第27話 涙川

 今日は日曜日、私はお仕事はお休みです。あなたもお仕事お休みですよね?

 ゆっくりできましたか。でもサービス業の方は大変ですよね。日曜日も休みなくお仕事があるんですから。私もサービス業なんですけど。クリスマスも終わり今年も残りわずかになりました。お仕事はお忙しいと思いますが、あまり無理はしないでくださいね。あなたは頑張りすぎる人だからちょっと心配です。


 私は今日はお買い物であちこち歩きました。

 スーパーはお正月用品を求めるお客さんで賑わってました。

 私は食品はあまり買わないのですが、やはり値段が気になります。

 私もそのうち必ず主婦になるのですから。その後はデパートに行きました。

 お正月は実家に帰るので、おみやげを買うためにです。


 母には化粧品を買いました。最近母はあまり化粧品にお金をかけていないのを知っているので、もっとおしゃれをして欲しいと思い、私がいつも使っているブランドを選びました。値段は母には内緒にしておきます。

 知ったらきっと「こんな高いのもったいない」って使わないかも知れないから。


 私が使うのはお仕事のためですし、確定申告の際に経費として計上するんですよ。

 私たちは自営業として扱われていますから。その話はともかくとして、女性はいつまでも綺麗でいたいですよね。あなたもそう思いますでしょ。私はいつまでも綺麗でいるために努力したいです。父へのおみやげもありますが、今はまだ内緒です。


 それともうひとつお買い物をしました。ある人にプレゼントするためです。

 私たちと同じロッカー室に毎日9時までいてくれる美容師さんです。

 お名前は笠井さんといいます。すごくお世話になっています。

 髪が崩れたりしたらすぐにブローをしてもらいます。風の強い日とか雨の日は私たちキャバ嬢のほぼ全員がやってもらいます。料金はかかるんですけどね。

 笠井さんは元は原宿にある有名な美容室にいた人で、私もカットをしてもらったことがあります。このお店にきて笠井さんがいたのでびっくりしました。偶然ですよね。

 

 笠井さんは私たちのことをすごく心配してくれます。

 毎日顔をみているからわかるんですね。ロッカー室の奥にキャスト専用のお手洗いがあるんですが、そのドアーを開けて出てきた私たちの顔をみて、心配ごとがあるんだなとか、悲しい思いをしたんだなとか。


 このお店にはキャスト以外に女性は、会計の担当の人がいますが忙しい人ですから個人的なお話はしたことがありません。

 だから笠井さんは私たちにとって、大切な相談相手でもあるのです。


 お店の中に小川が流れていて、真ん中に滝があるのですが、照明の効果もあってとてもきれいに見えます。その水を循環させるポンプ室が、お手洗いのもっと奥にあって、水の一部がお手洗いの横を流れています。私たちはその流れを涙川って呼んでいます。つらいことも悲しいこともあります。私もなんども泣きました。

 そんな時はこの涙川にすべて流して、ドアーを開けたら笑顔で出てきます。


 でも自分では笑顔になっていると思っても笠井さんはすぐに分かります。

 そんな時笠井さんは、優しく髪に自分の5本の指を通して「大丈夫よ」

と言ってくれます。

 笠井さんの指はフロアーに出る前の、私たちのヘアースタイルを整えるだけじゃなく、私たちの心まで整えてくれます。


 笠井さんには小学生のお子さんが二人います。男の子と女の子です。

 私が買ったプレゼントは、二人それぞれにかわいいお洋服。それとぬいぐるみとおもちゃです。

 クリスマスには間に合わなかったけど、受け取ってもらえたらうれしいな。


 あなたにもプレゼントがあるんですよ。でもこれをいつ渡せるのかな。

 はやく逢いたい。あなたも逢いたいでしょ。私に。


 その日を待ちながら、今夜もおやすみなさい。





















































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