第17話 S&Sー0715

 冴子のマンションの近所にガソリンスタンドがオープンした。最近はガソリンスタンドの閉店は多いが新規出店は珍しい。地域住民にとっては嬉しいニュースである。

 折り込みチラシが各戸に配られた。新規オープン記念先着100名様記念品贈呈。

 記念品はともかく当日は混雑が予想された。


 日曜日、敦也は河川敷にあるゴルフ練習場へ行った。俊介のテニス部の練習もお休みである。連日の厳しい練習に俊介はへとへとになっていた。へとへとになっていたのは道具も同じである。ポリエステルのストリングは消耗品である。張替の時期が来ていた。部活に必要な経費には両親はお金を惜しまない。あの国道沿いのテニス用品店まで歩いて行くことにした。トレーニングと考えれば歩くのも悪くはない。俊介はラケットを握り素振りをした。シャツを脱ぎ上半身裸の汗ばんだ体を窓から突き出した。向かいの窓には冴子がいた。


 手に何かをもって笑っている。チラシのようである。俊介は中学生になってから毎日新聞を読むようになっていた。内容はほとんど理解できないが、大きな文字で書かれたところだけざっと読む。読んだ気になるだけだが恰好はつく。チラシは母専用だがこれもざっと見る。冴子が掲げたチラシの大きなオープンの文字は今日の朝刊に入っていた。ガソリンスタンドのオープンも俊介には関係ないが冴子のサインであることは間違いない。明かりの点灯と消灯で通信を交わしてきた仲である。ガソリンスタンドで会いましょうの意味はすぐに分かった。冴子が窓から離れて奥に消えた。

 今からすぐに行くの意味も分かった。


 先着100名の記念品はすでにない。給油を待つ車の列は5~6台。冴子が給油を終えた、ちょうどピッタリに俊介が現れた。今日は後部座席ではない。助手席に座った。

最後尾にシルバーのメルセデスがいた。


「俊介君、よく練習してるようだね」グリップのすり減り具合から店員さんはすぐに分かる。「同じストリングでテンションを少し変えてみようか、52ポンドでどうかな」俊介には意味不明だがすべてお任せである。「俊介君、来年は体も成長していると思うからもう少し重めのラケットにしたらいいね。300g位がいいと思うよ」

 体の成長と聞いて冴子のブラの下の乳房がピクンとした。


 ストリングの張替を待つ間冴子は店内に陳列されている各種テニス用品を見た。

 振動止めという小物があった。ストリングの間に挟みグリップに伝わる振動を減衰するものであるらしい。ゴムでできている。打球音も変わる。

 使用目的は何であれ可愛いデザインが多い。顔の形や太陽の形などがあった。

 AからZまでアルファベットがあった。

 冴子はSを2個と&を選んだ。S&S 冴子と俊介。

 約1時間で張替は終了した。グリップも巻き替えた。


 ファミリーレストランで俊介はハンバーグとライスの大盛を瞬く間にたいらげた。

 豚肉のソテーとエビフライを追加した。それでもまだ足りない。メニューの各ページの写真にある中で目立つものは全て制覇した。最近は夫敦也の食欲が落ちてきた。

 男のモリモリ食べる姿を見るのは気持ちがいい。冴子も久しぶりに満足した。


「俊介はテニス選手では誰か好き?」

「マリア・シャラポア」

 俊介の返事は冴子にとってこれも嬉しい返答である。マリア・シャラポアは世界中の男性テニスフアンを魅了した美人選手である。年齢は多分30代半ばだろう。

 冴子よりも歳上である、俊介は歳上が好きなんだ。改めて自信が湧いてきた。

 男は食欲旺盛な頃は歳上を好む。食欲が減退した頃からは年下を好む。基本通りである。冴子のブラの下がまたピクンとした。


「俊介、ラケットを見せて」張られたばかりのラケット面に振動止めを挟みTシャ ツを載せ俊介の前に差し出した。

S&S 冴子と俊介 Tシャツの左袖の№は0715 7月15日は記念の日になる予感

がした。











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