第8話 金魚のふんと花瓶の水

 キャバクラのおトイレって、女の子がおしぼりを持って待ってるでしょ。

 でも中には「お前が待っると、ゆっくりできない、出る物も出なくなる。だから待たないでくれ」と言うお客さんがいます。


 今日も「おまえ、俺のあとをついてくるなよ」と言って席をたったお客さんに

「私は金魚のフンになります」と言って、お客さんのあとについていきました。 

 お客さんは用をたして出てきたとき、

 「俺はフンをしてきたから、こんどはお前がフンをしろ。俺がお前のフンになる。どこまでもくっついて離れないからな。覚悟しろよ」と、しゃれが上手なお客さんでした。


 私がトイレに行きたいときはお客さんに「花瓶の水を替えてきます」と言います。

 指名してくれて、よく知ったお客さん専用です。

 これはキャバ嬢はそれぞれ自分だけの言葉を持ってます。

 だから、どこでも同じってわけじゃありません。

 共通してるのは水をイメージできることです。


 私のこの言葉の意味を知ってる人は、20人くらいいます。

 今日のお客さんにも教えてあげました。

 だから、あなたにキャバ嬢がトイレ隠語を教えてくれた時は、あなたを特別なお客さんとみとめた証拠よ、がんばってください。


 トイレの話はこれくらいにしましょうね、

 今日も素敵なお客さんに、たくさんお会いしました。


 若い今時の格好をしたひとです。話をどうしても美容整形に持っていこうとしました。

 キャバ嬢はみんな、整形をしてるって思ってるのね。

 確かに半分くらいはやってると思う…もっと多いかな?

 一般の女性の平均、どれ位かは知らないけど、確かにキャバ嬢の方が多いと思います。でも分かってください、〈顔が命〉は人形だけじゃないのよ。


 見たことあると思いますが主に渋谷を流してる、大型トラックで全体が巨大なスクリーンになってる宣伝カー。

 あれのスポンサーって、キャバクラが圧倒的に多いでしょ。

 あの巨大スクリーンに写っている子って、かわいい子ばっかりですよね。

 あれがキャバクラのイメージ像なのね。でも実際はそおうまくはいきません。

 面接にくる子があんな子ばっかりなら、キャバクラの店長は苦労しません。


 私、最近考えてたことがあったので、このお客さんに試してみました。

「お客さん、劇画のような顔ね」

「えっ、劇画?」


「劇画の主人公って、みんなアゴがとがってるのよ、知ってた?」


 今の時代、劇画の主人公って言われて、嬉しくないひとはいないと思います。

 特に若い男の子は。

 このお客さんも「そうか、俺は劇画のような顔か」と言って、すごく喜んでいました。


 ほんとうは丸かったり、角型だったりするんだけど、見る角度によって瞬間的にそう見えることもある(と思う)…?

 フフフ上手くいった。今日は大成功、自分の顔の話になると、女の子の整形の話はできなくなると思うから。


 普通はお客さんの顔の話は絶対にしてはいけないことです。でも劇画は別です。

 誰もが笑顔になる特効薬です。「あごがとがっている」これを忘れないで下さい。


 それでこのお客さん自動車の整備士さんだったのです。板金塗装の。

 たたいて、盛って、塗る、私たちの化粧と同じだったのね。

 それで話の切替がうまくいっちゃったのね。


 でも「誰かに似てる」ってのは、逆効果になることが多いんですよ。

 だれそれさんより上ってことは絶対にないから。

 使いたくないし、使って欲しくないです。

 だから、アニメの主人公がいいのです。

 お勉強したいと思っているあなた、あなたにおすすめは少女向けアニメかも?


 私のおすすめ聞いてくれる?


 「僧侶と交わる色欲の夜に」……すごいタイトル。

 

 これ見たら眠れなくなりそう……それじゃあ、今夜もお休みなさい。

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