第52話 婚約者、決意を新たにする


~ティア視点~


「ティアちゃんと夏季休暇も一緒にいられるなんて本当嬉しいわ」


フェリシア義姉様がそう言いながら抱きしめてくれる


「ルーク!こんな健気な子はなかなかいないぞ。大事にしろよ」


「わかってるよ。ティアに愛想つかされないように頑張るつもりだよ」


グレン義父様も私のことを褒めて下さる。

私は本当にいい家に嫁げるんだなと改めて実感した。

可愛がってくれる義両親に義姉、そして優しい婚約者。

でも、それに甘んじているわけにはいかない。

今後は貴族派との争いも本格化してくる。

その時に狙われるのは国王派の筆頭貴族であるネーロ家やロッソ家。

しかもルーク君は二度もマクレガー公爵家の思惑を打ち砕いているから狙われる可能性も高いはず。

私はルーク君の弱点になりたくない。

あの時から変わらず思い続けていることだ。


5歳の頃、私は三兄妹の末っ子で7歳上と5歳上のお兄様がいたものの、二人とも学園に通っていて、屋敷ではほとんど一人だった。


周囲に年の近い子もおらず、お母様が忙しい時は本を読んで、友達と話したり遊んだりするのはどういった気持ちなんだろうと考えて過ごしていた。

そんな頃にルーク君はやってきた。


「ティア、あなたの従姉妹のフェリシアちゃんが来てくれたわ。もう一人のルーク君はヨハン義父様たちとお話があるらしいから、フェリシアちゃんに遊んでもらってなさい」


お母様が私の部屋に連れてきてくれたのは、真っ赤な髪の女の子だった。


「はじめまして、フェリシア・ロッソ、7歳よ。フェリシアお姉ちゃんって呼んでね」


「は、はじめましてティア・ネーロです。5歳です」


「あら、じゃあ私の弟のルークと同い年ね」


そう言うやいなや、フェリシア義姉様はこちらに気を遣いながらも積極的に話しかけてくれた。

私は初めて家族以外で年の近い人と話していることを忘れる程会話に夢中になった。


「お嬢様方、公爵様たちのお話が済んだようですのでダイニングへご移動お願いします」


呼びにきたメイドのマーサに続き、ダイニングへ入っていく。

すると目に入ってきたのはヘレナお婆様に抱き着かれて困惑している男の子でした。


「う、ぐるしい。おばあちゃん」


そんな彼のもとへ行き、フェリシア義姉様が私を紹介してくれる

同い年の男の子と会うなんて初めてで何を話したらいいんだろう。


「隣は私たちの従妹のティアよ。ルークと同い年よ」


「は、はじめまして。ティア・ネーロでしゅ!」


あっ嚙んじゃった。どうしよう。


「可愛い…」


「かっ可愛い!?」


あまりにストレートに褒められたものだから、つい何も言えず俯いてしまった

多分顔も赤くなってるんだと思う。

その後はそんな私たちの様子を見た家族に揶揄われながらも賑やかで楽しい食事をとることができた。




次の日からはルーク君と一緒に闇魔法の訓練を行うことになった。

ルーク君は魔法の説明も受けても理解が早いし、すぐに再現してみせた。

しかも無詠唱なんてお爺様でさえ出来ないようなことまでなんてこともなくやってみせた。

でもルーク君は魔法が出来るからって偉そうにしたり、自慢したりせずに私が出来るように丁寧に教えてくれた。


その後お話してみると、ルーク君もよく本を読むことがわかり、お互いが好きな本の紹介など、訓練以外でも自然と一緒にいる時間が長くなった。

この頃から私はルーク君を本当の意味で気にし始めたんだと思う。

魔法がすごく出来て優しい上に、好きな本の話まで出来る。

私がルーク君に夢中になるのはあっという間だった。


最終日には精霊が宿るネックレスをプレゼントしてくれ、なんと正式にプロポーズまでしてくれた。

嬉しさのあまり泣いてしまったけど、ルーク君の隣に立つにふさわしい人間になりたい、そう思った。


その後は8歳の学園入学までは、精霊の目を覚ますことが出来ない限りはルーク君には会わないと決め、魔法だけでなく勉強にも必死に取り組んだ。

たまにお父様やお母様からルーク君に会いに行くかい?と聞かれたけど、我慢して訓練を続けた。

結果、なんとか学園入学前に精霊のマールを目覚めさせ、仲良くなることが出来た。

マールが傍にいるようになってから、魔法の扱いがすごい楽になった。

魔力がまるで血のように身体を循環しているのがわかるし、これまで出来なかった詠唱破棄も出来るようになった。


でも再会したルーク君は王国内でも数える程しか出来ない【エンチャント】が出来るようになるなど私のずっと前へ進んでいた。

ちょっとは追いつけたかなと思ってたけど、やっぱりルーク君はすごかった。


この前のオーク騒動でもこっちが10匹程を相手している間に、ルーク君は50匹以上を相手していた。

カッコよかったなぁ。

いやいや、私も負けてられないなと改めて思った。

そんな時にルーク君が夏季休暇に集中して修行を行うと聞き、絶好の機会だと思い一緒に参加させてもらった。

決してルーク君と一緒にいたいっていう不純な理由じゃない。

ううん。一月以上一緒にいることになるんだし、やっぱりちょっとぐらい期待してもいいよね…?

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