第19話 挑戦する者たちに囁くマドンナ

 高校生生活を謳歌する少年少女たちの最もうれしい季節がやって来る。暑い夏は思い出を作る自然が与えたステージである。少年少女たちは夢を追い、夢をかなえる道を探し、それぞれの夏を迎える。隼人はサッカー部でレギュラーの座を獲得する道を走り続ける。


 中学生の夏も同様である。未来の自分を描くキャンバスは、少年少女たちの前に

 すでに敷かれている。なにを描くか、それもそれぞれの道。杏里は高校生になって吹奏楽部に入る夢を描いた。仲間と呼吸を合わせ曲を完成させる。

 繊細で豊かな知識と高い技術を求められる。

 時には運動部の仲間たちの応援もする。魅力あふれる部活である。

 その為にはまず高校入試が待っている。杏里の夏は暑く辛い受験勉強の夏となる。


 杏里の仲間であったあの少女二人にも変化は起きていた。リーダー格であった杏里の姿に触発されて未来の夢を描く。一人は演劇部を。一人はダンス部を。

 彼女たちにもまた暑く辛い受験勉強の夏がやって来る。


 俊介のテニス部は夏休み期間中は他校との練習試合が行われる。

 練習とはいえ負ける訳にはいかない。今日からは休日も練習をする。

 俊介の夏は厳しい特訓の夏となる。


 親から押し付けられて受験勉強の真似をしていた最低の気分だった日。

 冴子のショーをみて興奮した日。杏里と知り合い初めてセックスを経験した日。

 その杏里から別れを告げられた日。冴子の車に乗り大人の女性の匂いの空間に浸った日。二人で食べたおいしい食事の日。

 俊介はこの夏を迎える前に忘れられない思い出をすでにいくつもつくった。

 もう一つ待っているものがある。冴子のプレゼントのTシャツデビューの日。


 俊介は冴子のプレゼントのTシャツにまだ袖を通していない。練習の時はテニス部支給のシャツを着る。母が買ってくる普段のシャツは俊介には選択権がない。

 デザインの好みは無視される。冴子とファミレスに行くときが晴のデビューとなる。その日は練習の休みの日。熱くうれしい日曜日が予想される。


 だがその日がまだ来ない。冴子からはまだ電話番号を教えてもらっていない。

今までは無言のままでも意志の疎通はできた。逆にあのテニスショップの帰りファミレスで昼食を食べたあの日から通信は途絶えている。幸せのなかにも一抹の不安は残る。


 期待は日ごとに大きくなり、成長を続ける体を追い越してもう一部では溢れていた。

 下着は何度もぬらした。高まる期待の裏に差し込む不安はさらに大きくなり、知らぬまに若さゆえに起こる、希望と理由なき悩みを抱える少年になっていた。


 冴子はブラインドの角度を下向きにした。俊介は窓のカーテンを閉めている。

 通信を再開するには新たな技術開発が必要となる。


 敦也はゴルフ以外に趣味がない。今までは日曜日はゴルフ場にいた。だがさすがに真夏のゴルフは厳しい。これからは日曜日は家にいる。敦也の夏は朝から冴子との営みができる、嬉しい夏はすでに始まっていた。

 日は昇り各戸の窓は閉じられ、マンションの屋上に設置されたA/Cの室外機が吐き出す風が熱い。

 爽やかな風に包まれた室内は、敦也のゴルフボールを打つ勢いそのままに、冴子の丘陵コースに挑戦する。敦也のホームコースは丘陵コース特有の難しさを備えている。ホームコースといえどもまだまだ敦也の知らない部分が残っている。

 自然を生かしたコースには胸のような丘もあれば林もある。おへそのようなディボットもある。難攻不落の18番ホールにカップインするのに今日は2時間を要した。満足感は大きい。


 冴子も敦也の好プレーの連続にゴルフの楽しみを共有した。

 ホールアウト後も体は熱い。

 だが冴子の脳裏には次のステージが描かれていた。主演は冴子。

 共演は誰にする。

 俊介か。だがまだ若い。隼人か。俊介はやっぱり次の次だった。










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