第2話 映画のシーンのように

 マンションの7階の東向きに少年、隼人の部屋がある。もうすぐ恋人の少女、杏里がやってくる。隼人は窓の外を見る。道路を挟んだ向かいのビルの1階にあるコンビニに杏里が入るのを隼人は見た。もうすぐこのドアーの外に杏里がやってくる。

 隼人はドアーの前でチャイムが鳴るのを待つ。チャイムが鳴る。隼人はすぐにはドアーを開かない。10秒数える。ドアーを開けると無言で彼女を抱き寄せてキスをする。


 隼人の背中に回した杏里の右手からビニール袋が離れ、落ちたお菓子が床に散らばった。気にもせずにふたりはキスを続ける。逢える喜びを表す最も恰好のいいシーンを演出する。いつかふたりで見た映画のワンシーンをそのままやってみた。

ソフアーに並んで座り再びキスをする。映画のシーンの真似はまだ続く。


 一時間かけてベッドシーンごっこが終わると杏里が用意したポテトチップスを食べ、甘いジュースを飲み子どもらしい時間を過ごす。ふたりは並んでそれぞれ別のアニメを見る。少年は劇画を、少女はSEX満載のラブコミックを。杏里は再びキスを求める。

 隼人は映画のシーンの真似をして、仕方なさそうな顔をつくり杏里の求めに応じる。隼人は再び杏里の着衣に手をかけた。

だが、杏里が母の鏡台の中から失敬した避妊具は、残り一個になっていた。


「これが最後だからね、時間を掛けて、しっかりやってね」

「うん、分かったよ」と、三回目が始まった。

 

 杏里は映画ではなく、自分の見ているラブコミックのような、濃厚なシーンを演じてみたいと思っているのだが、今日は隼人が演出の順番である。次のデートでは杏里の考える演出で2時間を過ごす。杏里はラブコミックのような甘いSEXシーンを演じるヒロインになる。今日以上の激しさで。


 隼人は中学3年生、杏里は中学2年生。同じ学校の生徒である。隼人の父は単身赴任である。今は九州にいる。母はパートタイマーで7時に帰る。それまでの2時間が二人の時間である。


 杏里はそれほど遠くないマンションに住む。両親はともに教師で帰りの時間は決まっていない。

 母が帰宅の途中で惣菜店に寄り、食事のほとんどを用意する。杏里が母の手造り料理を食べるのは年に数回しかない。隼人と知り合うまでは放課後はほとんど繫華街をぶらつく毎日であった。濃い化粧をして。同じ学校に仲間が数人いた。男友達もいるが彼女たちと本気で付き合いたいと思ってる男友達はいなかった。そんな杏里に隼人が話しかけるとその日から恋人関係になった。彼女は実際は寂しかったのだ。

 ふたりともこの日が始めての異性体験であった。


 隼人の部屋は杏里の避難場所であった。隼人といると心は満たされ幸せを実感した。

 隼人は杏里と知り合うことで仲間から一目置かれる立場になった。SEXを自由にできるのは、いかに自由な男女交際が認めらていても、ある意味の力を必要とする。

 女をモノにした。それだけで男たちの間では優越的立場に立つ。

 隼人は満足感と性の処理をできる相手をモノにした。


 杏里も仲間の少女たちのなかではリーダー各に押し上げられた。

 彼女たちの目標の一つに誰が一番先に「自分はだれそれの女である」と公言できるかということがある

 妙な考えではあるが「自分は○○の女」と言えるのは女が求める理想の一つなのである。少女には少女なりの理想があり杏里はそれを手にした。


 杏里の両親は杏里が世間からどのような目でみられているか分かってはいたが、指導する方法を持ち合わせていなかった。仕事柄いろいろと発言をしてきたが、現実に問題が発生したとしても、解決できる能力はもちろん、向き合う気持ちもなかった。

 隠していたはずの避妊具が毎日少しずつ減っていくのも知っていた。

 表面を繕う偽善者である。暖かい家庭とはとても言えない状況にあった。


 来年春には隼人は高校受験を控えている。杏里とSEXができる生活には満足しているが、遊んでばかりでもいられない。少なくても高校生の肩書は欲しい。

 先ずはどこかの高校に入ろう。隼人は少しずつ勉強も始めていた。




















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