美味しいお餅と、お月さまのウサギ。

無月弟(無月蒼)

美味しいお餅と、お月さまのウサギ

 夜空に浮かぶのは、真ん丸で黄色いお月さま。

 そのお月さまには可愛らしいウサギが住んでいて、毎日楽しく暮らしていました。


 ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん。


 独特なリズムが、月に響きます。月に住んでいるウサギたちが、お餅をついているのです。

 月のウサギは、毎日お餅をついて食べています。お餅さえ食べていれば、病気知らずの健康長寿。とっても体にいいのです。

 月のお餅は万能なのです。


 さて、お餅をついているウサギが、ここにも二人。いつも仲良しの、ウサ吉くんとウサ美ちゃんです。

 二人は今日も、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん。

 楽しくお餅をついています。


 するとウサ美ちゃんが、ウサ吉くんに言いました。


「ねえねえウサ吉くん」

「なあにウサ美ちゃん」

「この前聞いたんだけど、地球のお餅って美味しいらしいよ」

「え、地球? ハハハ、何言ってるの。月のお餅の方が、美味しいに決まってるじゃない」


 ウサ吉くんは笑います。だって月のお餅は、宇宙一美味しいって信じているのですから。地球のお餅になんて負けません。


「うん、そうだよね。月のお餅の方が、美味しいに決まってるよね。だけどもしも、本当に地球のお餅の方が美味しかったらどうする?」

「うーん、そんな事は無いと思うけど。でも気になるんだったら、確かめに行ってみる?」

「そうだね。行ってみよう」


 こうして二人はお餅を食べるため、地球に行く事にしました。


 そうと決まれば早速準備開始です。

 二人はうすにモチ米を入れると、杵で突き始めます。


 ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん。


 ウサ吉くんが杵で突いて、ウサ美ちゃんがこねていきます。

 え? 地球に行くのに、どうしてお餅をついているのかって? まあ見ててください。


 少ししてお餅がつきあがると、二人はそれをこねこねこねこね。何かを形作っていきます。

 やがて出来上がったのは、細長くて先がとんがった、大きな物体。そう、ロケットです。二人はお餅を捏ねて、ロケットを作ったのです。


「「でーきた♪」」


 二人はさっそく、出来上がったロケットに乗り込みます。

 月のお餅は、こねこねしたらロケットにもなるのです。

 月のお餅は万能なのです。


「出発しんこーう!」


 ウサ吉くんがスイッチを押すとロケットは月を離れ、地球に向かって飛んで行きます。

 途中で燃料を補給しながら、地球を目指すロケット。

 ロケットの燃料は何かって? もちろんお餅です。


 月のお餅は、ロケットの燃料にもなるのです。

 月のお餅は万能なのです。


「「お・も・ち! お・も・ち! 月のお餅は宇宙一~♪」」


 楽しくお歌を歌いながら、宇宙を旅する二人。

 やがてロケットは地球へと到着。ウサ吉くんは「着いた着いた」とロケットの外に出ようとしますが、ウサ美ちゃんがそれを止めました。


「待ってウサ吉くん。あたし達が月から来たウサギだってバレたら、捕まっちゃうかもしれないわ」

「それじゃあ、どうするの?」

「あたしに任せて。……ごにょごにょごにょ」

「……うん。……うん、わかった。それでいこう!」


 ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん。


 二人はまた、お餅をつき始めました。

 そうして出来上がったお餅に、食紅で色をつけます。それをさらに薄く平べったく伸ばして、頭からかぶるとあら不思議。

 どこからどう見ても、人間にしか見えないではありませんか。


 月のお餅は色を付けて薄く伸ばすと、色んな物に化けられる化けの皮になるのです。

 月のお餅は万能なのです。


「それじゃあ行こー!」

「行こー!」


 そうして人間に化けたウサ吉くんとウサ美ちゃんは、商店街へとやってきました。

 だけど地球のお餅を食べようにもお金を持っていない二人じゃあ、買うことができません。月のお餅でお金を作ることもできたのですが、勝手にお金を作ってはいけないのです。


 それじゃあせっかく来たのに、地球のお餅は食べられないの?

 いいえ、そんな事はありません。お金が無いなら、稼げばいいのです。

 というわけで、二人は月のお餅を、売る事にしたのです。


「「お・も・ち! お・も・ち! 美味しいお餅はいかがかな~♪」」


 突然現れたお餅売りに、人間達は足を止めます。

 一人が試しに買って食べてみると、そのあまりの美味しさにビックリ。そんなに美味しいなら俺も私もと、月のお餅は飛ぶように売れていきます。


 こんなに売れるという事は、やっぱり月のお餅は宇宙一美味しいんだ。

 普段自分達が食べているお餅を気に入ってもらえて、ウサ吉くんもウサ美ちゃんもとっても嬉しいです。


 そうして二人は稼いだお金を持って、お餅を買いに行きました。

 お餅を買ったお客さんの一人が教えてくれた、和菓子屋さん。ここに美味しいお餅があるそうなのです。


「「くっださいっな~♪」」


 ウサ吉くんとウサ美ちゃんが中に入ると、お婆ちゃんが店番をしていました。

 そしてショーケースの中には、真ん丸としたお餅が入っていました。


「「こっれくっださっい♪」」

「あいよ。ちょっと待っててね」


 真ん丸なお餅を取り出してくれるおばあちゃん。

 ウサ吉くんとウサ美ちゃんは、早速お餅にかぶりつきます。


 柔らかくて、だけど噛み応えがあって、ほんのり甘い。月のお餅も美味しいけれど、地球のお餅だって負けてはいません。


 だけど「美味しい美味しい」と食べるウサ吉くんとウサ美ちゃんでしたけど、食べ進めているとウサ吉くんが「あれ?」と手を止めました。


 お餅とは違う甘い味と、柔らかな食感があったのです。

 驚いてお餅の中を見てみると、そこには見た事もない黒い粒々としたものがあるではありませんか。


「ウサ美ちゃんウサ美ちゃん。お餅の中に、何か入ってるよ」

「本当だ。なんだろうこれ?」


 二人そろってカクンと首をかしげていると、お婆ちゃんがくすくすと笑います。


「何って、あんこに決まってるじゃないか。大福なんだから、当たり前だろう」

「え? これ、あんこって言うの?」

「食べ物なの? お餅の中に、他の食べ物を入れちゃってるの?」


 二人は驚きました。月には、お餅以外の食べ物なんて無いからです。


 月のお餅は、それさえ食べておけば病気知らずで長生きできる、万能な食べ物。それ故にそれ以外の物を食べる必要が無く、月のウサギはお餅以外の物を食べる習慣がありませんでした。

 ですが。


「美味しい! あんこ美味しい! 大福美味しい!」

「お餅にこんな食べ方があるだなんて、知らなかったなあ」


 ウサ吉くんもウサ美ちゃんも、初めての味に大興奮。かじると口の中いっぱいにもちもちした歯ごたえと、あんこの甘さが広がります。

 小豆の一粒一粒が、とても美味。あまりの美味しさに、おかわりまでしています。


 するとそんな二人を見て、お婆ちゃんが笑いながら言います。


「大福だけじゃないよ。安倍川餅やきな粉餅やずんだ餅、それからバター餅。他にもぜんざいやお汁粉。お餅を使った美味しいお菓子や料理は、もっとたくさんあるんだよ」

「「もっとたくさん!」」


 こんなに美味しいものが、他にもたくさんあるだなんて。それはぜひ食べてみたい。


「よーし。美味しいお餅のお菓子や料理を、たくさん探そーう!」

「探そーう!」


 こうして二人は全国各地を津々浦々。お餅を使った食べ物を、次々と見つけていきました。

 そして集めたたくさんのお餅を獅子舞風呂式にくるんで、首の後ろに回してギュ。これで月へのお土産ができました。


「美味しいお餅、たくさんあったねー」

「あったねー。地球のお餅が美味しいって話は、本当だったんだー」

「そうだねー。だけど月のお餅だって負けちゃいないよ。これからは月でも、大福たちを食べられるようにしよう」

「しよー!」


 そうしてウサ吉くんとウサ美ちゃんは来た時と同じようにロケットに乗って、月へと帰って行きました。


「「お・も・ち!  お・も・ち! 大福、ぜんざい、おー汁粉♪ 安倍川もーちにきなこ餅♪ ずんだもーちにバター餅♪ みんなみーんな美味しいよー♪」」


 楽しそうな歌声が、ロケットの中に響きます。

 その後月に帰ったウサ吉くんとウサ美ちゃんは、仲間の皆に地球のお餅料理を広めていき、月でも大福や黄な粉餅が食べられるようになりました。


 だけどこれで満足するウサ吉くんとウサ美ちゃんではありません。きっと地球にはまだまだ、自分達の知らない美味しいお餅があるはず。

 だからまた時々、お餅ロケットで地球を訪れて、地球のお餅料理を探すのです。

 月のお餅を売って、お金を稼ぎながら。


 ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん。


 今日もどこかで、ウサ吉くんとウサ美ちゃんがお餅をついています。

 もしもあなたの街の商店街でお餅を売っている二人組を見かけたら、それはウサ吉くんとウサ美ちゃんなのかもしれません。


 おしまい/(=∵=)\

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美味しいお餅と、お月さまのウサギ。 無月弟(無月蒼) @mutukitukuyomi

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