第25話 イヴの夜はキスの味
私の日記をお読み下さっている皆さまにお詫びいたします。毎日更新をお約束していながら1週間勝手にお休みさせてもらいました。
本当に申し訳ございません。でも許して下さいますよね。いつも優しいあなたなら。
でも私も優しいあなたに甘えずその分を取り戻します。お約束します。
健康上の問題ではありません。お店にはちゃんと出ていましたよ。
年末の稼ぎ時ですからね。お店にとっては。私にとっても稼ぎ時ですからね。
でもお客さんは大変ですよね。忙しいお仕事が終わってから又、飲み会とかあるんでしょ。お付き合いのためのお酒もあるでしょうからね。
でも、ちょっと心配です。そうあなたの体です。大丈夫ですか?無理はしないで下さいね。あなたに何かがあったら私、本当に寝てしまうかも。
明日はクリスマスイヴ、あなたには幸せなイヴの夜を過ごしてほしいから、私も祈ってます。
私は今日もあしたもお店にでます。
本当はあなたとふたりだけのイヴをすごしたいけれど、あなたが見守ってくれてるのを知ってるから、それだけで私は幸せです。
それで、きのうまでうちのお店には特別な曲が流れていました。歌が入った曲です。ふだんは歌が入った曲は流れないんですけど、年末だけの特別な曲です。
ベートーベンの第九です。でも現代風にアレンジしてあるから意識して聞かないと分かりませんけどね。
それで、音楽で思いだすことがあります。高校時代クラスの男の子でバイオリンを習ってた子がいました。その子が私に「ボクが自分で聞いている音は君が聞いている音とは全然ちがうんだよ」と、言いました。
「どういうこと?」と聞くと、
「ボクは自分のバイオリンの音を左の耳とあごで聞いているんだよ」
「あご?」
「ボクはバイオリンをあごで押さえてるから、あごの骨を通して頭の中に聞こえているんだよ」
「へーえ知らなかった」
「ボクの頭の中の音を君も聞くことができるよ」
そういうと彼はヘッドホンのLを自分の耳につけて、Rを私の耳に付けました。
そして「おでこを出してみて」と言って彼は、自分のおでこを私のおでこに付けましたた。そして音楽プレーヤーをかけて「ね、聞こえるでしょ、ボクの頭の中を通った左の音が君の頭の真ん中に聞こえてるよね?」と言いました。
でも私には右の耳の音しか聞こえませんでした。
「変だな、じゃもっと近くにきて」
彼はこんどは自分の鼻を私の鼻につけました。
私はびっくりして「えっ、」っていうとその瞬間に彼は私の口に自分の口をおしつけました。あっという間のできごとでした。
すると彼の歯が私の歯にあたりました。そのとき「カチッ」っていう音が私の頭の中に聞こえました。本当に頭の真ん中で聞こえました。
これが彼の目的だったのね。
私の初キスは彼の作戦によって奪われたました。甘い味ではなくカチッでした。
あんなやつに初キスを奪われたのは悔しかったけど、本当に頭の中が痺れるようなキスを体験したいなって思うようになったのはそのあとです。
お客さんの中にもたまにいるんですよ。キスを要求してくる人が。
お客さんが唇を近ずけてきたら、私も唇をお客さんの近くにもって行き直前で左にかわし、耳元でチュッて音を出します。次に右の耳元でチュッて「今日はここまで、真ん中は今度。ねっ、」
でも、たまには本当に唇と唇が、くっついちゃうこともありますけどね。
でも、音がするようなキスではありませんよ。
それは、あなたとのときだけ、激しく……ねっ、ほんとうよ。
それじゃあ、今夜もおやすみなさい。
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