第26話  ライオンの像の前で

 今日はクリスマスですね。あなたはクリスマスをどう過ごされますか。

 恋人と一緒にプレゼントを選び、お食事をしてその後はどこ?

 私はいつもと同じくお仕事です。でも毎年そうなんですけど気持ちは少し複雑です。そう、お客さんの恋人や奥様は今どうしているのだろうって、思っちゃうんです。


 でも私のお客さんは家庭をもってる方が多いんですけど、ちゃんと奥様やご家族を大切にしてますよ。

 独身のお客さんもいますけど今日は来店しないだろうな、きっと。

 それでいいんです。私たちはどうするのかってですか?。それはいろいろです。

 一番多いのはお店が終わってから、本当の彼氏とデートする子です。

 次に多いのはお客さんとアフターする子です。

 一人でクリスマスを過ごすより、誰かと一緒にいたいと思うのはよく分かります。

 だから、これは疑似恋愛なんです。そのあとどうなるか、それはそれぞれ、いろいろです。


 実は私も今日はアフターをしました。

 私がアフターをするのは久しぶりです。普段はあまりしないんです。だから今日は特別です。

 でもね、特別なのはクリスマスだからじゃないんです。

 そのお客さんと一緒に歩きたかったんです。ただ歩くだけのデートです。


 そのお客さんはかってはこの店によく来ていたんだけど、最近は仕事やいろいろ事情があって何年かぶりに来たんですって。


 馴染みの子も今はいないので、私を店内指名してくれたのです。

 そのお客さんのお嬢さんが11月に結婚して、奥様と二人だけの生活になったのね。でも、お嬢さんがいなくなってから、寂しくてしかたがなかったんです。


 そんなお客さんの姿を見た奥様が「あなたの好きなあの店に行ってきたら?」って送り出してくれたんだって。本当に理解のある素敵な奥さまですね。


 その奥様はかっては銀座のお店でホステスさんをしていました。

 そのころはまだお給料も安くて、とても銀座のお店に通えるような身分じゃないって思ってたんだけど、とにかく経験をしてみたくて思い切ってあるお店に入ってみました。


 すると、ほとんどのホステスさんは和服なんだけど、一人だけ赤いドレスを着たホステスさんがいてその子が「うちの店は高いから無理はしなくていいのよ」って言ってくれて水割りを一杯だけ飲んでお店を出ました。


 お店の外まで見送りにきたその子が「もっと安くて明朗会計の店を教えてあげる」と言って、あるお店まで案内してくれて、「私の特別なお客さんだから安くしてあげてね」とマスターに言ってくれました。


 それから何度かそのお店に行ってたんだけどある日、カウンターで飲んでたらいつの間にか横に女性がいて「どお元気?」と言われて、びっくりして見るとその赤いドレスの子がいたんですって。そのときは私服に着替えてたから気が付かなかったのね。


 それから、そのお店で会うようになって、その後は二人で銀座を歩きました。

お金もないしただ歩くだけです。それでも楽しくて楽しくて、あるデパートのライオンの像の前でキスをしてたら、いつのまにか空は明るくなっていたんだって。

 その赤いドレスの子が今の奥さまです。


 だから、今日は私がその人を「特別なお客さん」として歩くことにしたのです。

 ここは銀座じゃないけどね。でも今日は私、赤いドレスです。

 別れるときそのお客さんが「今年のクリスマスはむかし出会った彼女と娘と君の三人に逢ったような気がする。ありがとう」と言って握手をして別れました。


 私にとっても思い出に残るクリスマスになりそうです。

 あなたもいい思い出をつくってくださいね。

 それじゃあ、今夜もおやすみなさい。






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