第50話 悪貴族、計画を修正する


~マクレガー公爵視点~



これはルークたちがオーク騒動に巻き込まれた次の日のことである。

マクレガー公爵こと、ラッセル・マクレガーは自身の領地の屋敷にて、夜酒を楽しんでいた。


「公爵様!一大事でございます」


「こんな時間に一体なんだ!人が酒を楽しんでるというのに」


慌ててやってきたのは彼に仕えるマルセロ、ラッセルの右腕にしてマクレガー公爵家のためならどんな悪事にも手を染める狡猾な男


「たった今王都から報せが届いたのですが、坊ちゃまが実験中の【例のアレ】を持ち出し、野営研修中に発動させてしまったとのこと」


「なんだと!!アレは数も少ないからと極秘で保管させておいたはずだ」


「それが…どうも坊ちゃまが何か面白そうな道具だとこっそり持ち出したとのことです。慌てて在庫を確認したところ、2本あったはずが1本になっておりました」


「ブランデンめ、勝手なことをしよって!それでアレを発動させた結果どうなったのだ?」


「野営地にオークの群れを呼び出すことには成功したようですが、誰も始末することは出来なかったとのこと」


「誰もだと!教師陣で倒したのか?それとも騎士団がそんなに早く動いたのか?」


「いえ、そのどちらでもなくロッソ家の次男がそのほとんどを倒してしまったと」


「なんだと!忌々しい!本当に忌々しいガキめ!」


ラッセルは闇魔法が世間一般では危険視されており、今は公爵として王家に仕えるネーロ公爵家も上手く諭せば自身の陣営に取り込めるのではないかと考えていた。

その手段として長男のブランデンにネーロ家の長女娶らせることを計画し、8歳と少し早いがお披露目会で声をかけた。

しかし帰ってきた答えは「既にロッソ家の次男と婚約を結んでおりますので」と断りの一言だった。

いくら貴族として最高位にあるラッセル公爵家であっても、同格のネーロ家に強く出ることは出来ず、傘下の貴族であるスッカラーン伯爵家をネーロ家の次男に嗾けてみたところ、見事返り討ちに遭ってしまったのだ。


「ただ、朗報は今回の件の原因が不明となっており、我がマクレガー公爵家の関与は疑われていないようです」


「しかし、ブランデンがアレを扱うところを傘下の貴族の息子が目にしておろう」


「そこは坊ちゃまがしっかりと口止めした模様です。他の子どもは何が起こったかもはっきり理解していないでしょうから大丈夫でしょう。まさか魔力溜まりに気付くなんてことはないかと」


「ならばよいが。しかし、これで王家の連中に無駄に警戒されてしまうことになった。計画は一旦中止する。【例のアレ】も数が足りん」


「かしこまりました。王都付近で実験中の彼にも伝えておきましょう」


「アイツには王都付近での実験は中止し、アレの生産に努めるよう言っておけ」


「かしこまりました」


しかし、三日後にアイツからもたらされた、『王都付近で実験中だった魔力溜まりが消滅、育てていたホブゴブリンも跡形もなく消息不明』という報せにラッセルが再度激怒したのは言うまでもないことだった。




~ノーナイ・スッカラーン視点~



ノーナイはいつの間にか頭がボーっとなり思考力が奪われていることに気付くことなく毎日を過ごしていた。

野営研修では、派閥の長であるブランデン・マクレガーが何かしたと思ったら急に大量のオークが現れ、無我夢中になって戦った。

本来の彼の性格ならブランデンを捨ててでも逃げるところだったのだが、気が付けば何も考えずに魔法をオークに向かって放っていた。


「ノーナイ!ちょっと来るのだ!」


父親に呼ばれてやってくると、渡されたのは一枚の手紙だった。


手紙はマクレガー公爵家からであり、今回の件は他言無用なこと。

当分はこれまで通りこのまま学園へ行き、ブランデンを補佐するようにと指示が書かれていた。


「お前たちがブランデン様を止めなかったせいで計画が台無しなのだ!」


計画?台無し?父親が言ってることの意味はわからなかったが、これも定期連絡に書かないといけないと記憶に留めることにした。


「あとは今回の件の原因がブランデン様が用いた【例のアレ】だとロッソ家のガキや王家のガキに本当に気付かれていないかそれとなく確認しておくのだ」


父親はそう言い残し部屋を出ていった。

そしてノーナイは手紙の内容や言われたこと、野営研修で見たことの全てを報告書に記載し、夜になるとどこからか現れるカラスに手渡すのであった。

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