第10話
「この後どうする?」
レストランで注文を終え、この後の予定を相談する。
「俺はまだ大丈夫」
「じゃあさ……」
凛が俺にしか聞こえないように声を小さくする。
「うち、来る?」
「え、それって……」
「まぁ、今夜親がいないからってやつ」
彼女が照れ臭そうに言う。
「まぁ、うちは親がいない時じゃないと好き勝手できないから……さ……」
「そっか」
「でも前回は全然進まなくてさ」
「それはごめん」
彼女との初めてはなかなかに難しいものだった。
「スマホで調べながらやってたし。 初めの方は痛くて動けなかったし」
「血が出るなんて思わなかったから……な……テンパった」
彼女は痛みを堪える時にシーツをぎゅっと握っていた。
それすらあの時は焦っていてよくなにも考えなかったが、今思えばえっちだった。
「ほんと、真っ青になるんだもん……私だって焦った」
「ごめんて」
「でもさ……いつかは家以外のところでもやりたいな」
それってつまり、いやそう言うことなのか。
外、とかってことなのだろうか。
俺の表情を見て彼女が何かを察したように笑う。
「外とかじゃ無いよ? ホテルとかそういうの」
「だ、だよな」
「だって片付け大変なんだもん」
「それは、まぁ……」
片付けまでは手伝えなかったので物凄く申し訳なくなる。
確かにシーツは濡れるだろうし、カーペットも汚れてしまったのだろう。
「後は……家だけじゃムードがないもんね……」
彼女もそう言うの気にするんだな。
でもなんか行ったら行ったで二人とも落ち着かなくなるところまでは予想できる。
「俺は家でもいいけどな」
「じゃあ今度は海斗の家でやる?」
彼女が悪い顔をしている。
「我が家、親がずっといるんですが……」
「でも私の家ばかりじゃ不公平だもん」
「うっ……」
「なーんてね。冗談」
いやわかりにくい。
でもそんなこと言ったら流石に機嫌を損ねると思い、言葉を呑んだ。
「いつか出来そうなら考えておく……」
これが僕にできる最大限の譲歩だった。
彼女は一瞬驚いた表情をして、目線を一瞬逸らし、そして微笑んだ。
「楽しみにしてる」
「期待はしないでくれ……」
「じゃあ食べたらうち来る?」
そうこう話しているうちにウエイトレスさんが料理を持ってきてくれた。
「そのパスタ美味しそう……」
「凛のドリアも美味しそうだな」
料理が並べられると凛は自分のだけでなく俺のもちらちらと物欲しそうに見ている。
その視線の中食べるのも流石に気まずい。
「一口食べる?」
遂に俺はその視線に負け、自分の皿を彼女に前に少し押す。
「いいの?」
「食べたそうにしてたから」
「えっ……」
彼女の顔が真っ赤になる。
「そんなに……食べたそうにしてた……?」
「ま、まぁ」
彼女は一回頭を下げ、フォークを手に取った。
長いその髪を耳にかける。その動作が妙に絵になっている。
「あつっ……!」
パスタを口にした瞬間、凛が顔をひく。
「大丈夫!?」
「はふっ……はー……はー……らいろうぶ……」
彼女は口を開けたまま息を大きく吸ったり吐いたりしている。
「ん……熱かった……火傷するかと思った……」
彼女はそう言いながら俺に皿を戻した。
「そんなに熱いの?」
「めっちゃ熱かったよ」
「もしかして猫舌?」
「猫舌ってこと忘れてた」
凛が照れ臭そうに笑う。
「というかドリアだったらもっと熱くない?」
「でも食べたかったんだもん」
彼女は自分の料理に手をつけ、予想通り熱い熱いと言いながら食べていた。
そんな姿がどこか愛おしく感じ始めている。
「ん、なに?」
彼女を見ていると目が合う。
「いいや、なんでも」
「えーなに? 教えてよ」
「たいしたことじゃないって」
この会話が前まで目の敵にしていたバカップルみたいで複雑だ。
でも、凛との会話だからいいかな。
「デザートなににする?」
気づけば彼女は食べ終わってしまっていて、メニューのデザート欄を眺めている。
「いや、俺はいいや」
「食べないの?」
「お腹もう一杯だから」
「じゃあ私これにしよ。 すみませーん」
彼女のドリア結構量がある気がしたけど、まだ食べるのか。
それでこの細い体は少し心配になる。
「ふふっ……パフェ頼んじゃった」
彼女は満面の笑みを浮かべ、注文したばかりというのに俺の方と厨房を交互に見る。
「甘いもの好きなのか?」
「もちろん」
女子っぽいな。いや、普通に可愛い女子だけど。
「海斗は? 甘いものとか」
「んー……市販のお菓子とかアイスをたまに食べるくらい……かな」
「アイスいいなぁ」
もう暑いからアイスが美味しい。
冬で暖かい部屋で食べるのが最高に美味しいという人いるけど、やっぱり俺は王道の食べ方、暑い外でアイスを食べるのが好きだ。
「あのさ、帰りにアイス買って帰ってもいい? 食べたくなっちゃった」
「お、おう」
彼女の食欲に驚きながら、俺は水をすする。
「ここにアイスの店あったかな……」
「わからないな……それは……というかここ来るの俺初めてだし」
「そうなの?」
「まぁ、用事ないしな……」
「なんかぽいね」
そう言って笑う彼女。
他の人が言っていたら怒ってしまいそうだが、彼女がいうからだろう、なんでも許せる気がした。
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