第8話 誤解とブランドTシャツ
冴子のメルセデスの助手席に初めて敦也が座ることになった。
敦也のBMW が車検のためデイラーの工場にある。工場まで敦也を送ることになった。エレベーターに乗りB3のボタンを押した。地下駐車場でドアーが開き冴子と敦也の二人は歩き出す。その時冴子は一瞬、何かが物陰に動いたように感じた。
翔馬と五反田の彼女であった。分かれのキスを他人に見られたくなかった。翔馬はその場を取り繕うとした。
「どーも冴子さん、車の調子どおですか?」
「調子いいわよ。雨宮さんも調子よさそうね」
何気なく言ったつもりであったがそれぞれに誤解が生まれた。
敦也は思う…このセールスマンは客と関係を持つ男か。確かに女にモテそうな
イケメンだ。もしかしたら冴子にも手を出してるんじゃないか。
翔馬の彼女は…この上の階の女、自分に嫉妬している。翔馬のことを本当は好きな
んだな。
翔馬は……冴子は夫と上手くいってないな、おれのことをきっと好きなんだ。
「雨宮さんも調子よさそうね」冴子が言ったこの一言が誤解の基になったのは事実だが冴子自身は何も感じていなかった。
敦也はBMW のデイラーの前で降りた。「今日は帰り少し遅くなるかもしれない」
冴子は理由を聞かなかった。敦也を信用しきっているから。
さてこの後どうしよう。あの高校のグランドにサッカー部の生徒たちが集まるのは
午後4:00であった。
そうだ、あの子に何かプレゼントしよう。
冴子はデパートへ向かった。
高校一年生の男の子。いろいろ考えたが何が喜ばれるのか全く分からない。
相手が大人なら分かる、ネクタイとかアクセサリー。だが相手は少年である。
しかもまだ話をしたことも無い。当然好みも分からない。
考えた末、冴子はTシャツを選んだ。それには訳がある。あの汗でミッドナイトブルーになった元の色は薄いブルーのシャツ。
冴子の頭に残る彼の印象はシャツと汗であった。
紳士用品売り場を歩く。ある海外ブランドのケースの中に数種類のTシャツを発見した。Tシャツと言えども侮ることなかれ。有名海外ブランドは結構高価である。
だがむしろプレゼントには好適である。ブランドのロゴマークが輝いている。
あの子にピッタリだ。
「プレゼントですか、お包みしましょうか?」
店員の女性の言葉にも、この品がプレゼントに選ばれるものであることを物語っている。
包装する前に冴子は書いた。パッケージの透明のビニールにマジックインクで、
090-○○○○ー○○○○ ラインしましょと付け加えた。
俊介のスマホに杏里からラインがあった。「今日だめ?」だめなはずが無い。
「すぐ来て」
杏里とは今日は2度目である。俊介は前よりも上手になったと言われたくて、勉強していた。特に避妊具の取説は何度も何度も熟読した。受験前の勉強とは違い、小さな薄っぺらい紙に書かれた取説はボロボロになっていた。
杏里は久しぶりであった。隼人は最近自分とのSEXよりサッカーに熱心である。
隼人の部屋は無駄に空いていた。隼人さえその気になれば、いつだって出来るのに。杏里の心は徐々に俊介に移りつつあった。
終了後、杏里は俊介に新しい要求をした。
「避妊具はこれから俊介が用意してね」これは結構大変なことである。
どこへ行けば買えるのだろう。高価なものかも知れない。
「一緒に行って」
「駄目よ一人で行って、男でしょ」
乗り越える壁が次々と現れる。俊介の男になる旅はまだ続く。
☆☆☆
冴子は一人で敦也を待ったが今日は帰りが遅い。一人でショーを演じてみようと考えてはみたがもし途中で敦也が帰ってきたらどうしよう」と思うとできなかった。
初めて冴子は演じぬまま幕を降ろした。
「今日はごめんね見せれなくて」
「ボクは杏里とできたよ」
今日の光通信は俊介からの片方向であった。
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