあ気をつけて帰れよ〜」
帰りのショートホームが終わり担任が去った後も彼女の雰囲気は晴れなかった。
「海斗」
俺の名前を呼びながら席の近くに凛がやってくる。
「じゃあ、ちょっと帰りながら話そう?」
「うん……わかった……」
彼女は不安そうに鞄を握っていた。
俺は手早く荷物をまとめて、凛と一緒に教室を出る。
外に出ると、雨が傘を打つ音が俺たちを包み込んだ。
「なぁ、そんなに悪いのか?」
「多分怒られる」
「マジか……」
普通だったらこんな事で大して怒られないだろう。
でも彼女の家は違うのかもしれない。
それが凛をこんなにも追い詰めているのなら取り払ってあげたかった。
「なぁ、凛は夢とかあるのか?」
「え?」
「なんか他にしたい事ないの?」
彼女は少し考え込み、はにかんで笑う。
「昔は……ゲームとか好きだったんだけどなぁ……」
「マジか……意外だな……」
「まぁ……RPGとかストーリー系が好きだったし、本とか読むのもその影響かな……」
確かにそこまで気には留めなかったが、彼女の本棚には参考書だけでなく物語も置いてあった。
「でも、中学あたりから勉強ばっかりでさ……ゲーム全然できなくなっちゃって」
寂しそうに話す彼女。
あそこに連れて行けば明るくなるのだろうか。
「そっか……じゃあ、今から行く?」
「えっ……どこに……?」
「ゲームセンター」
今までは恋人をゲームセンター連れてくるような奴は嫌いだった。
見せつけているような気がしていたからだ。
でも、凛を笑顔にしたかった。
「ありがと、でも今日は早く帰らなきゃ……」
「そっか」
彼女ともっと話していたかったのだが、いつのまにかいつも別れる場所に着いていた。
「じゃあね」
「じゃあまた、今度うちにも呼ぶよ」
「場所は前教えて貰ったから行けると思う」
「おう、じゃあ」
俺との会話が楽しかったのか凛の表情は少し明るくなっていた。
別れて家へと帰っていく彼女の後ろ姿は教室で見た時より背筋もちゃんと伸びていて、元気を取り戻しているように思える。
しかし、明るくなっていたのは彼女だけ出ないようで、家に帰ったあと母に
「何かいいことあった?」
と聞かれた。
「ああ、まぁちょっとね」
「そう、いいじゃない」
そんな取り止めもない会話をし、部屋に入る。
これから起こることも知らずに。
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