第9話 戦いの痕跡とプレゼント大中小

 冴子の白いメルセデスは快調に走る。B3−204とは対象的にB3405は常に空いている。五反田の彼女と翔馬は今日はすでに戦いを終えていた。

 時計は午後12時を回っていた。翔馬は2時間彼女と過ごした。そろそろ仕事に戻らねば。

 ネクタイを締めあのスッキリ爽やかなビジネスマンに変身する。その姿に彼女は再び抑えられない欲求を覚え、再び戦いの場に戻る。この日は遂に4時間を超える長編ラブストーリーのヒーローとヒロインを演じた。

結局この日、B3-204のシルバーのメルセデスが二人を乗せてマンションを出た時は、午後3時を過ぎていた。


 冴子はもうグランドにいた。サッカー少年たちが現れるまでまだ30分あるが待ちきれない。憧れの少年たちを追う少女たちもまだいない。冴子は一番乗りである。

 少年たちが現れた。あの少年もいる。一番大きな用具入れを持って。肩から下げたドリンクのバッグが重そうに見える。

 練習が始まった。フエンスの周りには少女たちの姿も増えてくる。

 今日は5人いた。


 冴子は車のドアーガラスを下げ、シートを少し後ろに倒し、ゆったりとした姿勢で

少年たちを見る。少女たちとは違う大人の女を見せつける。

 助手席にはドリンクと丁寧に包装されたTシャツが載っている。

 あの少年は昨日と同じ場所で一人で走る。時々冴子の乗る白いメルセデスの方に顔を向けるが遠くて表情は分からない。

 休憩の時が来てあの少年は今日もまた先輩の少年たちの世話をする。もう淡いブルーのシャツは汗でミッドナイトブルーに変わっている。


 午後6時、練習は終わった。少年たちは引き上げる。あの少年だけは用具の整理をする。

 冴子の視線を背中に感じながら。やがて最後の仕事、ネットの点検をする。冴子も車を降りフエンスの近くまで歩み寄る。手にはドリンクとTシャツの包を持って。


 少年はやや照れながら白い歯を見せた。「これいる?」ボトルを見せた。「うん」

 声はなくてもすでに二人には無線通信ができていた。


 冴子は先ずボトルを投げ入れた。キャッチした少年はにっこりと笑った。

 まだある、冴子は包を投げ入れた。少年は予想していない冴子の第2投に危うく落としそうになりながらキャッチした。驚きの顔を見せた少年は全速で走っていった。

 しっかりと包を抱えて。

「じゃあね」冴子は少年の背中に手を振って車に乗った。


 午後7時敦也が帰宅した。手に何か持っている。「目をつぶって」 敦也は冴子の背後から抱き寄せ、冴子の肩越しに冴子の顔の前で包を揺らした。目を開いた冴子の前に現れたのは銀座の高級宝飾店の四角い包であった。


 包を開き冴子は声を上げた「わあー、すごい」冴子の喜ぶ声に敦也も満足気に言った。「大したもんじゃないよ」

 ダイヤモンドを散りばめたロレックスが、大したもんじゃないとは敦也も役者である。


 今夜の二人の激しさはもう予想できた。

 待ちきれぬとばかりに八時にはもう二人はベッドにいた。

冴子の声は途切れることもなく、チェロのような低音の調べからバイオリンの高音まで合奏するように休みなく続いた

 二人がともに果てるのは、1時間30分後であった。


 いつもより早い開幕に俊介は、せっかくの冴子からのショーのプレゼントも、後半の半分しか見ることが出来なかった。

 だが内容の濃さは補って余りある。十分満足できた。これ以上見るのは体に悪い。 


「ごめんね、半分しか見せれなくて」

「大丈夫です。満足しました」

 光通信は繋がった。

 今日も幸せな一日が終わった。















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