第11話 ホテルのバスは雪だるま
冴子は今日も助手席に敦也を乗せて走る。敦也は昨夜はゴルフの後にお酒を飲んで、午前3時にタクシーで帰宅した。車は新宿のビル地下場に置いてきた。
今は月曜日午後3時。今日の敦也は2日酔で仕事にならない。お休みである。今向かうのはグランドではなく、新宿のビル駐車場に敦也のBMWをお迎えに行くところである。
昨夜も今朝も夫婦の営みはなかった。スッキリしない目覚めである。冴子はとあるホテルの地下に車を入れた。「おいここは違うぞ」敦也は慌てた。自分はこのラブホテルに車を置いていない。冴子は答えず空いているスペースを見つけると、エンジンを切った。ほぼ満車である。
ホテルの入口の空室ありの緑のサインが満室を示す赤に変わった。
冴子と敦也がラブホテルに入るのは何年ぶりだろう。
最後に入ったのは結婚前だから2年くらい前か。
案内された部屋は昔も今も雰囲気は変わらない。
だが自宅の寝室とは大違いである。
この怪しい暗さと電気の色は、ラブホテルでしか味わえない。
敦也は冴子の粋な計らいに屈した。ライオンの口からお湯が流れるバスルームは二人で入るにも十分な広さである。マンションのバスルームは狭い。久しぶりに二人で入った。泡に包まれた敦也の体の一部は雪だるまを横にした姿に似ていた。冴子の胸は雪国のかまくらの形に見える。ラブホテルとは大人も小どもも遊べる遊技場であるらしい。冴子のメルセデスがホテルの駐車場を出た時は午後6時を過ぎていた。
隼人の練習も終わっていた。
☆☆☆
練習を終えた隼人は用具の整理をする。グランドを回り点検をする。
ネットの点検を済ませたが誰もいない。
昨日も一昨日も連絡をしなかった。怒っているのだろうか。ここしばらく杏里にも連絡をしていない。杏里の方からも連絡はない。なんとなく不安な気持ちになりスマホを手にしてはポケットに収めた。杏里のことだからほかの誰かと付き合っているかも知れない。知りたいけど聞くのが恐い。
もし本当にそんなことになっていたらどうしよう。隼人は高校生になって杏里と逢う時間が少くなるごとに杏里の心が自分から離れていくような不安を抱えていた。隼人は杏里にラインを入れた。
「どうしてる?」
「なにもしていない、行ってもいい?」
もうそろそろ母が帰って来る時間だ。
「今日は来てもできないよ」
「じゃあ行かないわ」
と、ラインの交換はあっさり終了した。
隼人は悩んでいた。自分は杏里を愛しているのだろうか。杏里はどうなのだろう。
ただSEXだけの関係なのだろうか。今まではやれるのなら誰でもいいと思っていたのは事実である。だが杏里と距離を置いて考えることが多くなっていた。
セックスを重ねるごとに徐々に段々と杏里を好きになっていく。SEXが少なくなると徐々に好きと思う気持ちが薄くなっていく。
いま誰かが現れたら完全に杏里のことは忘れてしまう。それでいいのだろうか。それでは杏里が可哀そうだ。隼人は高校性らしい考えができるようになっていた。少し大人に近ずいていた。
あの女の人に連絡をすれば杏里とは完全に終わる。杏里とSEXが出来る部屋はなくなったが別れたくない。いっそ杏里に彼氏が出来たらいいのに。
隼人の心は複雑に揺れていた。杏里にも冴子にも連絡ができない心理になっていた。
杏里は最近グループと離れ一人でいることが多くなっていた。隼人と付き合って約1年、隼人の部屋にいるのがもっとも楽しい時間だった。その隼人はサッカーに夢中で自分には関心が薄れたのだと思っていた。SEXだけなら俊介がいる。だが気持ちは隼人と離れられなかった。隼人を愛してる。自信をもって言える。隼人と逢えないのはサッカーのせいだ。あんな部活などないほうがいいのに。杏里は隼人の気持ちを引き寄せる方法を考えていた。
☆☆☆
冴子のメルセデスはB3-405に帰った。B1-204のBMWは空である。
新宿の地下駐車にまだ置いたまま。ゴルフの疲れの抜けぬままあのラブホテルで冴子との戦いに臨んだ結果疲れ果て、今日の運転を諦めたのであった。
もちろん今夜はあれをできるわけがない。
冴子と俊介の通信は今夜もできなかった。通信は二連休であった。
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