第10話 手に入れるものとは何か
俊介は杏里に言われた避妊具を買うため、ショッピングモールの中を歩いていた。
ショッピングモールの中には洋服店、バッグ店、時計店などたくさんの店が入っている。この中からどうすれば避妊具のある店を探せばいいのか、考えてもなかなか分からない。「コンドームはどこの店にありますか」と聞くことなどとても出来ない。
ショッピングモールは巨大である。数百の店舗がL字型の通路の両側にずらりと並びそれが3階まである。俊介はもう何kmも歩いたような気がした。だが諦めるわけにはいかない。何しろ杏里とのSEXが出来るかどうかがかかっている。
ショッピングモールの中央広場の真ん中に、丸い一段高いステージがある。ピアノが置いてあり日によって演奏される。今日は演奏が無い。しかし歩き疲れた買いもの客の休憩場所として常にたくさんの人がいる。
その中に杏里のグループの少女が二人がいた。杏里はいない。少女のひとりが俊介を見つけた。大きな声で「俊介、今日はひとりなの杏里は?」
彼女たちにはすでに俊介は、杏里の恋人と認知されているようであった。
俊介はこの子らに聞いてみることにした。この子たちなら避妊具の話も平気でできる。俊介は勇気を出して聞いてみた。
「避妊具はどこにあるの?」
勇気をもって聞いたつもりだが彼女らにはよく聞こえなかった。俊介の声は蚊の鳴くような小さな声であった。
「なに?」俊介はもう一度少しだけ大きな声で「避妊具」
「ヒニング?あー、コンドーム」大きな声であった。
周りの人たちが一斉に俊介の方を見た。恥ずかしくてやっぱり聞くんじゃなかったと少し後悔した。
「もしかして今日やるの?」もう一人がこれまた大きな声で聞いた。
「うん」俊介はうなずくしかない。
「やっぱり、じゃあコンドームいっぱい要るね」
彼女ら二人の大きな声で周りの人たちには、会話の内容がすべて分かってしまった。
少女たちが俊介を案内した場所はさっきも通ったはずだ。なぜ分からなかったのだろう。ショッピングモールの中のキーテナントのスーパーの売り場であった。
衛生用品売り場と書いてあった。薬が主役である。俊介は避妊具とは赤ちゃん用品売場にあるものと思ってた。逆であった。
避妊具を使わなかった人が使うのが赤ちゃん用品だと納得した。
種類がたくさんあった。値段もいろいろ。一箱450円から1200円まで幅がある。中間の600円を手にとってみた。12回分で600円。1日に3個使用する。本当は1日4個はほしい。すると3日分となる。俊介の小使いから毎日200円は大きい。
一番右側に6個パックがあった。1800円、俊介は計算した。4個使っても1日あたり100円になる。最初の出費は大きいが結果は得だ。もう一つ理由があった。裸のままの避妊具をレジの女性の前に出すのが恥ずかしかった。6個パックはきれいな色の包装紙で包んである。
無事に避妊具を手に入れた。さあ帰ろう。中央広場の前で二人が俊介をまっていた。
「ねえ、見せてどんなの買った」洋服を買ったわけではない。見せるものでもないが
少女たちにとっては興味がある。少女たちの手によって、その場で包は開かれた。
俊介の避妊具は大勢の人たちの前にさらされた。
「ねえ、1個ちょうだい」「私も1個」
結局残りは4個。俊介はこの日もたくさん学んだ。女は金がかかる。男はつらい。
今日は日曜日である。土曜と日曜はサッカー部の練習はない。
冴子は少年から連絡がくるのを待っていた。ラインで繋がるには待つしかない。
昨日も一日まっていたが来なかった。電話番号は伝えてある。電話を待ち続けるとは遥か昔のメロドラマのようだ。電話しか通信手段が無かったころのメロドラマとは。
(すれ違いの連続で、ようやく逢えたふたりには、結ばれない運命が待っていた)
こんなストーリーが多かった。
冴子はこんな空想物語を今の自分に置き換えて、待つのも楽しいことだと納得した。
敦也は今日もゴルフに行った。帰りは遅い。一人で食事をする。テーブルには生ハムにサラダ。カニが入っている。メインディッシュは白身魚のソテー。
初めて一人でワインを飲んだ。少年と食事となればどこへ行けばいいのだろう。
運動部の少年が満足できる食事とはどのようなものなのか、見当もつかない。
そもそも夜、二人で食事ができるのか。考えても回答は見つからない。
それはその時のこと。
ワイングラスの横にはスマホを置いてある。まだ鳴る気配はない。
午後8時。次の次の少年が待っている。だが今夜は一人ショーはできそうもない。
次が来ないのだから。
冴子は明かりを消した。「ごめんね」「ボクは買えたよ」
それぞれの夜は今日も更け行く。
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