第49話 猫貴族、叙爵する
「うむ。ではいよいよ最後の者じゃのう。ルーク・ロッソよ、前に出よ」
「はっ」
「ルークよ。先程も少し触れたが、100匹を超えるオークの群れに一人で勇敢に立ち向かい、そのほとんどを一人で討伐したそなたの功績は凄まじい。よって、名誉男爵とする」
「100体も討ち取ったと!」
「あの時の決闘の彼か!」
「お待ちを!国王陛下!いくらなんでも8歳の子どもに名誉男爵とはいえ、男爵位とはやり過ぎです」
玉座の間がざわついている中、一人の太った貴族が陛下の発表に異を唱えた
「なんじゃ?スッカラーン伯爵。貴様は儂の決定にケチをつけると言うのか?それにそなたの家はロッソ家に一斉干渉しないという約束じゃったろう?あぁ?」
「い、いえ、あくまでも一臣下として、8歳の子どもに対しあまりにも与え過ぎではと愚行しただけでございます」
横槍を入れたスッカラーン伯爵に対し、物凄い威圧感を放つ陛下。
スッカラーン伯爵は顔を真っ青にプルプルしながらなんとか陛下の問いに答える。
「なら貴様なら100体以上のオークの集団に突っ込み、打ち取ることが出来るというのか?しかも周囲には避難させるべき8歳の学生が多数いるという困難な状況でじゃぞ?出来るのか?」
「で、できません」
「なら黙っておれ。他の者にも申し伝えておく。今回のルークたちに対する評価は宰相たちとも相談の上決めた正当なものじゃ。」
スッカラーン伯爵は悔しそうにこちらを睨みつつも口を閉じた。
問題はあったものの、その後は粛々と式典は進み解散となった。
「名誉男爵か~。領地は与えられないって話だけど、旅に出るつもりの僕が貰ってよかったのかな~?」
屋敷に戻った僕は庭先でロッキングチェアに揺られながらクロエと叙爵について話していた。
『そんなに難しく考えなくてもいいんじゃないかにゃ?この国だとハクがいる限り敵に回ることは絶対ないにゃ。あいつは鬱陶しいけど信用出来る奴にゃ』
「そっか。絶対に裏切らない後ろ盾が出来たって考えればいいんだね」
『それよりもこのケーキのお代わりを所望するにゃ』
せっかく良いこと言ってたのに口の周りがクリームだらけで台無しじゃないか。
「はいはい。まずは口拭こうね」
『もっと丁寧にするにゃ』
「ルーク様、辺境伯様がお呼びです」
専属メイドのサーシャが父さんの帰宅を知らせに来てくれた。
まったり出来るのもここまでのようだ。
「残念だったねクロエ。お代わりは一旦お預けだね」
『サーニャ、お代わりのケーキをグレンの部屋に持ってくるにゃ』
「クロエ様!何度も申し上げておりますが私の名前はサーニャではございません。サーシャでございます!」
クロエはどうもサーシャと発音しにくいみたいだ。
このやり取りは王宮でハクから魔力を受け取り、僕の周りの人と話せるようになってからは恒例行事となっている。
『悪かったにゃ。とにかくケーキ頼んだにゃ』
そのままサーシャと別れ、父さんが待つ部屋へ向かう。
「父さん、ルークだよ。入るね?」
おう!という声が聞こえたのでそのままクロエと共に入る。
「まさかルークが叙爵されるとはな。おめでとう!これからは一層身の回りを気につけろよ、貴族派が黙ってる訳ないからな」
「ありがとう。やっぱりそうだよね~」
膝の上で丸くなってるクロエを撫でながら父さんに答える。
クロエも魔力が戻ってきてモフモフ度が上がってきたな~。
これで半分だなんて全快したらどれぐらいのモフモフになるんだろう。
「お前はどうしても目立つからな。辺境伯家の次男としてよりもお前を守りやすくするためにも陛下は爵位を与えたんじゃないかと俺は考えている」
「僕もそう思うよ。クロエとも裏切らない後ろ盾が出来たと考えようと言ってたところだったんだ」
コンコンコン
「お話中申し訳ございません。クロエ様がご所望のクリームケーキをお持ち致しました」
遠慮がちにサーシャがドアの向こうから声をかける
そのサーシャの言葉に一瞬呆けた顔をした父さんだったが、膝の上で喜んでいるクロエを見て諦めたように溜息を吐き、サーシャの入室を認めた。
『さすがサーニャにゃ。あたしの好みをよく理解してるにゃ』
テーブルに置かれるなりケーキに飛びつくクロエを見て微笑ましい気持ちになる。
「しかし、話せるようになったと思ったら食べ物の催促ばかりするのには驚いたな」
父さんのその意見には僕も同意する。
これまでは僕かヴィクターにしか念話出来なかったので、クロエの催促を断ることが出来ていたのだが、最近は使用人たちにおねだりすることでケーキなどの甘味を満足するまで堪能しているようだ。
「私もいるのですがよろしいでしょうか?」
サーシャと一緒に入って来ていたヴィクターが声をかけてくる。
「すまん!クロエに気を取られ過ぎてしまったな!」
「とんでもございません。例の子豚君からの定期連絡が届きましたので、眷属が得た情報と合わせてご報告に参りました」
ヴィクターが報告した内容は僕らの予想を超えるものだった。
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