第15話

 あれから凛の笑顔多くなったきた気がする。

 時折チャットで愚痴を漏らすことがあるが、それが俺には嬉しかった。

 もうすぐ下校の時間となろうとしている中、俺はとりとめもないことを考えていた。


「ねぇ、飴井くん!」


「ん?」


 クラスの女子の一人が俺に声をかけてきた。


「あの、今、暇してる?」


「ん? ああ、まぁ」


「先生にあの教卓の紙の山持ってくるように言われたんだけど……」


 教卓の方を見ると、なるほど、確かに山と言っていいほど紙が積み上げられている。

 一応クラスをぐるっと見渡すと、男子はグループで話しているか、もう帰ってしまっている。

 女子もほぼ同じような状況だから一人で暇そうにしている俺に声をかけたのだろう。


「ああ、手伝うよ」


「ありがとう!」


 ちらっと凛の方を見ると、他の女子と話していた。

 他の女の子と話すのが気に入らないかもしれないと思ったが、見ていないなら大丈夫だろう。

 俺は紙の束を半分手渡され、教室を出る。

 後ろから何か視線を感じた気がするが、紙は結構な重量があったので振り返る余裕もなく、俺はお願いしてきた女の子の後ろについていった。


「ありがとう! 助かったわ!」


 職員室に運んだあと、彼女から満面の笑みでお礼を言われた。

 助けになったのなら、全くもって悪い気はしない。


「いや、別に。そんな重くなかったし」


 ちょっとぐらい見栄を張ってもいいだろう。

 しかし、そのクラスメイトはそれを聞いて目を丸くした。


「すごいね、さっすが男子!」


 見栄とお世辞の会話をしながら教室へと戻る。

 何気に横にいる女子が凛でないのは久々だ。


「じゃあ、またね。 ありがと!」


 教室で彼女と別れ、凛に声をかける。

 クラスにはもう人はいなくなっていて、俺と待ってくれていた凛だけだ。


「ごめん、お待たせ。じゃあ帰ろう——」


 鞄を持ってそこまで言いかけた時、後ろから急に抱きつかれた。


「ちょっ……凛、待って」


 彼女の手はちょっとずつ下に下に動いていき、最後は俺のズボンをさわさわと触れていた。


「ここじゃダメだって……」


「なんで?」


「場所をわきまえて……?」


 俺はそう言うと、凛は少し悪い顔で微笑んだ。


「場所、わきまえたら良いんだ」


 そう言われて、引っ張られるままについて行くと、いつの間にか俺は彼女の家に来ていた。

 今日も彼女の親は居ないようで、いつものように静まり返っていた。

 彼女は俺を招き入れ、後ろ手でドアを閉めるや否や俺に抱きつく。


「ちょっと……早くない……?」


「場所わきまえたら良いって言ったじゃん」


「そりゃそうだけどさ……んっ……!?」


 急な口づけ。

 唇を舌でこじ開けてくる。


「あむ……んん……ちゅぅ……はふっ……」


 凛はこれでもかとキスをしてくる。

 まるで何かを必死に塗り替えているようだった。


「ぢゅる……ちゅうぅ……はっ……ぢゅぷ……」


 キスをしている間も彼女は俺の背中や胸や下半身を撫でたりなぞったりしている。


「ぷはぁっ……」


 ようやく離れてくれたと思ったら、次は彼女の部屋へ連れこまれた。


「脱いで」


「えっ……!?」


「いいから上脱いで」


 明らかに怒っている。

 これ以上凛の怒りに油を注がないよう、俺は黙ってブラウスを脱いだ。


「ベットに横になって」


「あ、ああ」


 言われるがままに彼女のベッドに横たわる。

 いつものいい香りのするベッドだった。

 俺が上裸なのに対し凛は服を脱ぐそぶりを見せなかった。


「動いちゃダメ」


 そう言って彼女は俺に覆いかぶさり、胸に舌を這わせる。


「くすぐったい」


 俺が彼女を離れさせようと腕を少し動かす。その瞬間


「う、ご、か、な、い!」


 と、怒られてしまった。


「ん、れろ……ぺろ……つつっ……はっ……」


 熱い吐息が胸にかかる。舐められたところは彼女の唾液がつき、少し冷たく感じる。

 彼女の手も俺を舐め回すように動いていて、太ももをなぞったと思ったら、不規則に胸の上で動いていた。


「ちょっ……今日なんかあった?」


「別に」


「いや、話してくれよ……」


「べ、つ、に!!」


 別にと言っている割には怒っている。

 凛は舐めるのをやめ、その代わりに俺の胸に指で円を描き始めた。


「俺、なんかまずいことした?」


 その質問に彼女は何も答えない。

 その代わりに腕を甘噛みする。


「ちょっとたんま……どしたの? 本当に」


「なにがぁ?」


「いや、いつもより触り方ねちっこいし……」


「そんなんわかってるでしょ?」


 彼女はそこまで言うと、右手で左手をいじり始めた。


「今日他の女子と話してた……」


「それは……え、それだけ……!?」


「だって海斗は私のだもん……私以外といちゃついたらダメ」


 彼女は手悪さをやめ、口元を袖で隠す。

 その頬は赤く染まっていた。


「あーもう……かっこ悪い……恥ずい……死にたい……さいあく……」


 彼女の反応があまりにも可愛くて口元が緩んでしまう。

 それすら気に入らないのか彼女は食ってかかってきた。


「何笑って……この……童貞卒業させてやったのに……」


「いやさ、妬いてるってわかったらニヤけちゃうじゃん」


「なっ……妬いてるとかそんなんじゃ……!」


 彼女が悪いんだ。こんなにいじめたくなってしまうから。

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